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133 ロボット掃除機の祖
しおりを挟むカラダのあちこちからプスプス白煙をあげ、両膝をついて動かなくなったアニマルロボット(中)。
それを見届けてからおれは化け術をとく。
とたんに視界が明転。
眩しそうに目を細める芽衣がビシっと親指を立てて見せたもので、おれも立て返しておく。
ちなみにおれが化けていたのは電波吸収体を素材とした大型ドームテント。
これによってヤツは外部からの電波を遮断され、同施設内のどこかにあるであろう頭脳担当のコンピューターからの指令を受け取れなくなっていたのだ。
情報伝達に齟齬が生じ、混乱し反応が遅れたところを一気呵成に攻められネコ面の銀の巨人は轟沈。
したかと思ったらすぐさま再起動したものだから、おれと芽衣はギョッ!
瞳がピコンピコン明滅しているネコ面の銀の巨人。
その口よりもれたのは「バッテリー残量が二十パーセントを切ったので充電シークエンスに移行します」というマシンボイス。
で、立ち上がるなりテクテク向こう側の壁際へ行くと、そのまま膝を抱えて三角座り。
どうやらあそこがヤツの充電ポイントらしい。
「なんだかロボット掃除機みたいだな」
「はい。賢いですけど、あの姿はかなり切ないです。黄昏哀愁を感じます」
おれと芽衣がそんな感想をこぼすと、ネコ面の銀の巨人が「フン! なにをのんきなことを。まぁ、よい。しばし待っておれ。充電がすみ次第、目にモノ見せてくれようぞ」と居丈高に吠える。
だがしかし、そんなものをバカ正直に待つほど尾白探偵は正々堂々をモットーとして生きてはいない。でもってその助手も似たり寄ったり。
だからおれはドロンと鉄パイプに化けた。
鉄パイプを手にした芽衣。充電中にて身動きできないアニマルロボット(中)へと近づく。
これから何をしようとしているのかがわかってあわてるネコ面の銀の巨人。
「お、おい、ちょっと待て! おまえたち卑怯だぞ。たった五分かそこらの充電タイムを待てないとか、あまりにも心にゆとりがなさすぎる。そんなさもしい根性で勝利を得たとて、虚しいだけだろうに。おまえたちは本当にそれでいいのか?
おぉ、そうだ。ひとつありがたい豆知識を授けてやろう。
じつは自動充電機能はこっちが元祖なのだ。現在、巷の家々の床掃除でウゴウゴしている連中はすべて、うちの技術提供を受けているに過ぎない。どうだ、すごかろう。恐れ入ったか、ガハハハハ」
たしかにすごい。
けど、みえみえの時間稼ぎの引き延ばし工作は丸っと無視して。
芽衣が鉄パイプを「ちぇすとぅ」振り下ろしたのは動けないネコ面の銀の巨人。
ではなくて、壁際に設置されてある巨大充電器の方。
本体の方はシルバーメタリックボディにてとっても頑丈だけれども、こちらはそうでもなかった。鉄パイプでガンガン殴られるたびにベキバキと不穏な音を立てて、みるみる形が変わってゆく。
これによって五十パーセントほどしかバッテリーを充電できなかったネコ面の銀の巨人。充電シークエンスを強制中断し猛り狂って襲ってくる。
しかし補給線は断たれた。電力が補充できなくなった時点ですでに勝負あり。
あとはヤツがエネルギー切れを起こすのを待つばかり。
おれが化けたママチャリにまたがり、チリンチリンと逃げるタヌキ娘。
「あっ、待てこら! ちゃんと戦え! こんなのは断じて試練達成とは認めんぞ」
わめきながらうるさく追いかけてくるアニマルロボット(中)。
その抗議には耳をふさぎ、ギコギコギコとペダルをこいでいるうちに、じきに静かになった。
芽衣が自転車を止めてふり返れば、背後にはガクリと四つん這いになって停止しているネコ面の銀の巨人の姿。
そして室内奥にて第三の試練へと通じる道がウィーンと開かれる。
ふむ。残念ながらネコ面の銀の巨人の抗議は結果に反映されなかったようだ。
かくして知恵と勇気により見事勝利をもぎ取ったおれと芽衣。
しぶしぶ先へ。最終試練へと挑むことになる。
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