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263 ドラミング
しおりを挟むホワイトタイガー姫路白峰の子飼い連中、ジャッカルのやんちゃ集団・銀色の夜明け団によって拉致されたおれこと尾白四伯。
目覚めてみればびっくり!
広大な敷地面積を誇るサファリパーク・姫路アニマルキングダムのど真ん中に放置されていた。
夜は野生の時間。ナイトサファリは危険がいっぱい。
びくびく彷徨っているところをライオンの野田さんに保護されて、秘密の出入り口であるゲート・アンダーセブンまで送ってもらえることになったのだが、そこでおれたちを待っていたのは大乱闘であった。
渦中の中心にいたのは弧斗羅美と洲本芽衣。銀色の夜明け団とゲートの守備隊との三つ巴にて大暴れ。
「ライオンキング野田さん。ここはひとつその立派なたてがみの威厳でもって、ビシっと連中にかましてやって下さいよ」
「無茶を言わんでください尾白さん。うちの嫁たちならばともかく、僕だけではこんなのムリですって」
七頭もの奥さんを持ち、ハーレムキングでもある野田さん。
彼はチカラではなくて、おもにその持前の包容力と誠実な人柄にて女心をわし掴みにしている。よって見た目は獅子の中の獅子王であるが、荒事はじつはちょっと苦手。
おれのお願いに野田さん「かんべんして」と首を横にぶんぶん。
そうこうしているうちに騒ぎはどんどん大きくなる一方。
うかつに近づけば巻き込まれる。
どうしたものかとライオンと探偵がオロオロしているうちに、見れば芽衣が小山みたいな大男と戦い始めたではないか。
「なんだあのデカぶつ、めちゃくちゃ強え」
たちまち周囲の雑魚どもを蹂躙し、タヌキ娘をも圧倒するバケモノ。遠目にもわかる規格外っぷり。
おれが驚愕していると野田さんが教えてくれた。
「あれは……ゾウの田中さんです、田中仁蔵。アーッ、あっちにいるのはキリンの鈴木夏帆さんじゃないですか! あぁ、なんてことだ。よりにもよって近衛師団のメンバーが二人もいるときに騒ぎを起こすだなんて」
飼育総数千頭羽以上を誇る姫路アニマルキングダム。
その中から精鋭だけを選りすぐって構成されているのが近衛師団。その数、たったの二十一。王国を守る最強の矛にして盾。
ようはめちゃくちゃ強いということ。
ふだんはせいぜい一人が守備隊に含まれているかどうかなのに、今夜はたまたま二人もそろっていたらしい。
野田さんが頭を抱える。
「マズイです。これは非常にマズイですよ。最悪、近衛師団が出張ってくるかも」
それすなわち場末の小競り合いが紛争へと発展することを意味していた。
話を聞かされておれも頭を抱える。
冴えないおっさん探偵の拉致から始まる戦争とか冗談じゃない!
これはぜがひでも止めないと。とりあえず暴れているトラ女とタヌキ娘におれの無事を報せて、それからそれから……。
との思案中。
芽衣がボコられて天高く放り投げられるシーンをおれは目撃する。
タヌキ娘はぐったりしており気を失っているみたい。このままでは危ない。おれは思わず叫ぶ。
「芽衣っ! しっかりしろっ! ボサっとしてんじゃねえっ!」
その声が届いたのかどうかはわからない。
でも直後に芽衣に動きがあった。投げ飛ばされるがままであった体勢から反撃へと転じたのである。
で、なんだかんだでゾウの田中さんを倒して勝ってしまった。
彼方に目を向ければ、あちらではトラ美がキリンの鈴木さんをくだしている。
ともに無事なようでおれはホッ。
だが隣にいた野田さんは顔面蒼白。
「ダメだ。もうおしまいだ。きっと彼らが来る」
近衛師団のメンバーは実力に応じて階位を授けられている。
キリンの鈴木夏帆の階位は十三。
ゾウの田中仁蔵の階位は六。
中堅どころと上位である二人が倒されたことにより、守備隊はきっと本部に応援要請を出すはず。
となれば駆けつけるのは二人よりも実力が上の猛者ということになる。
「すぐにこの場を離れるべきです」
そう主張する野田さん。けれども少しばかり遅かったみたい。
直後に地下通路に響いたのは「ドン・ドン・ドン・ドン」という太鼓を叩くような音。
重く、低く、それでいてズシン腹の底にくる。
それは拳で己が胸を叩くドラミングによるもの。
通路の奥から何かがものすごい勢いで近づいてくる。
威圧を全身で感じおれは冷や汗びっちょりになる。
野田さんはガルルと唸りながらも、壁際まで後ずさり。
おれもこれに倣う。そうしないと己の身が危ういと直感が働いたから。
脇へと寄り、壁に張りつくようにして道をあけたところで、黒い暴風が目の前を駆け抜けた。
あまりのことにたまらずおれは目を閉じる。
嵐が吹き荒れる。
そしてふたたびまぶたを開けたとき。
驚愕の景色が待っていた。
喧騒は止んでいた。
地面のそこかしこに転がるのはフライトジャケットを着た若者たち。銀色の夜明け団の面々が昏倒させられている。
トラ美が片膝をついて苦悶の表情にて腹を押さえながら、肩で息をしていた。
これを見下ろす形でかたわらに立つのは、古代の拳闘士のような格好をした大男。
よく焼けた肌。オニキスの宝石のような双眸。顔もカラダも彫りが深い。筋骨隆々という言葉は、この男のためにあるのではと言いたくなるような惚れぼれする肉体美。
男の左腕に囚われている芽衣の姿があった。
顔面をわし掴みにされてぶらんぶらん、されるがままのタヌキ娘。すでに意識は刈り取られているらしい。
いかに連戦続きにて疲弊していたとはいえ、いともたやすくトラ女とタヌキ娘を制圧するだなんて……。
ありえない光景におれが目を見張っていると、野田さんがカチカチ歯をふるわせながら言った。
「彼はマウンテンゴリラの佐藤晋太郎。近衛師団の階位は三です」
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