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458 マスク・ド・タヌキ
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略してSNS上で進行する犯罪。
それを逆手にとって情報戦を仕掛ける。
とはいっても、やるのはおれじゃなくて怪人インソールダブルエックスだけど。
電話でやりとりした翌日の午後には、すでにトラップ用のプログラムを仕上げてきた怪人。
そのプログラムがすごかった。
勝手に高額報酬のゴミ処理の依頼を出すのと平行して、依頼の信憑性を増すための肉づけフェイクもしっかり発信。
もしも業者が直接依頼人に連絡をとってきたら、これまた勝手に受け答えをするばかりか、接触してきたはしからハッキングをかけて情報を抜き取り、業者間の繋がりを芋ずる式に追いかけ、またまた勝手に「美味い仕事があるから、どうだ?」との声かけをする。
恐ろしいのが関連する情報の一切合切を管理下に置くこと。
メールでのやりとり、コミュニティでの投稿などなど、そのすべてがことごとく罠を張った側にとって都合のいいように改竄されてゆく。
そしてまんまとダマされた業者諸君が、とある山奥へと誘い込まれたところで……。
準備が整ったとの連絡を怪人インソールダブルエックスより受けたおれはおもわず「えげつないな」とつぶやかずにはいられなかった。
うん、情報化社会、おっかない。
プログラムを走らせてから十日後。
入れ食い状態にて釣れも釣れたり不法投棄業者ども。
なんと五十を越えての大豊漁!
さすがにこれ以上プログラムを放置して、ずんずん増えたら処理しきれなくなると判断したおれたちは、ここでいったんプログラムを止めて次の段階へと移行することにした。
とある山奥におびき寄せて軽くお灸を据えてからあとは、連中の身柄はカラス女にまかせるつもり。
◇
いざ、お灸作戦決行の日。
その日は朝から天気がぐずついており、雨足がちょっと心配であった。だが昼過ぎにはやんでくれた。それでもずっと曇天のままにて、日が暮れたとたんに薄っすら霧まで発生し、それはそれは暗い夜となる。
まるでカラスの濡れ羽のような、じっとりぬめっとした夜。
にもかかわらず山奥に続々とトラックにて乗りつけてくる不法投棄業者たち。
視界不良にてうっかり道を踏み外したらちょっとたいへんなことになりそうなのに、臆することなく山道にトラックを走らせる。心なしかタイヤの回りがいいのは、今回の偽依頼で提示された報酬額の桁が多いせいであろう。
とどのつまり、すっかり欲に目がくらんでいるということ。
集合場所は採石場跡。
みんなが集まり次第、回収場所へと案内すると申し伝えてあるが、もちろんウソっぱちである。
まんまと集まったところで、おれがドロンと巨大な壁に化けて連中を閉じ込めつつ、芽衣が修行の成果を披露する。朝までサンドバックになってもらって、生まれてきたことを後悔するぐらいに折檻された後、ようやく逃げられたとおもったら警察の御用となるという寸法。
とはいっても廃棄物処理法にて罰は五年以下の懲役もしくは一千万円以下の罰金、または併科と定められている。
実刑になるのは少ないし、たいていが罰金刑で済まされてしまう。
だからこそこの手の業者はちっともいなくならないわけだが、法律関係については政治家さんたちにがんばってもらうしかないので、今後に期待したいところ。
でもそんなのって業腹であろう。
だからちょびっと私刑執行とあいなったわけなのだが、事態はおれたちの思いもよらぬ方向へと転がっていく。
◇
「えっ、な、何だこれは!」
「こんな壁、入ってくるときにはなかったぞ」
「くそ、固え。びくともしねえ」
「おい、どこかに出口はないのか」
「ダメだ、どこにもねえぞ」
「上は?」
「無理だ、十メートル以上はある。ちくしょう、何なんだよいったい!」
おれが化けた高く頑強な壁に囲まれて業者の連中があたふたしている。
壁の上に立つ芽衣が、ちょっとイタズラ心をおこして「キャアーッ」と乙女の悲鳴をあげた。
すると眼下にて「な、なんだ、いまの?」「女の声じゃなかったか」「こんな山奥に?」「ひぃいぃぃぃつ」と、それはもう見事な狼狽ぶり。
それがよほど楽しかったのか、調子に乗った芽衣が声色を使い分けては存分に連中をビビらせまくる。
恐怖に慄き、阿鼻叫喚の業者たち。
その姿がとってもオモチロイ。
たまらずおれも「ククク」と笑ってしまった。
そうしたら化けている壁が小刻みに震え、一帯をも微震に襲われたものだから、虜となっている連中の恐慌状態がいっそう悪化した。
儲け話がとんだ肝試しとなり、存分に怖がらせたところで、いよいよ芽衣がポキポキと指を鳴らし始め、屈伸をしては準備運動へと入る。
おれが「念のために顔は隠しておけよ」と言えば、「大丈夫、ちゃんと用意してきたから」と芽衣がポケットより取り出したのはプロレスラーの覆面。
ただしちゃんとしたヤツではない。安いガチャポンの景品に入っている薄いアルミシート製の子供だましなモノ。
ガサガサいわせながら頭からかぶり、姿をあらわすレスラー、マスク・ド・タヌキ。「ウィー、シャアァァァ」とへんなテンションにて奇声を発する。
マスク・ド・タヌキ。
さっそくコーナーポストから飛び降りるがごとく、颯爽と壁からダイブしようとしたところで、ひらりと脇に降り立つ黒い影。
一羽のカラスだった。
たちまち変態し、姿をみせたのは不良刑事の安倍野京香。
いきなりあらわれるなり「待った」をかけたものだから、芽衣はズコっと出鼻を挫かれてしまい、おれはおもわず眉根を寄せる。
「悪いが事情が変わった。四伯と芽衣、おまえたちはここまでだ」とカラス女。
いつになく有無を言わさぬ彼女の態度。
はて? いったい何が起こったのやら。
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