おじろよんぱく、何者?

月芝

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422 振り出しに戻る

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 吊り天井の罠から逃れるために、飛び込んだ先は滑り台だった。
 闇の中を右へ左へと曲がりながら、ぎゅんぎゅん加速し、シャーッと滑るばかり。途中で勢いがヘタレないようにと要所ごとに床にローラーを仕込んでおり、摩擦を軽減するための水までチョロチョロ流すという、芸の細かさ。
 やたらと長いだけでちっとも滑らず。途中からは自力で「うんしょ、うんしょ」と前へ進まなければいけなくて、滑り降りたあとに子どもが微妙な顔になる地方の公園遊具とはひと味ちがう!

 長い時間滑り続けて、ようやく辿り着いたゴールは砂地の場所。
 きめの細かい白砂だけを集めたような砂場にて、けっこうな速度で飛び出してきたおれをボフンと優しく受けとめてくれる。
 なんたる気遣い。これまでのひどい仕様とは大ちがい。
 砂まみれになったおれはジーンと感動。
 でも、そうしていられたのもほんのわずか。直後に背中へと突っ込んできた芽衣と零号によって蹴られて押し倒され、たまらずおれは奇声を発した。「おごあっ!」

  ◇

 砂地の上に大の字となり休息している探偵と助手。
 この程よい弾力、さらさら具合が癖になる。
 う~ん、気持ちいい。

「全身を包み込むようなフィット感……。これがいま巷で大流行りの低反発とかいうやつか」
「いま流行りって……、四伯おじさん。むしろ供給過多でメーカーが過剰在庫を持て余しているのか、やたらと深夜の通販番組でセット販売しまくっていますよ。半額に枕やシーツのオマケとかをじゃんじゃん付けて」

 芽衣の話を聞いて「なぬっ、そいつはお得だ。こうしちゃいられない、すぐに電話しなくちゃ」とおれがすっかり購入する気になりかけたところで、零号が「尾白さんの場合はやめておいたほうがよろしいかと」と水を差す。

「あれは寝ている間の圧力を分散することで、カラダへの負担を軽減し、より快適な眠りを提供する素晴らしい品なのですが、腰に不安のある方の場合、逆効果となることもあるそうですから」

 ゆえに安易に低反発に走るのではなくて、高反発なる品も視野に入れて購入を検討すべき。
 わざわざ固い寝床を買うぐらいならば、いまのセンベエ布団でいいんじゃね?
 とおれは首をひねる。どうやら柔らかいと固いのさじ加減が腰には大事っぽいようだが、なにやらややこしいぞ。
 零号の説明を受けておれのココロの中に迷いが生じ、購入はいったん見送ることにする。
 そんなやり取りをしつつ、零号は砂を手にとってはその感触を確かめつつ。

「これ、ただの砂じゃありませんね。何の素材かはわかりませんが、おそらくはビーズ状に加工されたものです」

 低反発と同じく巷を席捲している「もちもちクッション」とか「柔らかソファー」などに用いられている小さなつぶつぶ、顆粒ビーズ。
 自分たちの足下一面がそれで構成されていると知って、おれはたいそう驚く。
 だって大ヒット商品の元となるようなシロモノが、とっくの昔に開発されていたのだから。しかも現在市場に出回っている品よりもずっと高性能。こんな場所に長らく放置されているというのに、湿気ることもなく、へたることもないだなんて相当であろう。
 やはり恐るべし、大江一門!

  ◇

 砂地の所から通じる廊下は真っ直ぐ。
 狭い坑道のようであり天井も低く、歩くのに少し頭をかがめなければいけない。
 で、しばらく歩いたら行き止まりに出た。
 そこは竪穴状の空間。壁際に鉄製のハシゴが設置されてある。

「お次はコイツをのぼれってか。やれやれだぜ」

 おっちらおっちら登ること、これまたしばらく。
 でも、またもや行き止まり。
 道はそこで終わっている。
 というわけではなくて、「こいつはマンホールのフタか? どれ、うん、ぐっ、お、重い……くそっ、びくともしねえ」
 そこで選手交代、芽衣と入れ替わっての再チャレンジ。
 するとカタンと鳴ってちょびっとフタが動いたもので、「おっ」とさらにタヌキ娘が「うんとこどっこいしょ」
 しかしそこから先が進まない。
 焦れた芽衣が「このっ、このっ」とガンガン力任せに殴り出す。
 そのかいあってフタがじょじょに開き始めたのだが……。

 ピキっ!

 不穏な音がしたのはおれたちが掴まっている鉄ハシゴ。
 壁に固定されている箇所に亀裂が生じており、それがみるみる広がっていく。
 なのに芽衣はフタの方に夢中になるあまり、異変に気がついていない。

「お、おい、芽衣。ちょっと待て、タンマ」

 ピシパシ、メキメキメキメキ……、ガッコン!

 タヌキ娘を止めるのが少しばかり遅かった。
 衝撃にて経年劣化していた箇所が壊れて、ハシゴを固定していた杭が抜け壁からはずれ、ゆっくりと傾いでいく。
 当然ながら掴まっているおれたちにどうしようもない。
 あわや、このまま底へと真っ逆さまに転落か?
 というときに零号が機転を利かす。

「ていやっ」自分の足場近くのハシゴを蹴りへこませ、強引に曲げたのである。

 曲げられた箇所にてくの字となったハシゴ、斜めとなって竪穴につっかえる形でそれ以上の崩落をまぬがれた。
 しかしあくまで一時しのぎ、あまり長い時間は持ちそうにない。
 そこでさらに選手交代。
 芽衣にかわって零号が上へと行って、右腕を天へと突き上げロケットパンチ。
 これにてフタは吹き飛び、おれたちは無事に陽の光の下へと生還を果たすも……。

「あれ? ここってなんだか見覚えがあるような」
「なんだよ、公民館の裏じゃねえか」
「振り出しに戻るというやつですね。ですがこれは好都合」

 この展開に呆れる探偵と助手を尻目に、ロボ娘はなぜだかひとりほくそ笑む。


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