寄宿生物カネコ!

月芝

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170 カネコ、乱々。

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 漆黒の獣なる群体をごっくんしたベトベトさん。

「おつかれした~」

 とばかりにスチャッ、手を振るような仕草をしたとおもったら、いつものごとくシュルルとワガハイの影の中へ帰っていった。

「ベトベトさんが優秀すぎる。これなら怪人八号のときも任せておけば楽勝だったのでは……」

 いや、アレはダメか。
 全部、呑み込んじゃったら証拠が残らないし。
 にしても呑み込まれたモロモロはどこへ消えているのだろう?
 とっても気になります。

「おっと、いまはそれどころじゃにゃかった。はやく学者先生をシェルターから出さないと、あとでまたグチグチ嫌味を言われるのにゃあ~」

 ワガハイはシェルターの方へと向かった。

  〇

 えらい学者先生と合流したワガハイは、闇の結界から解放されたスぺリエンスの王都へと足を踏み入れたものの……

「うんにゃあ~」
「やはり、か」

 城門をこじ開けて中をのぞいてみれば、そこかしこにあったのは激しい争いの痕跡である。
 建物がいくつも倒壊しては瓦礫の山となり、火事もあったよう。鎮火はしているけど一帯がまだ焦げ臭い。引っくり返ったままの荷車が通りに放置されている。散乱した荷が不特定多数によって踏まれてぐちゃぐちゃ。商店も荒らされていた。民家も無事な窓や扉の方が少ない。
 ヒトの姿はなく、街はゴーストタウンと化していた。

 ちょっと暴動が起きたとかのレベルではない。
 殺伐とした景色は完全に戦場のそれであり、内乱とか革命などの大規模な戦闘が勃発したとおもわれる。
 どうやらえらい学者先生が危惧したように、隷属の首輪の呪縛から解き放たれた奴隷たちが一斉に蜂起したようだ。

 この国は類人至上主義にて、奴隷にされていたのは彼らが亜人と蔑んでいる他種族の者たち。
 虐げられていたのは獣人たちを筆頭にして、リザードマンみたいな竜人、エルフみたいな森人、ドワーフみたいな山人ら。
 力、魔力、容姿、肉体強度などなど。
 単純に個体の能力であれば類人よりも上である彼らが、混乱に乗じて内側より叛旗を翻したとしたら、きっと王都はひとたまりもなかったのにちがいあるまい。

 ワガハイは通りを歩きながら耳をピクピクさせる。
 カネコイヤーを発動しては誰かいないか探してみるも、生体反応は皆無。

「誰もいないのにゃん。住民たちは避難したのかにゃあ? もしくはいっしょになってお城に押しかけた?」
「……わからん。とりあえず城の方へと行ってみよう」

 都の中央にある王城へと向かうことにする。
 ちんたら歩いていられないので、ここからはカネコモービル・エボルヴの出番だ。
 エボルヴならば邪魔な瓦礫もなんのその。
 立ち塞がるものすべてを薙ぎ倒し、撥ね飛ばし、時には建物や壁をガンガンぶち抜いては最短距離を真っ直ぐに突き進む。
 そこのけ、そこのけ、エボルヴさまのお通りだい!

「うにゃにゃにゃ! 不謹慎だけどコレはちょっと楽しいのにゃあ~」
「ズルい。ワシも、ワシもやりたい!」

 とがめる者が誰もいない。
 唸るゴーレム駆動、エボルヴは傍若無人に我が道をゆく。

 ブロロロ……とエボルヴを走らせることしばし。
 周囲より一段高くなった場所に建てられてある王城は、やたらと尖がっておりツンツンしている。搭がいっぱいある。夢の国にあるお城みたいで遠目には見映えがいいけれど、利便性は悪そうだ。逆バリアフリーにてお年寄りに優しくない造り。きっと階段の上がり降りだけで足がパンパンになるだろう。

「あれ、お城の上の方……ちょっと欠けてない?」

 見上げながら不思議そうに首をかしげるえらい学者先生。
 ワガハイは「そうかなにゃあ、気のせいにゃん。もとからこんな奇抜なデザインにゃのでは」ととぼけた。

 そんな王城内もくちゃくちゃにて、ここにも誰もいない。
 みんなみんな、生者も死者も、まとめて闇の結界――漆黒の獣に取り込まれてしまったのだろうか?

「先生、ちょっとコレ」

 場所はムダに煌びやかな謁見の間にて、床にはべったり血のあとが……
 例の愚王がふんぞり返っていたであろう王座、ギャルが喜びそうなデコレーションが施されており、眺めていると目がチカチカしてくる。
 そんなイスの長い背もたれが途中で斜めに斬られており、脇にイスの残骸が落ちている。

「座っているところを正面から斬られたか、それもイスごと……。見事な断面だ。かなりの遣い手の仕業だな」

 つるつるの断面をそっと指先で撫で、えらい学者先生が「ムムム」とうなる。
 どうやら愚王は逃げる間もなく、誰かさんに詰め寄られてバッサリ殺られちゃったらしい。
 まぁ、やりたい放題してきたのだから自業自得である。
 それはさておき……

「せっかくだから宝物庫を漁るのにゃあ。きっと歴代の王さまが貯め込んでいるはずにゃん」
「ん~、それはどうじゃろうのぉ。浪費するばかりしか能がない愚王じゃから、むしろカツカツなのでは。財宝じゃなくて借用書の山ならしこたまありそうじゃが」
「えー」

 なんぞと話しつつ、ワガハイたちは地下の宝物庫へ。
 マンガに登場する大銀行の大金庫みたいな外観。
 あんまり期待するなと言われても、これを前にしたらワガハイ、ドキドキしちゃう。
 でも、いざ重たい扉を開けたらところで「げっ!」
 スカスカどころかみっちりすし詰めにて、なかには大量の亜人たちの姿が……


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