おじろよんぱく、何者?

月芝

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544 ガールズトーク・ダークサイド

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 とある国のとある街角のとある路地裏にて、ひっそりと営業している会員制のバー。
 重厚な扉の奥は広くもなく狭くもなく。照明は明るすぎず暗すぎず。相席している者の顔はちゃんとわかるけれども、少し離れたところに座る客の姿はよくわからない。客同士が互いを意識せずにすむ絶妙な陰影と距離感を保つように席が配置されており、落ちつきのあるダークブラウンを基調とした渋い内装。シックな店内には小粋なジャズが流れており、居心地のいい大人の空間を演出している。
 ここは動物至上主義を掲げる聚楽第の系列店。
 よって店員も客もすべて組織に属する者、または関係者に限定される。

 カウンター席にて並んで座り、グラスを傾けているのは二人の女。
 ひとりは聚楽第の工作員として各地を飛び回っては暗躍している、オコジョくのいち・かげり。
 彼女はとにかくオモシロイことに目がなく、「ただ楽しいから」という理由だけで病原菌をバラまくバイオテロをたくらんだりする愉快犯。
 もうひとりは人間でありながら聚楽第の支援者にして、トップモデルのルクレツィア・ギアハート。
 世界最強のインフルエンサーであり、彼女の一挙手一投足によって兆単位の金が動き関連企業の株価が乱高下。一国の首相レベルでも粗略には扱えないほどの影響力を誇る。
 しかし彼女は根底に余人には想像もつかぬほどの激烈な破滅願望を抱えており、この世界がぱっ派手に散る様を特等席で見物しながら自分も果てたいと、つねづね考えていたりする。

 片や裏でこそこそ画策するのが得意な動物。
 片や表で大勢の注目を一身に集める人間。
 まるで月と太陽のようにて、真逆の二人。
 しかし、かげりとルクレツィアは初見時より妙にウマがあった。
 以来、都合があえば女同士で飲み明かす間柄となっている。

「……そういえば新しい子が入ったんですってね? 今度はどんな子を連れてきたのよ」

 一杯目のグラスを空けたルクレツィアがたずねると、かげりが自身のグラスの縁を指でなぞりながら「ええ」とうなづく。

「ひと言でいえば『ヤンチャな寂しがり屋さん』かな」
「あら、ずいぶんと可愛らしいのね」
「ただしトラだけどね。それも世にも稀なる銀毛タイガー」
「ホワイトじゃなくて?」
「うん」
「へー、それはたしかに珍しいかも」
「なんだったら呼ぶ? いまちょうどこっちにいるから」
「そうね。いい機会だし、せっかくだから顔合わせをしておきましょうか」
「わかった。じゃあ、さっそく呼ぶよ。へい、マスター」

 かげりが手をあげるなり、カウンターの上をシャーツと滑ってきたのは固定電話の子機。
 このバー内では機密保持のために電波が遮断されており、個人の携帯電話は使用不可。外部とやりとりをしたいときには、このようにマスターに申し出て電話機を貸してもらう仕組みとなっている。もちろん盗聴対策はバッチリ施されている。

  ◇

 かげりが電話をしてから三十分ほどで、バーに姿をあらわしたのは女三人組。
 呼び出したのはひとりだったのに、オマケがふたつくっついていることに、オコジョくのいちは首をかしげる。

「よぉ、タダ酒が飲めるっていうから来たぜ」

 ぶっきらぼうな物言いをしたのは、銀の長髪に右目のところに三本傷のある英円はなぶさまどか
 暴力、刃傷沙汰、抗争なんぞは当たり前。秩序を嘲笑い、闘争を好み、勝手気ままに奪い、犯し、喰らうを繰り返す。本能のままに、いいや、歪んだ欲望のままに動くトラ。
 常軌を逸したトラ狂女は世界各地の中華街で暴れ回っては罪業を重ねており、行く先々にて災いを振りまくものだから、ついた仇名が「銀禍」である。
 彼女こそがこのたび新たに聚楽第に加わることになったメンバー。

「ヤッホー、ヒマだから来ちゃった」

 長すぎる袖をひらひら振りながら、気の抜けた挨拶をしたのは小柄なメガネ女子。
 小学生の子どもが大人のマネをしてロングコートを羽織っているようにしか見えない彼女こそが、聚楽第の研究部門を統括する暮来真理くれこまり
 頭脳は天才、体は子どもの科学者。善悪や倫理観が著しく欠如した人物にて、自分の手により産み出されたモノがいかような結果を招こうともまるで無頓着。大切なのは自分の研究のみというマッドサイエンティスト。仲間内からは「科学の裏申し子」と密かに呼ばれている。
 そんな「科学の裏申し子」の背後にて彼女を守るように控えていたのが、アニマルロボ・シリウス。
 数多のギミック満載の自律可動型戦闘ロボのカスタム機。シリウス(天狼)との仰々しい名前なのにネコ耳ネコ頭なのはご愛敬。

「………………」

 無言のままわずかに会釈をするシリウス。
 三人が加わって、さすがにカウンターで並んで座るにはちょっととなったところで、円卓のあるテーブル席へと場所を変えたかげりたち。
 かくしてガールズトーク・ダークサイドがスタート。


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