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416 羽茶組
しおりを挟む風を切り、ひゅんひゅんひゅん。
次々と飛んでくる棒手裏剣。
鋭く容赦のない攻撃。
零号がとっさに腕を引いてくれたので助かったものの、はずみでおれの手よりこぼれ落ちてしまった黒龍の勾玉。
芽衣がすぐに気がついて拾おうとするも、のばした指先を狙う棒手裏剣によって阻まれる。よくよく見ればその手裏剣もただの棒状ではない。突端部分に返しの刃がついており、銛の先のようになっている。うっかり肉に食い込めば奥で引っかかって抜けなくなる凶悪仕様。
飛び石をシュタシュタ超えて猛然と迫る者ども。
だけでなく、ザバッと水の中より踊り出てくる者もいた。
みな揃いの黒装束姿。宮本めざしに率いられていたあの忍者どもだ。
くそっ、うかつだった。
こっそりおれたちのあとをつけて、虎視眈々と機会を窺っていたんだ。それが地底湖の罠が停止したのと同時に動き出す。
おれを石の祠の裏に避難させてから零号が応戦を開始。芽衣もこれに続く。
いかに鋭く正確な投擲とはいえ、冷静に見極めればロボ娘とタヌキ娘ならば余裕で対処できる。敵勢が腰の得物を抜いて接近戦を挑んでくれば、むしろしめたもの。
……のはずであったのだが、敵の方が一枚上手であった。
棒手裏剣をはじいたり、叩き落としたりしつつ、手近な相手を芽衣が挨拶がてらぶっ飛ばそうとした矢先のこと。
ボフンと足下で破裂したのは紅白ふたつの水風船。
黒装束らが投げつけたモノが地面に当たったひょうしに割れて、中身の液体が飛び散り、混ざり合う。
とたんにシュワシュワシューッと音がして、白い濃霧が大量発生!
たちまち視界がろくすっぽ利かなくなって、何がなにやら。
そんな状況下でも続く勾玉を巡る攻防。
◇
万端準備を整えてからことを起こした側と、不意打ちを喰らった側。
どちらが有利なのかはいちいち説明するまでもあるまい。
ゆえに軍配があがったのは襲撃者の方。
個の武では芽衣たちが圧倒していたのだが、いかんせん集団の武としての運用は敵の方が遥かに優れていた。
巧みな連携により、互いを守りつつ、こちらを威嚇。動きを封じ注意をそらさせ、その隙にまんまとお宝を手に入れると、あっという間にしれっと空を滑るように飛んで地底湖を渡って逃げていく?
あの飛び方は……。
ひょっとして連中の正体はムササビか!
深山奥を自在に駆けては、前肢と後ろ足との間にある皮の膜を広げて、木から木へと滑空する動物なれば、あの軽快な動きも納得である。
「ご苦労だったな、尾白探偵。黒龍の勾玉は我ら羽茶組が頂戴する」
霧の彼方より響く声。
声の主はおそらく襲撃者たちを率いていた者であろう。
ようやく視界が晴れたときには、すでに黒装束らの姿はどこにもなし。
トンビに油揚げのごとく、ムササビ忍者にお宝をかっさらわれる。
まんまとしてやられて地団駄を踏むタヌキ娘。
一方で零号は首をかしげている。
「襲撃の際に連中のひとりに発信機をつけたのですが応答がありません。電波状況うんぬんの問題ではなく、肝心の信号がぷつんと途絶しています。おそらくは持ち去られたあの勾玉が原因かと」
このことから零号は黒龍の勾玉の正体を「高性能のステルス機能を秘めた物質」なのではと推察した。
出すところに出せばトンデモナイ値がつきそうなお宝。使い方次第では世界の軍事バランスがひっくり返りそう。
そんなシロモノをみすみす奪われたのは悔やまれるが、それよりもおれが気になったのは羽茶組(はさぐみ)とやらが盗るモノだけを盗ったら、あっさり身を引いたこと。
連中の腕前であれば、その気になればこちらを拘束することも出来たやもしれないというのにである。
コレが意味することはつまり……。
「おれたちに宝探しを続行しろということか」
労せずして美味しいとこどり。
業腹だが賢いやり方だ。
だったら「もう、やってられるか」と一切合切を放棄したいところ。でもたぶんソレをしたら用無しと判断されて消されるかもしれない。
芽衣や零号の警戒をくぐり抜けて接近してきた隠形の術といい、あの集団戦の巧みさや手際の良さといい、連中の忍びとしての実力は本物。
多勢にて地の利は敵にあり。絶海の孤島でまともにやり合うには、少々分が悪い相手だ。
それに向こうには人斬り包丁と化している宮本めざしもいる。いざともなれば組織から応援も駆けつけるだろうから、ここはおとなしく連中の手のひらで踊らされつつ好機を待つしかない、か。
それにそう悪いことばかりじゃない。
少なくともまじめにお宝を探しているフリをしていれば、その間は無闇やたらと襲われることはないのだから。
忍者どもから四六時中つけ狙われるとかゾッとする。
そういった意味では、連中は一手しくじった。こちらが持ち直し冷静になる猶予を与えた。
せっかく貰ったこの時間。
存分に活かして打開策を練らせてもらうとしよう。
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