248 / 280
248 カネコ、看破する。
しおりを挟む「あいかわらず個性的な装いで、周囲から浮きまくりだにゃん」
「貴方ほどではありませんでしてよ、フフフ」
などという再会の挨拶を交わす、ワガハイと仮面の令嬢。
このお嬢さま……
じつは王弟の息子の元婚約者だったりする。
王族の血筋に連なる者とそういう関係にあったことからして、彼女の実家が高位なのは言わずもがな。そして貴族の結婚なんて、基本、家同士の結びつきだ。政略婚な場合がほとんど。
彼女の場合もそうであった。
そんなお嬢さまに対して王弟のバカ息子は、こともあろうに婚約破棄を言い渡したのだ。
しかも貴族の子息子女らが通う学園の卒業記念パーティーという、晴れの舞台で!
とんでもないスキャンダルである。
だが、騒動はそれだけでは終わらなかった。
バカ息子が他の女に入れ上げての暴挙だったのだけれども、その入れ上げた女というのが破人の変装した工作員であったのだ。
工作員の目的はエスカリオ国を混乱させることと、そのどさくさにまぎれて王妃さまを暗殺すること。
王族ゆえに、王妃さまと接近する機会があると考えての陰謀であった。
ようは、まんまと乗せられて、暗殺に加担させられてしまったということ!
実際、危ういところであったという。
それを寸前で防いだのもまた、この仮面の令嬢であった。
このお嬢さま、幼少期より厳しく育てられたもので、文武両道の才媛にて。
暗殺者が突き出した凶刃を蹴り飛ばし、身を呈して王妃さまを守ったのである。
かくして陰謀は失敗に終わった。
ちなみにお嬢さまがどうして厳つい仮面をかぶっているのかといえば、生まれ持った膨大な魔力を制御するためなんだとか。
なおその仮面はお嬢さまの手彫りだったりもする。出来映えは本職顔負けだ。
ワガハイは突然の婚約破棄宣言で傷心した……
というのは建て前にて、本音は「ウワサ好きのスズメどもがチュンチュンと、やかましいったらありゃしない」との理由にて。
仮面の令嬢が辺境のトライミングで療養する際に、護衛として雇われていたことがある。
それが縁で知己を得たわけだけれども、彼女もまたワガハイに負けず劣らずのトラブルを引き寄せる体質にて。
(ぶっちゃけワガハイ……このお嬢さまとはあんまり関わりたくないのにゃあ~)
などと考えていた時のことであった。
「あら?」
コテンと小首をかしげたのは仮面の令嬢である。
その声に釣られて、彼女の視線を追えば、向こうの壁際は柱の蔭に立つひとりの騎士の姿が目に入った。
服装からしてレセプションの参加者ではなくて、警備の者のようだけど。
顔色があまりよくない。目の下にひどいクマもある。妙な脂汗もかいているし、ちょっとおつかれ気味なのかしらん。
「あの男がどうかしたのかにゃん?」
「いえ、何やら少し違和感を覚えたもので」
そう言われたら、なにやら気になるのがヒトの性(さが)というもの。
だからワガハイも、ついしげしげと騎士を眺めてしまった。
するとはずみで鑑定さんがピコンと発動しちゃったのだけれども……
「――んにゃっ!? あの男、呪われているのにゃん!」
呪いは、魔法学的には付与魔法の一種と考えられている。
いい呪いはバフ効果を、悪い呪いはデバフ効果を対象に与える。
だから呪いだからって、一概にダメなものとは言い切れない。願いや、おまじないの意味合いもあるのだ。
もしかしたら大事なレセプションでの警備だから、気合いを入れてきたとも考えられるので、ワガハイはいま一度、騎士をじっと凝視する。
そうしたら視界の隅に表示されたのは『やや錯乱状態』との情報であった。
帯剣した錯乱騎士とか、何とかに刃物みたいなものである。
まだ理性が働いているのか、懸命に自制しているみたいだけど、それも時間の問題といった感じだ。
心配していたら案の定であった。
錯乱騎士がふらふらと壁際を離れては、会場の中央へと移動を開始する。
「げっ、マズイのにゃん!」
会場内にはドレス姿のご婦人方が大勢いる。どこもかしこも賓客だらけ。
そんなど真ん中で抜刀なんてしようものならば、たいへんなことになる。
だからワガハイはすぐに騎士のもとへ向かおうとするも、アムールトラばりの大きな体がわざわいして、うまく人混みを進めない。
ワガハイの言葉を信じて、えらい学者先生も向かおうとするも、似たような状況に陥って足止めを喰らう。
そんなワガハイたちを尻目にして、動いたのは仮面の令嬢であった。
手にしていたシャンパングラスを反対側の壁へと投げつけては、パリン!
みなの注意が一瞬、そちらへと向いた刹那のこと。
仮面の令嬢の姿が消えた。
と、おもったら天井にて逆さに張り付いており、そこからさらに跳躍。
次にあらわれたのは錯乱騎士の背後である。
シュタっと着地したと思ったら、手刀にて首トン。
一撃にて錯乱騎士の意識を刈り取ってしまった。
天井を利用した変則的な三角飛び!?
凄腕のクノイチか、はたまた拳法の達人か!
文武両道どころではない仮面の令嬢の動きに、ワガハイとえらい学者先生はあんぐり。
6
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
冒険野郎ども。
月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。
あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。
でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。
世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。
これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。
諸事情によって所属していたパーティーが解散。
路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。
ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる!
※本作についての注意事項。
かわいいヒロイン?
いません。いてもおっさんには縁がありません。
かわいいマスコット?
いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。
じゃあいったい何があるのさ?
飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。
そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、
ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。
ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。
さぁ、冒険の時間だ。
気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした
高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!?
これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。
日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!
月芝
ファンタジー
来たる災厄に対抗すべく異世界に召喚された勇者たち。
その数、三十九人。
そこは剣と魔法とスチームパンクの世界にて、
ファンタジー、きたーっ!
と喜んだのも束の間、なんと勇者なのに魔法が使えないだと?
でも安心して下さい。
代わりといってはなんですが、転移特典にて星のチカラが宿ってる。
他にも恩恵で言語能力やら、身体強化などもついている。
そのチカラで魔法みたいなことが可能にて、チートで俺ツエーも夢じゃない。
はずなのだが、三十九番目の主人公だけ、とんだポンコツだった。
授かったのは「なんじゃコレ?」という、がっかりスキル。
試しに使ってみれば、手の中にあらわれたのはカリカリ梅にて、えぇーっ!
本来であれば強化されているはずの体力面では、現地の子どもにも劣る虚弱体質。
ただの高校生の男子にて、学校での成績は中の下ぐらい。
特別な知識も技能もありゃしない。
おまけに言語翻訳機能もバグっているから、会話はこなせるけれども、
文字の読み書きがまるでダメときたもんだ。
そのせいで星クズ判定にて即戦力外通告をされ、島流しの憂き目に……。
異世界Q&A
えっ、魔法の無詠唱?
そんなの当たり前じゃん。
っていうか、そもそも星の勇者たちはスキル以外は使えないし、残念!
えっ、唐揚げにポテトチップスにラーメンやカレーで食革命?
いやいや、ふつうに揚げ物類は昔からあるから。スイーツ類も充実している。
異世界の食文化を舐めんなよ。あと米もあるから心配するな。
えっ、アイデアグッズで一攫千金? 知識チート?
あー、それもちょっと厳しいかな。たいていの品は便利な魔道具があるから。
なにせギガラニカってば魔法とスチームパンクが融合した超高度文明だし。
えっ、ならばチートスキルで無双する?
それは……出来なくはない。けど、いきなりはちょっと無理かなぁ。
神さまからもらったチカラも鍛えないと育たないし、実践ではまるで役に立たないもの。
ゲームやアニメとは違うから。
というか、ぶっちゃけ浮かれて調子に乗っていたら、わりとすぐに死ぬよ。マジで。
それから死に戻りとか、復活の呪文なんてないから。
一発退場なので、そこんところよろしく。
「異世界の片隅で引き篭りたい少女。」の正統系譜。
こんなスキルで異世界転移はイヤだ!シリーズの第二弾。
ないない尽くしの異世界転移。
環境問題にも一石を投じる……かもしれない、笑撃の問題作。
星クズの勇者の明日はどっちだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる