おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
412 / 1,029

412 炎龍の剣?

しおりを挟む
 
 古き良きロールプレイングゲームの冒頭に登場する、石の台座に刺さった勇者の剣。
 っぽいのを祠の裏にて発見!

「まさか! これが炎龍の剣……、なわけないよなぁ」
「ですよねえ。いくらなんでもここにあれば、とっくに見つかっているはずです」

 探偵と助手がしげしげバチモン臭がぷんぷんな剣を眺めていると、ロボ娘がぼそり。

「もしくは、誰にも抜けなかったとか」

 有資格者以外がいくらがんばっても微動だにしない。剛力を誇る屈強な猛者たちが束になってもかなわなかった剣を、どこぞのぽっと出の若者があっさり抜いては「ええっ、このボクちんが勇者だったなんて」とおろおろ……。
 なんて展開もまた勇者の剣のお約束。

「ははは、まっさかー」と芽衣。

 笑いながらタヌキ娘が柄を握って引っ張れば、スポンとあっさり抜けた。
 ほら、卒業証書なんかを入れておく丸い筒があるだろう。あれのフタを開けるときそっくりのスポン音が洞穴内にスポーンと響く。
 剣は固い石を削り出した品らしく、竹刀と同じぐらいの長さ。やや細身の両手剣だが石の塊だけあって、見た目以上にかなり重たい。
 芽衣や零号は軽々とぶんぶん振っているが、おれでは両手でもしんどい。無理をしたら腰をやりかねんぐらいの重量。

「なんだこれ? ひょっとして炎龍の剣のレプリカか」
「いいえ、尾白さん。それはちがうかと。先ほど拝見した板絵にて炎龍がくわえていたのは、明らかに日本刀の形状をしたものでしたから」

 零号に言われてそのことを思い出し、おれも「たしかに」とうなづく。
 一方で芽衣はしばらく石剣を手に「えい」「とうっ」とぶん回しては勇者ごっこをしていたが、すぐに飽きて剣を台座に戻した。
 抜いた剣をはめ込んだところで、とくに何か起こるでもなし。

「……えーと、観光客用のオブジェとか」
「誰がこんな孤島に遊びにくるんです?」
「はい。リゾートというよりもむしろ流刑地」

 おれの苦しい説に、芽衣と零号が的確なコメントを寄せた。
 ちえっ、からくり好きが集まった技術者集団である大江一門が拠点をかまえていた島だというから、ちょっと期待していたのに。意味深なくせしてとんだ肩透かしである。
 もっとも探索は始まったばかり、まだまだこれから。
 というわけで本日は早めに切りあげて、明日からの本格的な調査に備えることにする。

  ◇

 公民館にて島の夜を過ごす一行。
 スマートフォンにダウンロードしたパズルゲームをちくちく遊ぶ芽衣を尻目に、おれと零号は書庫にあった資料を持ち出し順繰りに目を通す。
 得られた情報を頼りに簡単な島の地図を作成し、優先して探索すべき場所に目星をつけていく。

「おいおい、熔鉱炉にレンガの窯まで自前かよ。それにこれは……採掘用の坑道か。はぁ、石油まで……とはいっても、こっちは少量か。うーん、ざんねん」

 山の中腹に黒い水が湧く泉があるそうだが、年間でドラム缶五つ分程度しか採れないとのこと。精製すればさらに減るだろうから、これでは東洋の石油王にはとてもなれそうにない。

「尾白さん、ちょっと気になる記述が」

 零号が指差したのは島で起こった日々のことを綴った日報をまとめた冊子の、とあるページ。
 そこにはこう書かれてあった。

『北の岩戸に外国のものらしき難破船が流れ着く。調べるも生存者はなし。いつものように処理しておく』

 この文言に出てくる場所は、島の北側の突端、岬の根元にあるという洞窟。
 潮の流れの関係からか、ときおり外部から漂着物がやってくるみたいだが……。

「外洋を渡る外国の船というからには、そこそこ大きいはず。そんなもんがすっぽり収まる横穴があるってことか」
「ええ、もしかしたらこの島に出入りしている連中はそちらを利用しているのかも」
「こいつは先に調べておいたほうがよさそうだな」

 明日の朝一にて向かう先が決まったところで、いったん休憩としたおれはタバコを手に表へと。
 持ち込んだランタンの灯りを頼りにずっと文字を追っていたもので、すっかり首や肩が凝ってバキバキ。
 そいつをほぐしつつ煙をくゆらせながら空を見上げれば満天の星空。

「いっそのことデカい望遠鏡でも置いて、観測所にすればいいのに」

 天体の瞬きに見惚れながらつぶやけば「山の上にそれらしい施設があるみたいですよ」と答えたのは、いつのまにやら背後にいた零号。
 フム。思った以上に盛りだくさんな島。
 この分では本気で隅々まで探索しようとしたら、それこそ十日あっても足りるかどうか。

「しまったな。たった三日ではとてもではないが全部を見て回れそうにない」
「でしたらいっそのこと手分けしますか」
「うーん、そうしたいのはやまやまなんだけどなぁ」

 不審者の件があるから下手に分散するのは危険なような気がする。芽衣と零号は問題ないだろうがおれの身が危うい。
 さて、どうしたものかと考えながら携帯灰皿に吸い殻をねじ込んだところで、おれの視界の隅にチカっと光る何かが映る。

「なんだ? いまあっちで何かが光ったような」

 おれが顔を向けている方角を零号も凝視。

「あちらにはたしか時計台があったはずです」

 時計台といっても火の見やぐらをレンガで補強したようなシロモノ。
 ただの見間違いかもしれないが念のため。おれと零号はすぐ調べに行くも、時計台の上には何者の姿もなし。

「やっぱり気のせいだったか。慣れない環境に神経がちょっと過敏になっているのかも」
「……とばかりは言えませんよ、尾白さん。こちらを御覧になってください」

 零号がペンライトで照らしたのは縁のところ。
 雨風にて表面がささくれた木製の手すり。引っかけたのか黒い布の切れ端がひらひら。
 布片を手にとって調べてみると茶色い毛が数本ついていた。


しおりを挟む
感想 610

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます

黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。 だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ! 捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……? 無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

にゃんとワンダフルDAYS

月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。 小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。 頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって…… ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。 で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた! 「にゃんにゃこれーっ!」 パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」 この異常事態を平然と受け入れていた。 ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。 明かさられる一族の秘密。 御所さまなる存在。 猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。 ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も! でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。 白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。 ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。 和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。 メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!? 少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

処理中です...