おじろよんぱく、何者?

月芝

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064 学園ミステリー

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 ガラスが割れる音に反応してパイプ椅子から腰を浮かしたところで、つい反射的に見たのは保健室の窓。
 だが無事。ヒビひとつ入っちゃいない。
 ということは、さっきの音は別の部屋からしたということ。
 おれは状況を確認しようと保健室から廊下へ。
 そこでバッタリ出くわしたのが年輩の女性教諭。
 あやうくぶつかりそうになったもので、おれはのけぞる。「あっ」
 向こうも横合いからいきなり登場したこっちに驚いている。「えっ」
 なんとも気まずいお見合いの時間。
 それを終わらせてくれたのは、おれの背後から聞こえてきた「あっ、教頭先生」という綾ちゃん先生の声。
 そういえばさっき彼女が言っていたな。校門のところでおれを投げ飛ばしたウシ男こと田島健介を連れて、あとであやまりにくるとか。
 けれども肝心のウシ男の姿がどこにもない。はて?
 たちまち教頭先生は情けない顔となる。

「じつは……」

  ◇

 校門のところで来訪者に対しての乱暴狼藉。
 下校中の生徒たちの前で派手にやらかした田島健介。
 いくらはやとちりのかんちがいだとて、さすがにアレはない。教育者としてはいかがなものか。
 と、こんこん説教をかました教頭先生。
 それをムスっと不機嫌そうに聞いていた田島健介。しばらくすると「すみません。ちょっとトイレに行ってきます」と席を立つ。
 さすがに「ガマンしろ」とはいえず、しっしっと手で払う仕草にて送り出したものの。
 五分過ぎ、十分となり、十五分経ってもちっとも帰ってこない。まぁ、大きいほうという可能性もあるから。
 しかしそれが二十分を越えればさすがにヘン。

「……あの野郎、バックレやがったな」

 これまでにもちょいちょい迷惑をかけられていたこともあって、さすがに堪忍袋の緒がぶち切れた教頭先生。

「ふざんなよ、こらっ!」

 逃げた体育教師をとっちめるべく、教頭先生はその姿を求めて校内を彷徨う。
 だが肩を怒らせ練り歩いているうちに「もしかしたら」とある考えが浮かぶ。

「さすがに田島先生もいい歳をした大人なのだから。もしかしたら真摯に反省してひとり相手のもとへと赴き、謝罪しているのかも」

 という一縷の望みを胸に抱きつつ、田島の姿を探し歩くうちについに保健室の近くにまでやってきたところで、さっきのガシャンという不穏な音に遭遇。
 驚いて立ち止まったところに、保健室から飛び出してきたおれとバッタリ。

  ◇

「あの、それで田島先生はこちらに?」

 淡い期待を込めた目で教頭先生から見つめられるも、おれは「ざんねんながら」と答えるしかなく、安満中さんと綾ちゃん先生も黙って首を横にふるしかない。
 これを受けて教頭先生が地獄の底から響くような重苦しいタメ息を吐き出した。
 どうやらあの田島はかなりの問題児らしい。この分では赴任以来、散々に苦労をかけられてきたのであろう。
 だが、まぁ、アイツのことはどうでもいい。
 何よりも、いまはまずさっきの音の出処を探るのが先決。
 そのことを告げると三人の女教師たちも同意し、すぐさまそろって現場へと向かうことに。

 音がしたのは保健室から出て左、隣の隣の隣の用具室。
 どうしてすぐにわかったのかというとドアが開け放たれており、中が廊下から丸見えだったから。室内にはガラスが散乱しており、軽く荒らされている。
 しかし犯人らしき姿はどこにもなし。
 廊下にいたという教頭先生も不審な人物は目撃していないという。
 長い一本廊下。窓を割って侵入した何者かは、適当に室内を荒らして、また窓から外へと逃げ出した?
 ぱっと見の状況はそれを物語っているのだけれども……。

「ここって何か貴重品でも置いてあったのですか」
「いいえ、特にたいしたものはなかったはずです」
「備品といっても使わなくなった品が大半ですし」
「ほとんど物置よね。だからふだんからカギもかけてないわ」

 おれの質問に三人の女教師たちは口々にそう答える。
 しかし生徒たちのイタズラにしては少々度が過ぎているし、「まさかウシ男が!」なんてことはさすがにないと信じたい。けど、ちょっと自信ない。むしろムシャクシャしてやりそう。
 だから念のためにお三方にもその可能性についてやんわりたずねてみたら、「さすがにそれは」と否定。
 でも何げに全員、目をツイとそらしていたんだよねえ。あの態度からちょびっとはやりそうとか考えているっぽい。

  ◇

 不審者が校内に入り込んでいる可能性もある。
 万が一を考えて教頭先生はすぐに職員室へと向かい教師陣に報せ、対応することになった。
 けれども彼女が数歩も進まないうちに、今度は「きゃーっ!」という悲鳴が聞こえてきた。
 場所はわりとすぐ近く。廊下を挟んだ向こうの中庭から。
 しかしここからでは外の様子がよくわからない。木やら繁みがボウボウのせいだ。
 最寄りの開いている窓から「おい、どうした!」とおれが声をかけると、ふるえる声で「た、田島先生が……、池で死んでる」との衝撃発言。
 第一容疑者がまさかの死亡?
 ガラスが割れる不審な物音、荒らされた用具室、中庭の池に浮かぶウシ男。
 よもやよもやの二時間サスペンスな展開に、一同あんぐり。


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