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178 カネコ、出る幕なし。
しおりを挟む「ありましわ、二つ目です」
お面をつけているので表情はわからないが、声音がちょっとうれしそう。
二十五個目のキューブが発見されたのは邸内にある遊戯室にて。
ここは広々とした部屋になっており、ビリヤードやダーツに、木製のサッカーゲームもどきなどもある。本棚やバーカウンターなんぞもあって、壁には刀剣類のレプリカが飾られている。
ごちゃごちゃしているオモチャ箱のような大人の社交場。
「いかにも隠されていそうな場所だにゃあ~」
とか、ワガハイが考えていたら案の定であった。
ビリヤード台にある六つのポケットのうちのひとつに入っていたのを、お嬢さまが見つけた。
自分でも言っていたように、これで二個目である。
一個目は本館の最上階は、お嬢さまが滞在している貴賓室にて発見された。
ふつうに暖炉の上に置いてあった。
あんまりにも堂々と置いてあるので、そういうインテリアなのかと気にも留めていなかったらしい。
まぁ、ぱっと見には紙や書物が風で散ったりめくれたりしないように使う文鎮に見えなくもないし。
ちなみに一個目の発見……
半分仕込みである。最初にこの存在について思い出したのは、お嬢さま付きのメイドのうちのひとり。宝探しゲーム開始直後に自分でもひとつぐらい見つけたいとつぶやいたお嬢さま。それを耳にして「あっ、そういえば」
メイドはすぐに一行からそっと抜けて確認しに行ったという次第。
でも二個目は自力にて。
そしてこれで満足したのか、残りのキューブの探索はみんなにまかせて自身は書斎に向かった。
軽く書類仕事や届いた手紙に目を通すとのことで、書斎まで送ったところでカネコタクシーはいったんお役御免となった。
二十七個のキューブが全部そろったのは、その日の夕方頃。
最後の一個がなかなか見つからなくて、こんな時間になってしまう。
「そんなにわかりにくいところにあったのかにゃあ?」
「ええ、給仕室にあるちょっとした床下収納のなかから発見されましたが、床には厚手の敷物がしいておりまして……」
と執事さん。
ふかふかの絨毯(じゅうたん)のせいだけでなく、床下収納の扉も頑丈な造りだったから、上に乗った程度ではわからなかったそうな。
加えて室内には食器棚とか置いてあり、それをどけないと敷物をめくれない。
「これだけ隠し方がやたらと手が込んでおりまして、宴席の余興の域ではありませんでした。主催者が本当に景品を参加者に渡す気があったのか疑問に感じるほどです」
おかげで給仕室を総ざらいするハメになったとのこと。
でもこの話を聞いてワガハイはさもありなん。
だって生前のリッチーさんがやったことだもの。
いまの亡霊紳士ぶりからは想像もつかないが、当時の彼はマジモンのクズであった。よって素直にお宝をあげたりなんて絶対にしない。おおかた、目の色を変えて探しまわっている参加者らを眺めながら、ブランデーグラスを傾けては「くくく、踊れ踊れ、貧乏人どもが」とか失礼なことを言ってニヤニヤしていたのにちがいあるまい。
〇
二十七個のキューブ。
揃ったところで勝手に合体して、より大きな箱型となった。
3×3×3と縦横の並びにて、くっついたとたんに各個がチカチカ。明滅しては、赤、黄、緑、白、オレンジ、青と六種類の色になった。配色はバラバラである
「なにかしら、これ?」
「奇妙な箱ですね」
変化したキューブを前にして、仮面の令嬢と執事が首を傾げるも、ワガハイには見覚えがある品にて。
「うにゃ~、なつかしいのにゃあ」
それはワガハイが人間だった頃に住んでいた世界にて、累計販売数、五億個を突破し、もっとも売れているルービックなパズル。
このルービックっていうのは、考案者であるエルノー=ルービックの名前が由来にて。
ワガハイがこのパズルについてざっくり説明すると、「なるほど、理解しましたわ」と仮面の令嬢はみずからルービックなキューブを手に取る。
で、カチャ……カチャ……カチャ……
あれこれいじっては、すぐに一面、二面とそろえるも、そこから先がムズカシイ。
これってば攻略法を知らないと、なかなか六つすべての面の色をそろえられないのだ。
ちなみにワガハイ……じつは攻略法を知っていたりする。
どうして知っているのかといえば、週末の暇つぶしとして最適なオモチャだったから。
だから、しばらく様子をみてからさりげなくアドバイスでもしようかと思っていたんだけれども。
カチ……カチ……カチカチ……カチカチカチカチ……
当初こそはたどたどしい指先の動きだったのが、じょじょに滑らかとなり、それにともなってキューブの動きも加速する。
気づけば、目にも留まらぬほどの凄い勢いにてパズルがギュルギュル回転していた。
それこそ世界大会の決勝とか、世界記録更新に挑戦する達人級の動き!
そしてものの五分ほどでお嬢さまはすべての面をそろえてしまったもので、ワガハイは「んにゃあーっ!?」と三つの目玉が飛びでんばかりに驚いた。
「まぁまぁですわね。そこそこ楽しめました」
こともなげにそう言う仮面の令嬢。
いやいやいや! 初見でこれを解いちゃうとか、ハイスペックにもほどがあるでしょう。
あんぐり、開いた口がふさがらない。
そんなワガハイをよそに、解かれたパズルがペカーと輝きを放つ。
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