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371 輪になってビリビリ
しおりを挟むみんなで手を繋いで輪となる。
しかし腕は二本しかない。
十九匹の子タヌキたちがこぞって狙うは一番人気の弧斗玲花のとなり。
しかし玲花は女だ。
となれば男の子たちはモジモジ照れてしまう。仲間内の視線も気になった。
幼くとも男は男。妙な意地や見栄が邪魔をする。
その間隙を突いて素早く動いたのは女の子たち。
こちらは同性ゆえに遠慮がない。だから「玲花お姉さまの右手はもらったーっ」と積極的に突撃し、すぐさま左手にもすがりつく。
左右ひとつずつしかないプラチナチケットをゲットしたのは、妙子と真紀なる女の子タヌキたち。
積極的にぐいぐいいく妙子に引きずられる形にて、ちょっと控えめな真紀もちゃっかり美味しいところ取り。なおこの真紀が「化け術を覚えたら図書館に通えますか」と言った子である。
即行でソールドアウトしたプラチナ席。
続いて二番人気となったのは意外にもおれこと尾白四伯。
こちらにも男子ではなくて女子が集まる。
理由を問えば「なんかチョロそう」「腐ってもの大人、ある程度の金は期待できる」「狙い目は『勢いばかりの若いのよりも、落ちついた大人よ』ってお母さんがつねづね言っている」「パパ活」「なんだか放っておけなくて」などなど。
けっこうロクでもない理由であった。ちっともうれしくない。あとパパ活はやめなさい。危ないから。
哀れだったのが不人気の芽衣である。
目ぼしい獲物が無くなったとたんに女子たちはそそくさと仲のいい者同士でかたまり、残るは男子ばかり。
するとここでも男子の素直じゃない天邪鬼な一面が発揮されることになる。
「おまえいけよ」
「おまえこそ」
「へん、女となんか手をつなげるか」
「えー、おれ、やだよー」
「暴力女、こわい!」
彼らに悪気はない。あくまで幼さゆえの反応。本音をもらせばきっとそんなに嫌ってない。ちょっとした照れ隠しみたいなもの。
しかしこれを「もうしょうがないなぁ」と圧倒的抱擁力にて優しく受け止めるには、芽衣はあまりに若く、精神は未熟であり、なにより血気盛んであった。
「うがーっ! 悪い子はいねえがぁ」
ぶち切れて東北のアレっぽくなったタヌキ娘。逃げ惑う男子タヌキたちを追いかけ回す。
とたんにキャッキャと始まる鬼ごっこ。
かくして露呈したのは男子と女子との精神年齢の差。
どうやらそれは人間の場合だけではなくて、タヌキであっても変わらぬらしい。
◇
ひとしきりはしゃいでグッタリしているところを、おれが強引に振り分けてムリヤリに輪を作った所で……。
「じゃあ、けっこうビリビリくるからあんまり驚くなよ」
と、いきなり化けチカラを放出。
手から手へと伝って一同の間を順繰りに駆け巡る化けチカラ。
電気っぽいといえばそれまでだけれども、この内部でミミズがのたくっているかのような感覚は味わった者にしかわからない。
たちまち子どもたちの間から「わー」「きゃあ」「うぷ、気持ち悪い」「ゾワゾワするよー」「なんだこれ?」「いや~ん」「あーん」「ビリっときたぁ」などと声があがる。
「よしよし、ちゃんと伝わっているみたいだな。じゃあ、今度はもう少し出力をあげるから、びっくりして手を離すんじゃねえぞ。うっかり手を離したら爆発するからな」
もちろんウソである。
だが実際に化けチカラに触れて体験した子どもらは、すっかり真に受けて怯え顔。
芽衣と玲花からはちょっと非難がましい目を向けられるも、おれは片目をつむってみせて「まあまあ」となだめつつ。もう少しだけ化けチカラの出力をあげた。
◇
十九匹いる子タヌキたち。
大半が汗をかき、へたり込む中にあって、三匹ばかりは立ったままで不思議そうに自分のお腹のあたりを眺めていた。
「ほぅ、一匹でもいればラッキーと考えていたが、おもいのほかに豊作だな」
おれは内心でほくそ笑む。
腹を眺めている子らは、自分の体内にてぎゅるぎゅるしているチカラの流れを把握して、戸惑っているだけのこと。つまり化けチカラをちゃんと認識している証拠。素養は充分にてこれならばちょいと修行をつけただけで、すぐに化け術をものにするだろう。
残りはまぁ、ぼちぼちといったところか。
それでも目立って無理そうなのは一匹もいやしないのは、ちょっと意外であった。
「うーん、一発目でこれってずいぶんと優秀じゃねえか。ひょっとして昨今の化け術離れって、たんに上手に教えられるヤツがいないだけじゃねえのかよ」
首をひねりつつも、おれは素養を示した三匹のところへと近づく。
尾白四伯先生の「たんたんタヌキの化け術講座」はいよいよ佳境へと。
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