おじろよんぱく、何者?

月芝

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348 クラフトマスターの脅威

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 第三次大遠征当夜。
 高月の地を東西に走る国道を挟んで、にらみ合う両軍。
 北はハイゼルコバ帝国。
 南はケヤキ自由連合。
 攻める側であるケヤキ自由連合は意気軒昂そのもの。いきり立つダンボール戦士たち。ガヤガヤと開戦の刻を今かいまかと待つ。
 一方で不気味なほどに静まり返っていたのがハイゼルコバ帝国陣営。
 揃いの長方形のタワーシールドを構えた下級騎士を横一列に配置。これを第一陣とし、続く第二陣は長柄の槍を持つ中級騎士をずらりと並べ、最後尾の第三陣より指揮官クラスの上級騎士たちが味方越しに戦場を睥睨している。
 勢いと個の兵のチカラ、数ではケヤキ自由連合が優位なのは一目瞭然。けれども整然とした統率力はハイゼルコバ帝国が上をいっている。

 自軍後方より双眼鏡にて国道周辺の様子をうかがっていたのは、ケヤキ自由連合の総大将・結城現代ゆうきげんだい
 大将軍は敵陣を眺めつつ「へんだな」と首をかしげる。

「敵影がおもいのほか少ない。いかに防衛を主体に陣を敷いたからとて、予想の半分ほどとはな。連中、いったい何をたくらんでいやがる」

 敵が多いと単純にやっかいだが、少なければ少ないで何やら裏がありそう。
 ケヤキ自由連合側の開戦への慌ただしい動きは、当然ながらあちらにも伝わっていたはず。別動隊がこちら側面を突くということも考えられるが、斥候からの報告はいまのところない。

「いかにぼんくら帝とて、周囲を支える者たちは優秀だ。ぼんやりと開戦を迎えるともおもえんが……」

 ハイゼルコバ帝国、第十一代目・カイザーガジー。
 産まれながらの帝王。
 その周囲からの評価は「凡庸」のひと言に尽きる。
 内政はすべて宰相や官僚らに丸投げ。軍事は自ら叙勲した八名の特級騎士たちにやはり丸投げ。自身は趣味のバラ園芸に没頭し、日がな一日を鉢植え相手に過ごす。
 けっして暴君ではない。
 だが玉座に座るべき器でもない。
 権力をかさにきてのやりたい放題も困るが、この手のやる気なしなのも困る。
 けれども担ぐ神輿としては都合がいい存在なのも事実。
 それゆえに処世術として「わざと凡庸を演じているのでは?」とのウワサも根強く残っているものの。

 ……そこで結城現代の思考は中断された。
 前線がざわつく。
 動揺が波となり、たちまち味方陣営全体に伝播する。

「なっ、なんだアレは!」

 裏返った素っ頓狂な声をあげたのはそばにいた側近の者。
 彼が指さす方へと急ぎ結城現代も双眼鏡を向け、そして「なっ」と絶句。

 敵陣地奥、彼方より濃い闇が迫る。
 山が動いていた。
 しかし本当の山なんぞであるはずがなく、その正体は膨大な数のダンボール箱にて築かれた移動城塞。
 遠目にも大きい。間近にすればきっと見上げるほどもあるだろう。
 小学校の体育館に相当する物体。
 巨大さ、それはただそこにあるだけで威嚇となり、敵の戦意を萎ませる効果がある。
 せめてただの見かけ倒しであればよかったのに。
 城壁の上には投石機らしき兵器の姿も確認でき、「むっ、いかん。すぐに全軍を後退させよ」と結城現代が命じた矢先のこと。

 ぐりんと一斉に動いたのは移動城塞に設置されてあった投石機ならぬ投ダンボール機、その数十基。
 放たれた四角いダンボールが夜空に大きく弧を描きながら宙を舞う。
 ハイゼルコバ帝国陣営の頭を軽々と飛び越え、国道をも超えて、落ちたのはケヤキ自由連合陣営。
 たとえからっぽのダンボールとてある程度の大きさがあれば、当たれば痛い。それが使い物にならなくなったダンボールの屑紙がたっぷり詰め込まれてあったとなれば、破壊力は絶大。
 投ダンボール機より放たれた重量のあるダンボール弾が飛来し、着地後はごろごろ。
 あわてて直撃をまぬがれたとて、勢いのままに地表を転がり暴れるダンボール箱の脅威が襲いかかる。
 何人ものダンボール戦士たちが巻き込まれ、跳ね飛ばされ、散々に蹴散らされる。

 移動城塞により味方の度肝を抜かれ、間髪入れずに投ダンボール機による超遠距離攻撃。
 そしてすっかり出鼻を挫かれ混乱しているところで、動き出したのがハイゼルコバ帝国陣営。
 横一文字に整列し、国道を南下し始めた。
 混乱状態でこれを迎えることになってしまったケヤキ自由連合を率いる結城現代。

「くそっ、ぬかった。よもや帝国にあれほどいかれた品を産み出すクラフトマスターが誕生していようとは」

 ダンボールを熟知し、加工し、柔軟な発想により様々な品を作り出す、奇跡の手を持つ者たち。
 シティ・サバイバーたちは尊敬の念を込めて彼らをクラフトマスターと呼ぶ。
 そしてどんな分野にもときおりひょっこりあらわれるのが、革命児、あるいは鬼才と呼ばれし者。
 壁をぶち抜き、あるいは蹴倒し超えて、新たなステージへと至る才。
 たったひとりの才能が戦局を左右する、その他大勢の凡才を蹂躙する。
 歴史の転換期とは、ときに残酷な顔をのぞかせるもの。
 そんな矢面に立たされることになった結城現代は唇から血がにじむほどに歯噛みせずにはいられない。
 だが猛将の闘志はいまだ折れず。
 すぐさま自陣を立て直すべく動き出し、檄を飛ばす。

 かくして波乱の幕開けとなったダンボール戦役・第三次大遠征。
 その裏でおれと芽衣が参加しているレジスタンスも行動を開始する。


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