542 / 1,029
542 今日のしらたきさん
しおりを挟むかつて外道どもが所有する一台のワゴン車があった。
どれくらいの外道どもであったのかというと、夜な夜なこのクルマを使っては婦女子に不埒な悪行三昧を繰り返すような連中。
もっとも外道どもはのちにきちんと己が身をもって犯した罪の清算をするハメになったのだが、だからとて「めでたしめでたし」とすべてが水に流されるわけではない。
積もりに積もって凝り固まった女たちに怨念。
行き場のない恨みつらみ。
負の感情が寄り集まって形となったのが、怪異・白い腕である。
顕現した怪異は産声をあげたワゴン車にとり憑く。
これによってワゴン車は、おそらくは世界発であろうオカルト自動運転システムを確立。居眠りしてても勝手にハンドルを操作してくれるから、超楽ちん!
これはとっても画期的なこと。
革新と言っても過言ではあるまい。
けれどもまだ機械的な自動運転システムすらもが構想段階であった時代。
オカルト自動運転システムはあまりにも先進が過ぎ、世間にはまったく受け入れられなかった。
しばしいわくつきのクルマとして、倉庫の片隅で不遇の時を過ごすことになるワゴン車。
そんなクルマをふたたび日の下へと連れ出したのは、高月警察署に勤務する女刑事・安倍野京香。
カラスが化けた女にて、札つきのワイルド刑事。
「そんなところでウジウジしているから、いつまでたっても成仏できないんだよ。私についてきな。存分に暴れさせてやるぜ」
安倍野京香の言葉に偽りはなかった。
とある事件現場に猛スピードで突入したかとおもったら、体当たりしまくりで悪党どもを跳ねまくり、銃撃しまくり、ドリフトしまくり、そこかしこにクルマぶつけまくり、とハリウッド映画さながらの過激なアクションシーンの数々が展開される。
かくして事件は無事に解決するも、あいにくと怪異・白い腕は成仏をするどころか逆に存在がより顕如となり、確定されてしまう。
だというのに憑いているワゴン車はすっかりボコボコになってしまい、廃車にされることになってしまった。
家なき子になってしまった怪異・白い腕は困った。
だが捨てる神あれば拾う神あり。
何やらとり憑きやすそうな男がすぐそばにいた。
高月の地にて探偵業を営んでいる尾白四伯。隙だらけのゆるゆるにて、怪異・白い腕はなんとなく「あー、この人だったら受け入れてくれそう」との直感が働く。
はたしてその勘は正しかった。
ふつう洗面所の鏡をみて、自分の体に白い腕が抱きついていたら絶叫するなり卒倒するなりする。
しかし尾白四伯という男は、さも何でもないことのように「なんだかやたらと肩が凝りやがるなぁ」とか「わかった。おまえさんの気のすむまで居たらいいさ」とか「ただし、ちゃんと働いてもらうからな」なんぞと言っては、じつにあっさりと怪異・白い腕を受け入れてしまった。
そればかりか「白滝さん」と命名し、尾白探偵事務所の第二助手に任命する。
存在を認め、名を与え、立場や仕事までも割り振る。
これにより存在がより明確、固定化し、完全に確立されることになった怪異・白い腕。
以降、白滝さんとしてシレっと尾白たちの日常に溶け込んでいく。
◇
白滝さんの朝は早い。
というか彼女は寝ない。睡眠を必要としない。二十四時間、三百六十五日戦える。
怪異だからってべつにお日さまの光が苦手というわけでもない。そりゃあ夜の闇の方が動きやすいけど、昼間もわりかし元気に動ける。
どうしてなのかは自分でもよくわからない。
きっとそういうものなのだろう。
マジメに考えるだけムダである。なにせ怪異なのだから。
探偵事務所の天井からだらりと垂れさがる白い二本の腕。
白滝さんが事務所に顔ならぬ手を出すなり、まずやるのはようやく導入されたパソコンの電源を入れること。
ポチっとスイッチを押すなりウイーンと響く低いモーター音。
最初に画面に表示されるのはメーカーのロゴ。
が、ここからは少し時間がかかる。
若干イラっとする遅い立ち上がりなのは、このパソコンが二世代ほど前の型落ち中古品だから。そのせいで動作はかなりもっさりしている。
事務処理や依頼人とのメールのやりとりなどは問題ないけれども、ネットで動画とかを視聴するのはややキツイ。えっ、ゲーム? 論外である。
システムが起動するまでの間、ぼんやり待ってなんぞはいない。
窓を開けて室内の淀んだ空気を換気しつつ、灰皿やゴミ箱の中身をせっせと回収しては、市指定のゴミ袋にまとめる。
そうしている間にようやくのそりと立ち上がったパソコン。
白滝さんはさっそくメールをチェックして、依頼の有無を確かめる。
パソコン画面に向かい、表計算ソフトを開いてはカチャカチャカチャ。
キーボードをブラインドタッチしているうちに、早や窓の外の気配が賑やかになりつつあった。いよいよ街が本格的に動き出す時刻。白滝さんは作業を終了し、あわてて天井へと引っ込む。
続けて向かったのは、雑居ビル一階にある集合ポスト。
周囲を警戒し、誰の目もないことを確認してから、素早くポストに差し込まれた朝刊を回収する。
尾白や彼に近しい人たちは平然と受け入れているが、世間的には稀な存在であるとの自覚がある白滝さんは、それなりに周囲に気をつけている。
朝刊を回収し、ふたたび事務所に戻った白滝さんは給湯室兼台所へと。お次は湯を沸かしがてら朝食の準備を始める。
雇用主ならぬ憑き主の尾白は、基本だらしない。
自堕落とまでは言わないが、ものぐさなところがあり、朝ごはんをコーヒーとタバコのみですませたりする。
探偵という職業柄、一度、依頼に取りかかると昼夜が逆転し、中長期的に不規則な生活を強いられることもしばしば。だというのに、これでは身体がもたない。
憑き主に倒れられては困るので、気がつけば白滝さんはなにくれとなく尾白の世話を焼くようになっていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
古道具屋・伯天堂、千花の細腕繁盛記
月芝
キャラ文芸
明治は文明開化の頃より代を重ねている、由緒正しき古道具屋『伯天堂』
でも店を切り盛りしているのは、女子高生!?
九坂家の末っ子・千花であった。
なにせ家族がちっとも頼りにならない!
祖父、父、母、姉、兄、みんながみんな放浪癖の持ち主にて。
あっちをフラフラ、こっちをフラフラ、風の向くまま気の向くまま。
ようやく帰ってきたとおもったら、じきにまたいなくなっている。
そんな家族を見て育った千花は「こいつらダメだ。私がしっかりしなくちゃ」と
店と家を守る決意をした。
けれどもこの店が……、というか扱っている商材の中に、ときおり珍妙な品が混じっているのが困り物。
類が友を呼ぶのか、はたまた千花の運が悪いのか。
ちょいちょちトラブルに見舞われる伯天堂。
そのたびに奔走する千花だが、じつは彼女と九坂の家にも秘密があって……
祖先の因果が子孫に祟る? あるいは天恵か?
千花の細腕繁盛記。
いらっしゃいませ、珍品奇品、逸品から掘り出し物まで選り取りみどり。
伯天堂へようこそ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる