おじろよんぱく、何者?

月芝

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198 タヌキと鬼の副長、決着

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 芽衣の一撃にて倒れるかとおもわれた乾のカラダが踏みとどまった。
 そればかりか体勢を崩しながらも裏拳を放つ意地をみせる。
 腕力まかせのガムシャラなもの。
 しかし鬼の膂力であれば、それすらもが当たれば致命傷となりかねない。
 素早くしゃがんでかわした芽衣。頭上を轟っと裏拳が通過したところで、すぐさま第二撃を放つ。
 左に続いて右の「狸是螺舞流武闘術、突の型、釣り鐘砕き」
 鳩尾に決まり、深々と緑の鬼肌にめり込む芽衣の拳。
 が、やはり乾は倒れない。

 タヌキ娘と鬼の副長との戦い。
 これよりゼロ距離での殴り合いへと突入する。
 受け、いなし、払いつつ隙をみては打撃を加えていく洲本芽衣。
 肉体のタフさと超回復を武器に、被弾にかまうことなく腕を振り続ける乾班目。
 いくら決定打を与えても倒れない相手をひたすら殴り続ける芽衣。傍目には優勢に見えるが、そのじつ綱渡りのような状況に追い込まれていた。
 積み上げた百撃がたったの一撃にてひっくり返される。
 それを可能にするだけのチカラが鬼にはある。
 乾自身にもそれはわかっている。なのにすでに余裕は微塵もない。当たらないのだ。そのたった一撃が入らない。近いのに、すぐ目の前にいるというのに、いくら手をのばしても相手に届かない。まるで陽炎と戦っているかのよう。
 互いが内に焦燥を抱えつつ、ひたすら拳の応酬を続ける。

 ときに拳同士がぶつかった。
 ときには腕同士がこすれ合い、身を削り合う。
 その度に芽衣のカラダには生傷が増えていくも、乾のカラダからは傷が消えていく。
 激しく攻め立てているのは芽衣。けれども戦えば戦うほどに傷ついていくのもまた芽衣であった。
 鬼という超生物とタヌキという動物。
 その差が時間の経過とともに、如実にあらわれ始める。

 もはや時間の問題……。
 戦いの行方を見守っていた、誰もがきっとそう考えていたことであろう。
 乾もいずれ自分に勝利の天秤が傾くことを信じて疑わなかったはずだ。
 けれども異変は唐突に起きた。
 鬼の緑肌から傷が消えない。裂傷は裂傷のままに血を流し続け、ひしゃげた箇所がなかなか元に戻らない。
 ここにきてさらに回転をあげ唸るタヌキ娘の拳に、鬼の回復力が明らかに遅れ始める。
 いいや、より正しくは回復に必要なエネルギーが枯渇しつつあった。
 鬼のカラダは千切れた手足すらもたちまちくっつくほどの再生能力を誇る。だからとて不死身でもなければ無敵でもない。どれほどの高性能を誇るクルマとて積める燃料の量には限りがあるのと同じこと。その身に宿るエネルギー量にはおのずと限界がある。
 とどのつまりはガス欠である。
 鬼の肉体を過信しすぎた乾班目と、つねに己と真摯に向き合ってきた武辺者。
 両者の明暗がここに分かれた。

 勝機と判断した芽衣が動く。
 この局面でくり出されたのは「狸是螺舞流武闘術、破の型、さざ波」である。
 衝撃波にて肉体の内側にダメージを与える掌底。
 左、右、左、右と交互に四連撃。
 体内を駆け巡る破壊の奔流により、たまらず「ぐはっ」とうめいた鬼の副長、その両腕が下がり腰が落ちる。
 だが芽衣の攻撃はまだ終わらない。
 五撃目は左右の掌底を合わせて同時に放つ「狸是螺舞流武闘術、破の型、影揚羽」なる技。
 さざ波の強化版にて、合わせた手の形状が影遊びの蝶々のようであるからそう名づけられたものの、ひらりと舞う姿とは裏腹に秘められた破壊力は苛烈極まる。
 先の四連撃にて暴れていたチカラが、影揚羽によっていっきにまとめ上げられて渦となり、竜巻となった。
 破壊が鬼の内部を蹂躙。
 緑の双眸よりドロリと血の涙が滴り落ちる。
 ゴボリと口元から血泡があふれ、耳や鼻などからも血が垂れた。
 だというのに乾はまだ倒れない。
 瞳に宿る緑光がギラり。鬼の副長の目からはまだ闘志が消えていない。

 勢いにまかせて勝ちを急ぐを危険と判断したタヌキ娘。
 ここでいったん後退して距離をとる。「すぅ、はぁ、すぅ」とゆっくり深呼吸を開始。
 上下していた肩の揺れが次第におさまり、ピタリとやんだところでつぶやく。

「狸是螺舞流武闘術、終の型、唯我独尊」

 たちまち芽衣の髪の毛が逆立ち、全身が蒼光に包まれた。
 放電にも似た現象を引き起こしているのはタヌキの悶々パワー。昼夜を問わず体内にて循環され練られ精製され、純度を高めたそれを一挙に解放することで、短時間ながらとてつもない爆発力を産み出す最終奥義。
 限界突破の全力全開の一撃を喰らわせるために、芽衣が駆け出した。
 一歩ごとに蒼の雷光が一段と輝きを増す。
 やがてあまりのまばゆさゆえに、とても見てはいられないほどになる。
 光の中で二つの影が重なる。
 緑鬼の副長とタヌキ娘の一騎討ち、ついに決着の刻!


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