おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
247 / 1,029

247 タイガーヘルプ

しおりを挟む
 
 一夜の祭典わんにゃん運動会。
 いろいろあったが今年は白組のネコたちが勝利。
 終わってからしばらくの間、芽衣がムクれていた。
 おれが大将役の赤カブトを網浜樹理衛にあげたせいで、騎馬合戦の特別賞である北海道旅行を逃したからだ。

「どうせ赤カブトをあげるんだったら、わたしにくれたらよかったのに」
「熱々BLバカップルなんて放っておいても勝手にあちこち旅行に行くのに」
「あーあ、函館山からのロマンチックな夜景が見たかったなぁ」

 商店街にある旅行代理店から貰ってきた北海道ツアーのパンフレットを眺めながら、これ見よがしにグチグチ嫌味を言われてめちゃくちゃ鬱陶しかった。
 だがそれも山里露実雄と網浜樹理衛らが旅先からお土産を送ってくれたおかげで解消された。
 ダンボールいっぱいの北海道スイーツ詰め合わせでケロリと機嫌が治るタヌキ娘。
 だったら手近な兎梅デパートか亀松百貨店でたまにやってる北海道フェアでよかったのでは? あと夜景だったら神戸ので間に合ってるだろう。
 とか思わなくもないが口には出さないでおく。

  ◇

 忙しいときはやたらと依頼が重なって忙しいし、ヒマなときにはしこたまヒマになる。
 それが探偵業。
 今日も世間のどこかではこの瞬間にも大小さまざまな事件が起きているはず。
 だからとて必ずしも依頼になるわけでもなく、ましてや我が尾白探偵事務所に頼むわけでもない。
 ここのところ平穏が続いている。
 どうやら休閑期に入ったようだ。
 と、油断していたところに机の上に投げ出してあるパカパカガラケーがぶるぶる震えた。
 着信相手は弧斗羅美ことトラ美である。以前に緑鬼とモメたときに世話になって以来だから、しばらくぶり。

「もしもし」
「あーよかった、つながって」

 挨拶もなくかぶせ気味のトラ美。なにやらあわてている様子に「何かあったのか?」と問えば「悪い。ちょっとやっかいなことになってるんだ。ぜひとも尾白さんのチカラを貸してくれ」とのこと。
 彼女にはいろいろと世話になっている、手を貸すのもやぶさかではない。

「かまわんぞ。ちょうど仕事も入ってないし」
「ありがとう、恩にきる。それでさっそくで悪いんだけど、すぐに梅田にあるホテルまで来てほしい。詳細はこっちに着いてから話す」

 言うだけ言って電話を切ったトラ美。
 いつになく狼狽えた彼女の態度におれは首をひねる。
 滅爛虎慄紅武爪術めらんこりっくぶそうじゅつの遣い手にして、剛力無双を誇る女タイガー。鬼の群れの中に嬉々として飛び込むようなタフな女からの救援要請。
 これはただ事ではないのかもしれない。
 おれはすぐに漬け込んだオリーブ色をした愛用のジャケットを羽織ると、事務所を出る。
 高月の駅へと向かう道すがら、高校にいる芽衣に電話をかけるもつながらない。授業中か。しようがないのでおれは留守電にメッセージを残しておく。もしも荒事になればタヌキ娘のチカラがきっと必要になるはずだ。

  ◇

 高月の地は大坂と京都の狭間に位置している。
 だからどちらに行くにも電車一本、ほんの三十分もかからない。
 そのわりにおれはあまりどちらにも顔を出さない。
 なぜって、なわばりじゃないからだ。
 動物の習性というほどでもないが、おれは用事がないのに方々をふらふらするのはあまり好まない。移動時間があればテリトリー内にてのんびり過ごす方がいい。
 芽衣によれば「四伯おじさんは、根っからのものぐさなんです」とのこと。
 まぁ、否定はしない。

 指定されたホテルはなかなかの老舗で、そこそこ有名で豪奢なところ。
 煌びやかな一階ロビーに入ったところで、小走りで駆けてくる女の姿が目に入った。ピンクパールの光沢あるフラワーレースのワンピースを着た大柄な女性。カラーフォーマルドレスがよく似合っており華がある。うーん、外国のモデルさんとかかな。
 ホテルの滞在客だと思ったので道を譲ろうとするも、彼女が「尾白さん」とおれの名前を呼んだものだから「えっ」となる。
 よくよく見てみれば、それは弧斗羅美であった。
 髪もきちんと結わえてあるし、化粧もしてある。いつものぴっちりライダースーツや、ジーンズに革ジャン姿とはちがって、じつに女らしい格好をしているのでちっともわからなかった。

「その、あの、あんまりジロジロ見ないでくれ。なんだか恥ずかしい」

 モジモジ照れるトラ美に、おれはハッして「ごめんごめん。いや、驚いた。あんまりキレイだったから誰だかわからなかったよ」と頭をぼりぼり。「たいした化けっぷりだ」と続けそうになった言葉はググっとこらえて、どうにか飲み込む。

「っと、ところでやっかいなことって何があったんだ? ずいぶんとあわてているみたいだったが」
「あっ、そうだった。こうしちゃいられない。とにかくついてきてくれ」

 おれの腕と掴んだトラ美がグイグイと引っ張っていき、そのままエレベーターへといっしょに乗り込むことになる。
 彼女が押したボタンは最上階。
 たしかここには展望レストランがあったとおもったが……。
 あっ、急上昇にて耳がつーんとする。


しおりを挟む
感想 610

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

古道具屋・伯天堂、千花の細腕繁盛記

月芝
キャラ文芸
明治は文明開化の頃より代を重ねている、由緒正しき古道具屋『伯天堂』 でも店を切り盛りしているのは、女子高生!? 九坂家の末っ子・千花であった。 なにせ家族がちっとも頼りにならない! 祖父、父、母、姉、兄、みんながみんな放浪癖の持ち主にて。 あっちをフラフラ、こっちをフラフラ、風の向くまま気の向くまま。 ようやく帰ってきたとおもったら、じきにまたいなくなっている。 そんな家族を見て育った千花は「こいつらダメだ。私がしっかりしなくちゃ」と 店と家を守る決意をした。 けれどもこの店が……、というか扱っている商材の中に、ときおり珍妙な品が混じっているのが困り物。 類が友を呼ぶのか、はたまた千花の運が悪いのか。 ちょいちょちトラブルに見舞われる伯天堂。 そのたびに奔走する千花だが、じつは彼女と九坂の家にも秘密があって…… 祖先の因果が子孫に祟る? あるいは天恵か? 千花の細腕繁盛記。 いらっしゃいませ、珍品奇品、逸品から掘り出し物まで選り取りみどり。 伯天堂へようこそ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

処理中です...