おじろよんぱく、何者?

月芝

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101 最強右腕

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 逃げ出したペットのネコ探しの依頼。
 朝からほうぼうを駆けずり回って、どうにか探し出し飼い主へと無事に届けた帰りのこと。
 高月中央商店街を歩いていると松葉杖をついているマスターを見かけた。
 彼はおれの行きつけのバー「フェール・アン・ドゥトール」のマスターである柴田将暉しばたまさき。ダンディとは彼のためにあるような言葉にて、おれの憧れの人物でもある。若輩者のくだらない絡み酒にも眉をひそめることもなく絶えず笑みを浮かべている男。ちなみにその正体はハスキー犬である。

「どうしたんだよ、その足」
「あぁ、尾白さん。いや、なに、ちょっと階段でドジってね」

 酒瓶の詰まったコンテナを運んで階段を降りているときに、うっかり踏み外してグキリ。
 すぐそこの路地裏で診療所をしている光瀬女医に診てもらったところによると、さいわいなことに骨や靭帯は痛めておらず大事には至っていないが、しばらくは安静が必要とのこと。
 いつもお世話になっているマスターが難儀している姿を目にしておれは「何か困ったことがあったら遠慮なく言ってくれよ」と口にする。
 するとマスターが「だったら悪いんだけど、さっそく一つ、頼みたいことがあるんだけど」と言った。

  ◇

 翌日。
 天気は快晴にて絶好のスポーツ日和。
 市営グランドに集うは四つの草野球チーム。

 パットンズ。
 高月中央商店街の有志による人間と動物が化けたのとの混成チーム。実力のほどはたかがしれている。ヘタの横好きの集い。圧倒的練習不足が否めない。別名・珍プレイを量産機。なおチーム名の由来は戦車からとったんだとか。

 チーフテンズ。
 高月城北商店街の有志による人間と動物が化けたのとの混成チーム。実力のほどはパットンズとどっこいどっこい。どんぐりの背比べというよりも、目くそ鼻くその方が適切であろう。なおチーム名はこれまた戦車から拝借したらしい。
 そんなにホイホイ勝手に名前を使っても大丈夫なのかと心配になるが、末尾にズをつけているから問題なかろうとの判断らしい。

 リアルベアーズ。
 郊外に最近出来た大型物流拠点に勤める屈強なトラック野郎どもで構成されたチーム。新設ながらも攻守に渡って猛威をふるい、はやくも最強説が囁かれているのだが……。
 目下、負けなしの十一連勝中。

 辻子ずしファイターズ。
 ふつうのおっさんたちの集まり。経験者多数につき、派手さこそはないが堅実なプレイスタイルには定評があり。総合力は高くつねに安定した勝率をはじき出している。ダークホース的存在。

 何を隠そう、この高月の地には休日になると朝も早くから陽が暮れるまでの間、夢中になって白球を追いかけているいい歳をしたおっさんたちが大勢生息している。
 そのせいで草野球のチームが十八も乱立しているのである。
 少年野球のチームがたったの五つしかないことからして、これがいかに異常な数字であるかお分かりであろう。
 いったいどれだけ野球が好きなんだよ!
 と、おっさんたちの連れ合いが心底あきれているとかいないとか。
 でもって本日はリーグ戦が行われることになっており、おれこと尾白四伯はバーのマスターに代役を頼まれてパットンズに加わっている次第。
 ぶっちゃけおれはあんまり球技が得意ではない。
 だから「期待してくれるな」と謙遜しつつ挨拶したら、チームメイト全員から「まかせとけ!」と大きくうなづかれた。

  ◇

 最初の試合はパットンズとチーフテンズとの因縁の対決。
 べつに互いに張り合っているつもりはない。
 それでも何かと意識してしまうのが、駅北にある高月城北商店街と駅南にある高月中央商店街。
 北がおしゃれなジャズフェスタを開催すれば、南はのど自慢とダンス大会を開催する。
 北がお得なクーポン券を発行すれば、南はもうちょびっとだけお得なクーポン券を発売する。
 北がお祭りにギャル神輿を用意すれば、南はお祭りに元ギャル神輿を用意する。
 終始こんな調子にて、おかげさまでイベントごとにはこと欠かない駅周辺ではあるが、その余波がスポーツの世界にまでおよぶのはどうだろうか?
 でもって、なぜだか敵チームを率いているのはドーベルマンカマこと千祭史郎せんやしろうだし。

「なにやってんだよ、駄犬……。おまえは実際に混ざるタイプじゃないだろう。どちらかといえばカメラ片手にバックネット裏ではぁはぁしているタイプだったはずだ。あれか? キャプテン特権とかでチームメイトにセクハラするのが目的か」
「あいかわらず見た目も中身も品性も下劣な雑種ね。今日はたまたまよ。竜胆姉さんに頼まれたから彼女の知り合いを連れて参加しているだけ」

 竜胆姉さんとは、高月城北商店街にて呉服屋を営んでいる出灰竜胆いずりはりんどうのこと。由緒正しいお店の女主人のみならず、市の商工会長をも兼任しているやり手の経営者。小股の切れ上がったいい女ながらも、キツネの一門を率いる怖い人でもある。
 そんな彼女の知り合いとは誰ぞや。
 おれが守備練習をしているチーフテンズに顔を向ければ、マウンドに立つ人物が目に入った。
 デカい、二メートルはある外国人。だが、ただ大きいわけじゃない。あの広い背中、発達した太腿や尻のぷりっぷり具合。あれはアスリートのそれだ。それも超人と呼んで差し支えのないプロ級の……。
 大きく力強い左の踏み込み、胸を反らしてテイクバック、弓から矢が放たれるかのようにして、縮んだ背筋がいっきに解放されるのと同時にふり抜かれた右腕。

 ズドン!

 白い光の線が一直線にのびたとおもったら、次の瞬間にはキャッチャーのミットに球が収まっていた。
 あまりの剛速球に、おれはあんぐり。えっ、あれ、いまの軽く百五十キロ以上出てたよね。
 フフンと得意顔の千祭。

「紹介するわね。彼はボビー・チュッパチャップマン。現役のメジャーリーガーよ。来日中でゴロゴロしてたら竜胆さんから『ちょっとはカラダを動かしなさい』って怒られたんだって。ちなみにサインはお断りだから。勝手に撮影をするのもダメよ。いろいろ権利関係がうるさいんだから」

 草野球の試合になんてバケモノを投入しやがる!
 おれは開いた口がふさがらない。


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