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309 獣王武闘会 第四試合 中編
しおりを挟むパンドラと侍魂の対決は四対四のチーム戦。
初手をとったのは槍を手にした渡辺津奈。
ギラリ、剣呑な輝きを宿す十文字の槍。これを突き入れられたのは、チーム・パンドラのど真ん中。
風が唸るほどの豪快な突き。大気がビリビリと震える。だというのに突端にぶれは一切なし。気負いも雄叫びもなく、さながら呼吸でもするかのように自然の動作にて静かに、ただ狙った箇所を刺すのみ。
たまらず左右両翼へ、二人ずつに分断されたパンドラ陣営。隊列を崩された。
しかし立て直す暇はない。
間髪入れずに振り下ろされたのは柳生八兵衛の蛇腹剣。
じゃらんとのびた刀身がムチとなって、先の穂先の突破口をなぞり、より深く広くえぐる。
これによりパンドラ陣営の分断がより拡大化。
左右両翼に散らされたパンドラの面々。
左翼を柳生八兵衛の蛇腹剣が牽制、うねる蛇体が中距離の間合いを席捲し抑えているうちに、右翼へといっきに舵を切ったのは宮本めざしと佐々木アルフォート。ほんのわずかに遅れて両名に続く槍の渡辺津奈。
流れるような連携、巧みな戦運び、たちまち二対三の状況を作りだしたチーム・侍魂。
だがこれで終わりではなかった。
今度は佐々木アルフォートが長剣をふるい、パンドラの右翼をさらに斬り裂く。
斬撃により右翼に生じる亀裂、すかさず突き入れられたのはまたしても渡辺津奈の槍。
十文字槍が閃く。渡辺津奈が手元をひねることにより槍全体が回転、穂先が縦から横へ、横からまた縦へ、十の刃が羽ばたくようにひるがえる。
たとえ突きを避けても、穂先の横からのびた刃が襲いかかるのが十文字槍の特徴。
この脅威から逃れるためには、ただでさえ大きく距離をとる必要があるというのに、突きからさらに返しの刃、羽ばたきからの横薙ぎが発動。
槍の石突付近を握り、目いっぱいに突き出し腕をものばした状態からこれを行う。
たんに膂力だけでは、しなって暴れる槍を制御しきれない。たしかな体幹と技量があったればこその荒業。完全に槍が渡辺津奈の一部と化している証拠でもある。
ぶぅんと半円を描くように振られた十文字槍。
飛んでかわすのは論外。しゃがんだところで穂先が急降下して十文字の刃の餌食となるばかり。
よって薙ぎを向けられたパンドラのメンバーは、大きく飛び退って槍の間合いから逃れることを余儀なくされる。
かくして右翼までもが斬り裂かれた。
ついには一人きりとなった最右翼のパンドラの者。
そこへ襲いかかったのは宮本めざしと佐々木アルフォート。
舎乱螺二刀流と久万句弓一刀流。
走る三つの銀閃が交差し獲物を、斬っ!
斬られたマント姿がくるりと舞いでも踊るかのような仕草をとった後に、その場にてばたりと倒れる。
でもその様を見届けることなく宮本めざしと佐々木アルフォートの身は、すでにひるがえっており、右翼の残りへと殺到していた。
大小二刀、長刀、槍……三対一の状況下、ひらけた舞台上にて身を隠すところもなし。
一斉に向けられる必殺の刃に抗える者など、世にいかほどいようか。
かくしてパンドラ陣営が何もさせてもらえないうちに、右翼が侍魂によって一方的にもがれた。
要した時間はほんの三分ほど。
この時点で二対四。
誰の目にもすでに勝敗は決したかのように思われた。
だがしかし……。
◇
チーム・パンドラの三人目も連携によってあっさり狩られてしまう。
残すところあと一人のみ。
おれはこの展開に強い違和感を覚える。
パンドラの面々は全員がフードにお面姿なので正体こそはわからないが、男か女かぐらいならば体形で見分けがつく。
一人目にやられたのは男。
二人目もまた男。
で、ついいましがたやられたのは女にて、これはおそらくオコジョくのいち・かげりであろう。何度か対峙しているので、おれはすぐにピンときた。
だからこそおかしい。あのくのいちはうちのタヌキ娘の蹴りを自由のきかない宙空で受け流し、煙に巻いてまんまと逃げおおせるほどの腕の持ち主。いくら侍魂の連中が達人級の武辺者ぞろいとはいえ、あの性悪がイタチの最後っ屁ならぬオコジョの置き土産のひとつも残さずにやられるとは、とても信じられない。
となればすでに布石を打っていると考えるのが妥当。
何だ?
おれは何を見逃している。
そんな懸念をよそに、チーム・侍魂が残る獲物へと群がってゆく。
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