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296 獣王武闘会 抽選会
しおりを挟むうーん、まぶしい。
目がちかちかする。
寝る前にカーテンを締め忘れたせいで朝陽がモロ。
健康的ではあるが、おっさんには少々ツラい。
備えつけの時計をちらり。
まだ余裕があるけど二度寝する気にはとてもなれない。
ベッドの上で寝返りをうち、天井をぼんやり眺める。キレイな天井だ。染みやシワのひとつもありゃしない。予算潤沢な大会側が用意しただけあって、そこそこのグレードのホテルの個室。
しかし昨夜の前夜祭は散々だった。
桜花朱魅にちょっかいを出されたせいで悪目立ちするわ、昔の相棒と再会するわ、女どもはギスギスするわ、野次馬どもはニヤニヤ遠巻き、あげくの果てにはオコジョくのいちから接触されるハメに……。
本大会の開催を裏から画策したとおぼしき聚楽第(じゅらくてい)。
ナゾおおき過激派集団において唯一面が割れているのが、オコジョのかげり。
工作員としてあちこち派手に動き回っていたせいなのだが、そいつがよもやよもや、自ら大会に乗り込んでくるとは思わなかった。
黒マントに白仮面姿のみならず、パンドラとかいうふざけたチーム名での参戦。
「チーム名からして悪いことする気まんまんじゃないか」
おれは枕元に置いてあるタバコに手をのばす。
煙をくゆらせながら考える。
目のくらむほどの大金を用意し、入念に関係各所へ根回し、労を惜しむことなく膨大な時間と予算をつぎ込み、お膳立てを整える。
そこまでして獣王武闘会を実施する理由は何だ?
聚楽第の意図がまるでわからない。
腕利きを発掘してスカウトするにしたって舞台が大袈裟すぎる。それこそ自前の情報網を使うなり、探偵でも雇って目ぼしい人材を漁ればすむ話。よってこの線はないと断言できる。
となれば、猛者どもが一堂に会する場が必要だったというのか?
あるいは偉いさんたち……。でも聚楽第が敵視しているのはあくまで人間であって、動物ではない。それにいくら連中が無鉄砲でも動物界全体を敵に回すような暴挙はさすがに犯すまい。
前夜祭にて向こうから接触してきたとき。
おれはこれさいわいと「いったい何をたくらんでいやがる」とズバリ切り込んでみるも、かげりは「ひどい、たくらむだなんて……。ただみんなにお祭りを楽しんでもらおうと思っただけなのに。シクシクシク」との三文芝居にて誤魔化す。そればかりか「コソコソ嗅ぎまわるのは勝手だけど、本当に何も出ないよ? というか、ぶっちゃけ仕込みはすでに完了しているから、いまさらかな。あとは仕上げをごろうじろ。もう、そんなににらまないでよ。心配しなくても獣死は出ないから安心していいよ」なんぞとも言っていた。
かげりの言葉をどこまで信じていいのかは判断に迷うところ。なにせ相手は面白半分にバイオテロを画策するような危ない女。
おれは念のためにパンドラチームの正体や得た情報のもろもろを、近衛師団隊長である如月伊織に伝えてある。
それ込みでおれに接触してきたであろうオコジョくのいち。ひょっとして鬼族を引き込んだのも狙いの範疇にあるとしたら……。
ピピピピピピピ。
ハッとする。アラーム音にて思考が途切れた。
くわえていたタバコがすっかりちびている。
無意識のうちに灰皿にタバコの灰を落としていたからよかったものの、寝タバコにてうっかりシーツを焦がしていたら弁償もの。危ない危ない。
おれは起き上がって火の始末をするとバスルームへと向かった。
◇
シャワーでさっぱり。身なりを整えたところでチームメンバーらと合流。
朝食を済ませてから、大会係員の案内により向かったのは組み合わせ抽選会。
出場チームは八つ。
チーム・姫路アニマルキングダム選抜。
ゴリラ拳闘士の佐藤晋太郎(さとうしんたろう)率いるチームにて、メンバーはすべて近衛師団の隊員によって構成されており、総合力の高さは随一。優勝候補との呼び声も高い。
チーム・パンドラ。
聚楽第が大会に送り込んだ、オコジョくのいちが率いる黒マントと白仮面の得体の知れない集団。正体もメンバー構成もわからないので考察のしようがなく、賭けのオッズは最下位となっている。
チーム・侍魂。
流浪のネコ剣豪、宮本めざしが率いる武辺者集団。産まれてくる時代を間違えたであろうイヌとネコたち。刀や槍を手に戦う。使う得物は真剣にて、愛くるしい見た目に油断すればバッサリ。
チーム・海獣。
母なる海からの刺客。皇帝ペンギン率いる海のケモノたち。荒波に揉まれた肉体は脅威の身体能力を有す。今回は陸の上での不利な戦いになるが、その程度はちょうどいいハンデと余裕シャクシャク。
チーム・裏千社(うらせんじゃ)選抜
京は伏見にて居をかまえるキツネ族たちの互助組織。あまり世俗とは関わらないを基本方針としているが、ひさしぶりの獣王武闘会とあって参加することにした。メンバー全員が見目麗しい美姫ぞろい。本戦前にも関わらず、早くも関連グッズが売り切れているとか。
チーム・四国連合。
やたらと芽衣をガン見してくる金髪縦ロールのお嬢さま。彼女が率いており全員が四国は屋島ゆかりのタヌキ。屋島といえば三大化けタヌキである太三郎狸の地元。ひょっとしたら淡路の芝右衛門の血筋である芽衣を強く意識しているのかも。
チーム・外来。
遠い海の彼方より招聘された動物たちによる即席チーム。チームとしてのバランスはいまいちながらも、ヘラジカ、アメリカバイソン、グリズリー、ピューマという名立たる猛者揃い。本大会の台風の目になるか?
チーム・尾白探偵事務所。
伝説の継承者である豆タヌキ、その筋では名の通った荒事師のトラ、みょうちきりんな動物探偵、ネコ耳メイドという色物集団。あちこちでやらかしている問題児どもとのウワサがささやかれており、賭けのオッズは下から二番目。
◇
うっかり「寝タバコでシーツに穴をあけるところだった」とおれが口をすべらしたら、芽衣からしこたま怒られた。「今度やったら物理的に強制禁煙の刑に処す」と脅される。
物理的って……片肺でもつぶされちゃうのか?
そいつはちょいとかんべんだな。以後、よくよく気をつけるとしよう。
なんぞと無駄話をしているうちにサクサク進行する抽選、決まっていく組み合わせ。
おれたちの初戦は第二試合、対戦相手はチーム・海獣となった。
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