おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
532 / 1,029

532 下剋上制度

しおりを挟む
 
 目を覚ましたら知らない天井だった。
 というか手術室みたいな場所。でもちょっと狭いような気が……。

「あら、もう起きたの尾白くん。あいかわらず呆れるぐらいにタフよねえ」

 顔をのぞき込んできたのは光瀬菜穂。おれのかかりつけ医にして解剖マニアのマッドドクター。その正体はウシである。
 でもってここは南港近くにある彼女の知り合いの個人病院なんだとか。
 どうにか夢洲を脱出、海を渡り咲洲にまで到達するもついにチカラ尽きたおれこと尾白四伯。
 そこで同行していたトラ美が、おれの主治医である光瀬菜穂に救いを求めたという次第。

「しかし今回はずいぶんとまた無茶をしたものね。なぁに? あの雑な治療跡……、呼んでくれたらすぐに駆けつけたのに。尾白くんのカラダはあなただけのモノじゃないんですからね。せっかくの希少な献体がボロボロになったら台無しになっちゃうじゃないの」

 タヌキのようであり、イヌのようでもあり、ありゃりゃネコかもと首をかしげ、尻尾は畑から抜きたてのゴボウの根みたいだし、毛はくすんだ黒の縮れ毛にて、尻尾と四肢の先が白くて、これが縁起がいいだの悪いだのと、とにかくわけがわからない。
 そんな珍動物であるおれの肉体は、死後、光瀬菜穂に譲渡される契約になっている。
 彼女によれば、じっくり解剖を楽しんだあとには一流職人の手に委ねて立派な剥製にしてもらい、専用のショーケースに飾り、夜な夜なワイングラス片手にたっぷり堪能するそうな。
 菜穂が真性のド変態なのは今更ながら、さすがに献体呼ばわりはちとヒドイ……。

「そういえばトラ美は? 彼女はどうした? 無事なのか?」
「あの子なら向こうのベッドで寝ているわ。ずいぶんと興奮していたもので、あんまりにもギャンギャンうるさいから鎮痛剤をブスリと注射して黙らせたら、それっきりバタンキュウよ。あっちは外傷よりも疲労や心労が相当溜まっていたみたいね。死んだように昏々と寝ているから、じきに回復するでしょうけど」
「そうか、ならよかっ……た」

 不意にまぶたが重くなり、眠気がどっと押し寄せる。
 どうやらたまさか覚醒しただけであったらしい。
 精神と肉体が休息を強く欲しており、抗うことはかなわない。

「芽衣ちゃんたちにはこっちから連絡を入れておくから。安心しておやすみなさい、尾白くん」

 光瀬女医の声を最後におれの意識はふたたび心地よい深淵へと落ちてゆく。
 一方その頃、安倍野京香に捕まった英円はというと……。

  ◇

 唐突に覚醒し、目覚めた銀禍こと英円。
 しかし拘束具によって全身をがっちり固定されており微動だにできず。
 オマケに口枷や目隠しまでされた状態。
 それでも身体の下から伝わる振動と耳が拾うエンジン音にて、自分の身柄が現在搬送中であることを察する。
 どうやらここは護送車の中のよう。

「ちっ、ヘボ探偵にしてやられたあとに捕まったか。にしても参ったね。手錠ぐらいならばすぐに引き千切って逃げるのに、こいつは……」

 寝袋タイプの拘束具に収納されたことで動きが著しく制限されている。加えて手首や足首などの関節の要所要所をワイヤーで縛ってあるので、チカラづくで解こうとすれば最悪、自分のカラダの方が壊れてしまう。
 こうなればしばらくはおとなしく従うフリをして、回復に努め、隙を見て脱出をはかる。
 そんなことを英円がたくらんでいたところ、ガタンと車内が大きく揺れて護送車が急停車。

 ドカ、バキっ!

 何者かが警護の者たちと争う気配がしたとおもったら、あっという間に静かになり、突如として外気が車中に流れ込んでくる。
 どうやら襲撃を受けて後部扉が開け放たれた模様。
 ドアを開けた何者かが言った。

「こっぴどくやられちゃったねえ、銀禍ちゃん。で、どうする? うちに来るんなら助けてあげるけど」
「むぐぐぐぐ」
「あぁ、ごめんごめん。それじゃあ返事はできないか。すぐにはずしてあげるから、ちょっと待ってて」

 言うなり何者かはカチャカチャと英円の口枷をはずし、ついでに目隠しもとる。
 そうしてあらわとなった相手に「やっぱりあんただったのか」と英円は眩しそうに目を細めつつ「わかったよ。誘いを受ける。あんたらの仲間になるから、とっととこいつを解いておくれ」

「オーケー、じゃあ契約成立ってことで。ようこそ、聚楽第へ。歓迎するよ、災厄を運ぶ銀禍こと英円さん」

 小太刀にて、ぶつぶつと斬っては手際よく拘束具を解いていくのはオコジョくのいち・かげり。動物至上主義を掲げる過激派集団・聚楽第の先兵として、世界を股にかけて暗躍している神出鬼没の女。

「うちは福利厚生が充実しているし、所属するみんなに挑戦権が確約されてあるから、何ならいきなり総帥にケンカを吹っかけるのもありだよ。もしも勝てたらもちろんトップは即交代」

 下剋上制度が認められているという話を聞いた英円の目がギラリと光り「そいつは面白いねえ」と舌なめずり。
 するとかげりもほくそ笑む。

「でしょう? でも挑むつもりなら覚悟しておいてね。いまの総帥、マジでシャレにならないから」


しおりを挟む
感想 610

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

古道具屋・伯天堂、千花の細腕繁盛記

月芝
キャラ文芸
明治は文明開化の頃より代を重ねている、由緒正しき古道具屋『伯天堂』 でも店を切り盛りしているのは、女子高生!? 九坂家の末っ子・千花であった。 なにせ家族がちっとも頼りにならない! 祖父、父、母、姉、兄、みんながみんな放浪癖の持ち主にて。 あっちをフラフラ、こっちをフラフラ、風の向くまま気の向くまま。 ようやく帰ってきたとおもったら、じきにまたいなくなっている。 そんな家族を見て育った千花は「こいつらダメだ。私がしっかりしなくちゃ」と 店と家を守る決意をした。 けれどもこの店が……、というか扱っている商材の中に、ときおり珍妙な品が混じっているのが困り物。 類が友を呼ぶのか、はたまた千花の運が悪いのか。 ちょいちょちトラブルに見舞われる伯天堂。 そのたびに奔走する千花だが、じつは彼女と九坂の家にも秘密があって…… 祖先の因果が子孫に祟る? あるいは天恵か? 千花の細腕繁盛記。 いらっしゃいませ、珍品奇品、逸品から掘り出し物まで選り取りみどり。 伯天堂へようこそ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

処理中です...