おじろよんぱく、何者?

月芝

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293 獣王武闘会 前夜祭

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 獣王武闘会。
 それはケモノたちの、ケモノたちによる、ケモノたちのためだけの祭典。
 腕に覚えありの猛者どもが集い、磨きあげた武芸を存分に披露し競い合う。老若男女、無手得手が入り乱れて戦う。
 なお今大会は四人一組の団体戦。東西にて予選トーナメントを行い、双方の優勝チームによって日ノ本一のツワモノを決定する。
 西国予選は姫路アニマルキングダムにて開催される。
 総敷地面積二百五十万平方メートル。動物の種類百二十四。飼育総数は千頭羽以上。年間百万人以上もの来場者数を誇るサファリパーク。その敷地内に用意された特設ステージが戦いの場となる。
 なおチケットは販売開始わずか五分ほどでソールドアウト。裏では末席ですらもがプレミア価格にて、元値のうん十倍の高額で取引されているんだとか。
 ぐぬぬぬ……、ぬかった。尾白四伯、一生の不覚。
 こんなことなら関係者特権でいくつか融通してもらうんだった。

  ◇

 ドレスやスーツで着飾り正装した者たちが集うパーティー会場。
 これすべて人化けしている動物たち。
 今宵は獣王武闘会西国予選の前夜祭。
 そうそうたるお歴々、招待された貴賓客、大会出場者たち……。
 パーティーの趣旨としては「大会出場者たちの英気を養い激励する」ということなのだが、そのじつは品評会である。
 この大会では運営本部が賭場も催しており、莫大なマネーが裏で動いている。
 当然ながら誰に張るかで、天国か地獄の明暗が分かれる。
 一般客たちは事前に発表される各チームの情報やオッズから予想して賭けることになるのだが、上客ともなると張る額の桁が三つも四つもちがってくる。それゆえに上客らには特典として前夜祭への参加が許されており、自分の目でじっくり闘獣らを検分できるというはからい。
 だから前夜祭の会場は競馬のパドックのようなもの。
 ちなみにパドックとは出走する競走馬たちが厩務員にひかれて周回する場所のこと。下見所とも呼ばれており、ファンたちはここでウマの状態を観察できる。

 ぶっちゃけおれは目立ちたくない。
 本大会を執り仕切っている姫路アニマルキングダムが誇る精鋭、最強の矛であり盾でもある近衛師団。そこの隊長である隻眼のクロヒョウ女剣士、如月伊織きさらぎいおりより極秘依頼を受けている尾白探偵事務所。
 依頼内容は、大会の裏で聚楽第の連中が何をたくらんでいるのかを突き止める。あるいは囮となって動くことで連中を刺激し馬脚をあらわさせる。もし可能であればこれを阻止すること。
 探偵は壁際でひとり、静かにシャンパングラス片手に孤高を気取る。全身から「おいらに近づいたらヤケドするぜ」オーラを放ちつつ、会場全体に注意を払う。
 だというのに……。

「あっ、トラ美さん、そのお肉はわたしが狙っていたのに!」
「芽衣はさっきローストビーフをたらふく喰ってたじゃないか。こちとら山籠もり中はずっと缶詰生活だったんだからな。少しぐらい譲ってくれてもいいだろう」
「お二方、いまはそれどころではありません。あちらで伝説の職人みずから寿司を握ってくださっていますよ」

 先ほどから姦しいのは、芽衣、トラ美、零号ら三人組。
 パーティーは立食形式。会場のテーブルに並べられた料理を好きなだけとって食べていいことになっているのだが、場所柄をわきまえずにガツガツしているうちのチームメンバーたち。
 ちょっと恥ずかしいけど、あいつらが目立ってくれているおかげでおれは影に潜んでいられる。

  ◇

 芽衣と肉をとり合っているトラ美。ああやってはしゃいでいる姿は以前となんら変わらない。けど……。
 約一ケ月ぶりに再会した弧斗羅美。
 おれの感想としては「なんだかちょっとキレイになった」である。もともと素材はいいモノを持っていた。やや目つきが鋭く肩幅ガッチリで大柄だが、ライダースーツが似合うカラダつきにて、きちんと整えたら外国のモデルさんでも通用するぐらいに。
 カラダがひとまわり絞られている。だけでなく肉体の端々にまで気が行き届いているような……。以前は荒々しさと豪快さが前面に押し出されていたのに、それがすっかり鳴りを潜めている。
 修行明けの彼女の変貌を目にしてうちのタヌキ娘は「まいったな。トラ美さんってばまた強くなってる」とぼそり。

「そういうお前だってめちゃくちゃパワーアップしているじゃないか。岩上さんのご神体を蹴り倒すとか。アレだってたいがいだろう」
「うーん、それはそうなんですけど」

 おれの言葉に小さく首をふった芽衣。
 岩上さんとは、淡路島にある岩上神社のある小山の頂に祀られてあった巨岩のこと。高さ十二メートル、周囲十六メートルにもおよぶ不動の存在だったのだが、少し前に芽衣が「ていや」と飛び蹴りにてやらかす。
 そんな芽衣が両手をあげて「まいった」
 これにはおれの方が首をかしげることになる。

 芽衣は語る。
 自分が手に入れたチカラは、いわば水属性。ときに津波のように、ときに波濤のように、ときに波紋のように、ときに染み入るようにして対象を内から外から削り破壊する。
 けれどもトラ美が新たに身につけたチカラは、おそらくは火属性。
 彼女の遣う滅爛虎慄紅武爪術めらんこりっくぶそうじゅつは獣人化することにより、ケモノとヒトとのいいとこどりのハイブリッドを体現する武術。
 そこから放たれる技の苛烈さ、産み出される破壊力は尋常ではない。しかしそれゆえに制御がムズカシイ。とくに最終形態となったとき、ともすれば理性が獣性に呑み込まれて暴走しがち。狂ったトラというのもおっかないが、さりとてそれゆえにつけ入る隙はある。
 しかしいまのトラ美にはその危うさが皆無、とても静か。でもそれは表面だけのこと。内ではマグマがグツグツ。噴火の時をいまかいまかと待っている。

「現時点での瞬間的な爆発力は、トラ美さんのほうがわたしより上だと思う」

 おそろしいことを口にしてあっさりカブトを脱いだタヌキ娘。しかし最後に「あくまで『現時点では』だけどね」としっかり付け加えることも忘れない。
 もしも狸是螺舞流武闘術りぜらぶるぶとうじゅつ、終の型、唯我独尊派生・震撃を完璧に使いこなせるようになれば、自分がきっと勝つ。
 負けず嫌いなタヌキ娘はそう豪語していた。
 まったく、末恐ろしい女たちである。
 でもチームメイトとなればこれほど心強いことはない。

  ◇

 芽衣との会話を思い出しつつ、おれはシャンパングラスをクイッと傾ける。
 唐突にパーティー会場の一角がざわつき出した。今日一のざわざわ。
 どうやらまたぞろ賓客が来場したっぽいのだが、このどよめき具合……。よほどの大物らしい。
 興味をそそられたおれは人混みにまぎれ「どれどれ」ちょいとのぞき見。
 そこにいたのはキャメル・ベージュ色のトレンチコートを羽織り、煙管をくわえたスーツ姿の女。

「なっ! あれは桜花朱魅。どうしてアイツがここに?」

 赤鬼の長の登場におれは絶句。


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