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193 カネコと月の竪穴。
しおりを挟むよもや、あんなしょーもない手段で必殺技が破られるとは……屈辱である。
エイリアンどもの唾液まみれにされて囚われたワガハイは、おみこしみたいなのにのせられ、お持ち帰りされてしまう。
一行が向かった先は、あのキラキラしていた場所。カクカク、トゲトゲした建物ばかりにて、ふた昔前のマンガに登場する近未来都市みたいな街並み。
だが、それがワガハイの早とちりであることがじきに判明する。
都市部とおもわれた場所の中央には超大は竪穴があって、月の中心部へと向かって続いていたのだ。
つまりこのキラキラ見えた場所は、穴の入り口に過ぎなかったのである。
でもって、一行ってばその穴めがけてズンズン進んでいくものだから「ちょ、ちょっと待つのにゃん!」とワガハイは叫んだものの、すぐに口を塞がれて「もごもごもご」
そうしているうちに、ついに一行の先頭が縁から飛び降り穴の中へと。あとの者らも続々とこれに続くものでワガハイは「!」
これではまるで生贄を捧げる死の行進ではないか。
とっさにワガハイの脳裏をかすめたのは『レミングの集団自殺』だ。
まぁ、あれは実際にはかんちがいで、しょせんは迷信や都市伝説に過ぎないのだけれども。
それはともかくとしてワガハイのことである。
どうにかして逃れようとするもかなわず。
ついには穴の縁にまで運ばれてきてしまった。
体を固定されており、台座の上にのって担がれているから、足下のほうがまったく見えない。
この状態で崖の際に立たされるのは、めちゃくちゃ怖いんですけど。
「んー! んんー! んんんーっ!」
恐怖で涙目になったワガハイにはかまわず、非情にも台座がゆっくりと傾いていく。そしてガッックン! 視界が90度回転し、ワガハイは穴の底へとめがけて真っ逆さまに……
………………落ちて行かなかった。
素知らぬていにて、おみこしは内壁沿いをテクテク壁歩きにて進んでいくもので「あれ?」
落っこちたのかとおもっていた面々も、先ほどまでと同じように列をなしては歩いているし。
どうやらこの竪穴、周縁部および内壁沿いに重力が発生しているようだ。
そのために地表と同じように歩けている。
ばかりか穴の内部はメカメカしい多層構造になっており、たくさんのエイリアンどもが蠢いては何やら作業に精をだしていた。
地上部分はあくまでオマケみたいなものにて、こちらがメインの活動拠点であることは明白にて。
(にゃ、にゃんだこれは? 月の内部、めっちゃ改造されとる!)
どことなく雰囲気がメテオリト大森林にある古代遺跡に似ている。もしかしたらこいつらの親類縁者の作ったモノだったのかしらん。このエイリアンども、どことなくフィルミガっぽいんだよねえ、容姿といい行動といい。
あぁ、フォルミガっていうのは古代遺跡に住み着いていたアリみたいな昆虫の魔獣たちのことね。女王を中心にして爆発的に増殖しては、群れにて一帯を席捲するやっかいな連中であった。
さすがに月そのものが彼らの建造したものではないのだろうけど、どちらにせよ規模と技術がすさまじい。あのしょうもない見た目詐欺な擬態はともかくとして、只者じゃないことだけはたしかである。
(ツクシ型ロケットを作ったのはこいつらで間違いないようだにゃあ。この様子だとワガハイをすぐにどうこうするつもりはないみたいだし、ここはしばらくおとなしくして様子見するかにゃあ~)
無駄に暴れて反感を買ったり、抵抗して体力を消耗するのは愚策。
静かに魔力を練りつつ、チャンスが到来するのを待つべし。
腹を据えたら、とたんに気持ちも落ちついた。
で、あらためて冷静になったところで周囲を観察すれば、あるモノが目に入る。それは……
「へっ、鏡?」
竪穴の底の方にてキラリと光っていたのは、超大な鏡である。
いや、たんに置いてあるのではなくて、その空間そのものが鏡の間になっているかのよう。
さらに目を細めてジーっと見てみれば、空間の中にいくつもの柱みたいなのが立っている。
形としてはビルほどもあるゴン太の蛍光灯を立てて並べているかのようだけど。
う~ん、なんとなく見覚えがあるような、ないような……
記憶を探るうちに、ハッと思い出したのは某ロボットアニメの金字塔である。
いまだにシリーズを重ねているアニメにてプラモデルも大人気なアレの、たしかシリーズ第二作目のラストバトルの舞台になった……
(んにゃ! これってまさか……だとしたらここは都市部なんかじゃにゃい! ここは……)
竪穴の正体に気がつき、ワガハイはサーっと血の気が引いていく。
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