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しおりを挟む正面からの殴り込み。
一階ロビーにてトラ女が大暴れ。屋上ではカラス女がヘリコプターを爆発させたのに続いて、建物内の照明が落ち非常灯に切り替わった。
次から次へと起こる変事に翡翠館が震える。
「なにごとかっ!」
声を荒げたのは乾班目(いぬいまだらめ)。
ちょうどその頃、彼は三階の食堂にいた。
ゲストたちの朝餉の準備を整えさせるついでに、コーヒーでも飲みながら今後の方針を練ろうとしていた矢先のことである。
内線電話で状況確認をしようとするも、回線が切れているらしく不通。
しかたがないので手すきの者に「ちょっと様子を見てこい」と命じたところ、次々に届く凶報が彼をおおいにイラつかせる。
「副長、カチコミです。トラが、トラが一階で暴れています」
「建物正面外で車がドリフト走行をしているせいで、増援が館に近寄れません」
「金髪リーゼントの娘が玄関先に陣取り、内外を遮断」
「屋上で火災発生です! 横転したヘリコプターが爆破された模様。銃撃戦も勃発しています!」
「何者かに地下ピットをやられました。ぐちゃぐちゃで復旧の見込みナシ。補助電源もダメです」
ビキりとこめかみに青筋が浮かぶ。
乾のイラ立ちが頂点に達したところで、彼の額からにょきっと生えたのは二本の角。
鬼の角は本数が格をあらわす。長が一本角、副長が二本角、下っ端が三本角といった風に。
「そうか。どうやら動物たちが攻めてきたようだな。あの小娘があらわれた時点で遅かれ早かれとは思っていたが……。よもやこれほど迅速に動くとはな。それだけ連中も必死ということか」ぼそぼそとつぶやく乾。銀縁メガネの奥の瞳が緑色となり、その色味がどんどんと濃くなっていく。「いいだろう、まとめて返り討ちにしてやる。私は芝生綾のところに行く。おまえたちは二手に分かれて侵入者どもにあたれ」
部下たちにそう告げるとひとり悠然と歩き出した乾。本性をあらわとした鬼の副長の厳命を受けて、緑鬼たちの顔つきがとたんに変わった。
◇
「積もる話はあとにして、まずは美人の湯でゆったり朝風呂でもいかが」
乾よりそう勧められ、ちょっとその気になった芝生綾ではあったが、さらわれた教師という立場上、生徒の手前もありグッとこらえる。
けれどもそのせいで矛先が自分へと向けられた芽衣はすっかり困り顔。
なにせ「どうして洲本さんがここにいるの?」「あの人たちのことを知っているの?」「私をさらってどうするつもりなのかしら?」と質問攻めにされたもので。
かといって芽衣は芝生一族について語るわけにもいかず、空とぼけるしかない。
しかし芽衣はウソがうまいタイプではないので、すぐに「あやしい」となってさらに強まる追求の手。
かつてないピンチに芽衣が「えーい、全部ぶちまけちゃえ」と自棄を起こす寸前のこと。
ズゥシィィイーンッ!!!
建物そのものが上下に跳ねたかのような衝撃。
天井の照明が大きく揺れるわ、壁に飾られた額縁は落ちるわ、窓ガラスにヒビは入るわ、家具は倒れるわ。
生命の危険を感じるほどの不穏な爆発音がした。
ジリリリとけたたましく鳴るのは非常ベルの音か。
続けて照明が落ちる。急に薄暗くなった室内に綾ちゃん先生が「キャーッ!」と悲鳴をあげてギュムッと芽衣に抱きつく。
抱きつかれた芽衣は双丘に顔面をうずめて「ふがふが苦しい。圧が、胸の圧が。息ができない」
懸命にタップしてギブアップを告げるも、キャアキャア興奮している女教師にその合図は届かない。
結果、タヌキ娘ぐったり半落ち。
間の悪いことにそのタイミングで姿をあらわしたのは鬼化した乾班目である。
薄闇の中、のそりと瞳を緑に光らせる二本角の鬼が登場。
ついに限界を迎えた芝生綾の神経がここでプツり。
女教師は糸の切れた人形のようにコテンと倒れた。
◇
地下ピットでの破壊工作を終えたおれと出灰桔梗は、そのまま階段を使って上を目指す。
けれども途中で降りてくる鬼の一群とかち合った。
これを突破しないと上にはとても行けそうにない。
「ここは私めが」
言うなり跳ねた出灰桔梗が先頭にいた鬼の肩を踏み台とし、壁へと飛ぶ。かと思えば三角蹴りの要領にて宙を舞い、すぐさま手すりに着地。
階段内という空間を立体的に移動するキツネ娘を誰も捉えきれない。
そうこうするうちに一群の背後へと降り立った出灰桔梗が、ここで技を放つ。
「狐崑九尾羅刃拳、五尾」
両腕の打撃に加えて蹴りを織り交ぜた連撃。
キツネ娘が乱れ舞う。
これによって将棋倒しとなった鬼の一群が階段にて雪崩をうった。
その上をおれは「ちょいと失礼」とひょこひょこ踏み超える。
しかし敵もさるもの。並みの相手ならばこれで一網打尽なのだが、鬼のタフさは尋常ではない。すぐに「あいててて」とムクリと起き出す。
その様子に「やはり簡単にはいきませんか。連中は私が足止めしますので、尾白さんは芽衣さんたちをお願いします」とキツネ娘。
おれは「まかせておけ。救出が完了したら合図を送るから」と告げて、ひとり先を急ぐ。
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