560 / 1,029
560 招待状もしくは召喚状?
しおりを挟む青鬼の長、萩野露草からの手紙の内容を要約するとこうだ。
『今度うちが建てた商業施設で、こけら落とし前に楽しいイベントを開催するから、よかったらどうぞ。いちおう体外的には自由参加ってことになってるけど、そこはお互いにいい歳をした大人なんだから、ちゃんと空気を読んでね。ではでは』
と、こんな感じ。
鬼からの、それも六つある種族のうちのひとつを治める者からのお誘い。
露骨に「忖度しろよ」と言われていささか業腹ではあるが、さりとてきっぱり「否」と拒絶する勇気なんぞ、おれにはない。
「どうしてですか? 適当に仮病でもでっちあげたら楽勝でしょう」
例の手紙を読みながら首をかしげる芽衣だが、おれは首を横にふる。
「無茶を言うなよ。相手はあの萩野グループだぞ。下手に機嫌を損ねたら、たちまち日干しにされて社会的に抹殺されかねん」
現代社会において、莫大な資本を持つことはそれすなわち、各方面に多大な影響力を保有していることを意味している。金はチカラなり。
萩野露草がその気になれば、尾白探偵事務所なんてプチっとひとひねり。それどころか高月の地を丸ごと不況のどん底に叩き落とすことも可能だろう。
鬼に金棒の棒が高純度のゴールド製。
赤鬼の長である桜花朱魅もおっかないが、青鬼の長もちがう意味でおっかない存在。
「ハァー」おれは深い深いため息をつく。「やっぱりここは覚悟を決めて行くしかないか。でもイヤだなぁ。行きたくないなぁ」
早くもキリキリとストレスを訴える胃。
おれはしらたきさんに「ごめん、胃薬と水をちょうだい」とお願いする。
受け取ったクスリを飲んでいると、手紙とにらめっこしていた芽衣が顔をあげる。
「あっ、四伯おじさん。ここにこう書いてありますよ。ご家族友人知人らお誘い合わせのうえで奮ってご参加下さいって。えーと、なになに、参加人数は五人一組になってますね」
「ソレな。そいつも判断に迷うところなんだよ。文面通りならば動物限定じゃなくてもいいみたいな」
「毛玉だけならばそう書くんじゃないんですか?」
「うーん」
「ということは、このイベントって鬼が主催しているだけで、中身は一般向けってことなんじゃあ」
「一般向けなら一般向けで、どうしてわざわざおれを呼ぶのかが引っかかる」
「………………ひょっとしたら、いま流行りの謎解きゲームみたいなイベントだったりして。それでイベントを盛りあげるために、本物の探偵も招聘したとか」
「だったらいいんだがなぁ。まぁ、なんにせよ参加は決定事項みたいなものだからしようがないとして、問題は人選だな」
鬼絡みということもあり、前回、緑鬼の副長とモメたときと同じ面子を揃えるべきか。
あの時は、トラ女の荒事師・弧斗羅美、呉服店「阿紫屋」のキツネ娘の出灰桔梗、カラス女の不良刑事・安倍野今香、鹿島家に仕えるシカ眼鏡メイドの宇陀小路瑪瑙、金髪リーゼントのヤンキーヘビ娘・白妙幸が集っていた。この五人のうちから三人に助っ人をお願いするのが妥当っぽいけど。
「いざとなればやはり圧倒的武力を保有するトラ美が頼りになる。だが、英円との一件でやたらと恩義を感じまくっているのがちょっとなぁ。根本にそういうのを抱えた関係って、なんか歪で気持ち悪いんだよ。上下関係というか、絶対服従とか、彼女にはそんなのはちっとも似合わない。
かといってカラス女はあれでけっこう忙しいし、瑪瑙さんは言わずもがな。
阿紫屋のお嬢さんにあんまり貸しを増やすのも、あとがちと怖い。母親の竜胆がこれさいわいと厄介ごとを押しつけてくるのが、目に見えている。
となれば、無難なのはタエちゃんあたりか。いや、いっそのこと零号を連れて行くというのも」
おれがぶつぶつ独り言をつぶやいていると、それを聞きつけた芽衣が「危険がないんだったら、今度はタエちゃんといっしょにミワちゃんを誘っちゃダメですか」と言い出す。
ミワちゃんこと山崎美和子は芽衣の高校の同級生。タエちゃんこと白妙幸ともども仲良くしている女生徒。
山崎美和子は生粋の人間。奇人変人変態武闘派バイオレンス系ばかりがやたらと目立つ芽衣の交友関係にあって、唯一ともいえる真っ当な常識人にして、良識の守り人。
もしもミワちゃんという存在が居なかったら、いまごろタヌキ娘とヘビ娘は暴走しまくってきっと塀の中だったのにちがいあるまい。
三人は仲良しにていつもつるんでいる。
だがしかし、芽衣とタエちゃんが動物であることはミワちゃんにはまだ秘密。
ミワちゃんは世間一般の人々と同じく、すぐそばに人に化けた動物たちがのうのうと暮らしていることに、ちっとも気がついていない。友人がタヌキとヘビだなんて夢にも思っていないはず。
そのせいか、どうしてもときおり共通の秘密を抱える二人との間に、壁というか溝というか、薄い膜が張る瞬間がある。
加えて、武闘派の芽衣とタエちゃんは行動をともにする機会もしばしば。
話せないことが増えるたびに、三人の間に膜が張る瞬間が増えてゆく。
こうなるとミワちゃんも「おや?」と首をかしげるように。
そして産まれるのが「自分だけがのけ者にされているかも」という疎外感。
「ここのところタエちゃんとだけ動くことが多かったせいか、表にこそ出しませんけど、ミワちゃんがちょっとスネてるっぽいんですよ。ですから、ね?」
芽衣からのお願いに、おれは「うーん」と思案顔にて事務所の天井を仰ぐ。
はてさて、どうしたものやら。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
古道具屋・伯天堂、千花の細腕繁盛記
月芝
キャラ文芸
明治は文明開化の頃より代を重ねている、由緒正しき古道具屋『伯天堂』
でも店を切り盛りしているのは、女子高生!?
九坂家の末っ子・千花であった。
なにせ家族がちっとも頼りにならない!
祖父、父、母、姉、兄、みんながみんな放浪癖の持ち主にて。
あっちをフラフラ、こっちをフラフラ、風の向くまま気の向くまま。
ようやく帰ってきたとおもったら、じきにまたいなくなっている。
そんな家族を見て育った千花は「こいつらダメだ。私がしっかりしなくちゃ」と
店と家を守る決意をした。
けれどもこの店が……、というか扱っている商材の中に、ときおり珍妙な品が混じっているのが困り物。
類が友を呼ぶのか、はたまた千花の運が悪いのか。
ちょいちょちトラブルに見舞われる伯天堂。
そのたびに奔走する千花だが、じつは彼女と九坂の家にも秘密があって……
祖先の因果が子孫に祟る? あるいは天恵か?
千花の細腕繁盛記。
いらっしゃいませ、珍品奇品、逸品から掘り出し物まで選り取りみどり。
伯天堂へようこそ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる