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276 カネコ、頭を抱える。
しおりを挟むてっきり新しい主君として祀るために、ワガハイを連れてきたのかとおもったのにちがうらしい。
それどころか魔力タンク兼雑用係としてコキ使うつもりであった。
とどのつまり、ワガハイにゴーレムの国家に寄宿して、社畜になれということだ。
冗談ではない!
せせこましかった前世を厭い、のんびり暮らしたくて、わざわざカネコの身に転生したというのに、これでは本末転倒であろう。
「……って、あれ? ということは肝心の王さま役は誰がやるのかにゃん? もしかしてここにはいない006とか」
ワガハイの言葉に、この場にいる八体のナンバーズらが一斉にくつくつと肩を震わせた。
そして豹頭の獣人型のゴーレムが言うことにゃあ……
「006? あぁ、あいつならばいま所用で出かけているところだ。じきに戻るだろう。もちろん彼は同志ではあるが、主君などではない。
我らが新たな主君と定めたのは、この御方よ」
獣人型のゴーレムが仰ぎ見たのはモノリスである。
異様な気配を漂わせている、物言わぬ塊。
それが王さまとは、これいかに?
う~ん、もしかして磐座(いわくら)みたいなものかしらん。
磐座とは、古神道における岩に対する信仰のことである。
でっかい岩を拝んではありがたがる自然信仰の一種だ。
このモノリスをシンボルとして、新国家を樹立するつもりなのであろうか。
やってやれないことはないだろうが、リーダーが不在の組織の船出には一抹の不安がある。船頭多くてなんとやら。すぐに迷走して座礁し、ブクブク沈没しちゃいそうなんだけど。
ワガハイがいぶかしんでいると、獣人型ゴーレムが続けてトンデモナイことを口走った。
「このモノリスはな、メテオリト大森林の中央部より回収してきたものだ」
「んにゃっ!? そ、それは本当なのかにゃあ? もしも本当だとしたら何てことを……」
メテオリト大森林。
大陸中央部に位置しており、広大な規模を誇る未開の地。
危険な魔獣が跋扈し、植生する草木までもが旺盛で狂暴、日夜血で血を洗う抗争が続けられている弱肉強食の世界。別名・死の森とも呼ばれており、深く潜るほどに危険度が跳ね上がり、生存率はダダ下がりする。
刈っても刈っても減らない樹々、狩っても狩っても減らない魔獣たち。むしろポコポコ湧いてくるかのよう。
ゆえに「森自体がダンジョンなのでは?」という仮説もある。
現在、公式で確認されているのは第五層の半ばまで。
なおこの古代遺跡があるのは第四層、サレーオの終の棲家があるのが第六層にて。これより深いところに潜って、無事に生還したという記録は冒険者ギルドにもない。
そんな大森林だが、いつ、誰が言い出したのかはわからないが、まことしやかに伝わっているウワサがあった。
森の最深部には遥か古に星の彼方より飛来した『異界の邪神』が眠っているなんて話が……
獣人型のゴーレムによれば「大森林の中心部、第九層には巨大なクレーターがあって、草木いっぽん生えておらず、近寄る魔獣もなく、そこにポツンとあったのはこのモノリスだけだった」とのこと。
ナンバーズらが率いるゴーレムたちが、前人未踏である秘境へと到達したことにもビックリだが、そこに落ちていた怪しげなモノリスを持ち帰ったことにも、ワガハイはおったまげ。
でもって、そのモノリスからは不穏な気配がずっとだだ洩れていると。
話の流れ的には気配の主こそがアレということになるわけで……
いまはまだモノリスの中に封じられているっぽいけど、この様子だとそう遠くない未来に顕現しちゃいそう。
もしもそうなったら、グランシャリオ国のポンコツ勇者たちが目の敵にしているテネブラエ国の魔王なんて比べものにもならないほどに、危険な存在が地上に降臨することなる。
破人たちの暗躍やアロセラ教団の暴走だけでも頭が痛いのに、月からの侵略者に加えてゴーレムたちの乱に邪神さんの復活まで!
盛りだくさんにもほどがある!
異世界、めちゃくちゃ大ピンチ!
いったいどうなっちゃうの!?
どうするワガハイ?
悩めるカネコ。
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