おじろよんぱく、何者?

月芝

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560 招待状もしくは召喚状?

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 青鬼の長、萩野露草からの手紙の内容を要約するとこうだ。

『今度うちが建てた商業施設で、こけら落とし前に楽しいイベントを開催するから、よかったらどうぞ。いちおう体外的には自由参加ってことになってるけど、そこはお互いにいい歳をした大人なんだから、ちゃんと空気を読んでね。ではでは』

 と、こんな感じ。
 鬼からの、それも六つある種族のうちのひとつを治める者からのお誘い。
 露骨に「忖度しろよ」と言われていささか業腹ではあるが、さりとてきっぱり「否」と拒絶する勇気なんぞ、おれにはない。

「どうしてですか? 適当に仮病でもでっちあげたら楽勝でしょう」

 例の手紙を読みながら首をかしげる芽衣だが、おれは首を横にふる。

「無茶を言うなよ。相手はあの萩野グループだぞ。下手に機嫌を損ねたら、たちまち日干しにされて社会的に抹殺されかねん」

 現代社会において、莫大な資本を持つことはそれすなわち、各方面に多大な影響力を保有していることを意味している。金はチカラなり。
 萩野露草がその気になれば、尾白探偵事務所なんてプチっとひとひねり。それどころか高月の地を丸ごと不況のどん底に叩き落とすことも可能だろう。
 鬼に金棒の棒が高純度のゴールド製。
 赤鬼の長である桜花朱魅おうかあけみもおっかないが、青鬼の長もちがう意味でおっかない存在。

「ハァー」おれは深い深いため息をつく。「やっぱりここは覚悟を決めて行くしかないか。でもイヤだなぁ。行きたくないなぁ」

 早くもキリキリとストレスを訴える胃。
 おれはしらたきさんに「ごめん、胃薬と水をちょうだい」とお願いする。
 受け取ったクスリを飲んでいると、手紙とにらめっこしていた芽衣が顔をあげる。

「あっ、四伯おじさん。ここにこう書いてありますよ。ご家族友人知人らお誘い合わせのうえで奮ってご参加下さいって。えーと、なになに、参加人数は五人一組になってますね」
「ソレな。そいつも判断に迷うところなんだよ。文面通りならば動物限定じゃなくてもいいみたいな」
「毛玉だけならばそう書くんじゃないんですか?」
「うーん」
「ということは、このイベントって鬼が主催しているだけで、中身は一般向けってことなんじゃあ」
「一般向けなら一般向けで、どうしてわざわざおれを呼ぶのかが引っかかる」
「………………ひょっとしたら、いま流行りの謎解きゲームみたいなイベントだったりして。それでイベントを盛りあげるために、本物の探偵も招聘したとか」
「だったらいいんだがなぁ。まぁ、なんにせよ参加は決定事項みたいなものだからしようがないとして、問題は人選だな」

 鬼絡みということもあり、前回、緑鬼の副長とモメたときと同じ面子を揃えるべきか。
 あの時は、トラ女の荒事師・弧斗羅美、呉服店「阿紫屋」のキツネ娘の出灰桔梗、カラス女の不良刑事・安倍野今香、鹿島家に仕えるシカ眼鏡メイドの宇陀小路瑪瑙、金髪リーゼントのヤンキーヘビ娘・白妙幸が集っていた。この五人のうちから三人に助っ人をお願いするのが妥当っぽいけど。

「いざとなればやはり圧倒的武力を保有するトラ美が頼りになる。だが、英円との一件でやたらと恩義を感じまくっているのがちょっとなぁ。根本にそういうのを抱えた関係って、なんか歪で気持ち悪いんだよ。上下関係というか、絶対服従とか、彼女にはそんなのはちっとも似合わない。
 かといってカラス女はあれでけっこう忙しいし、瑪瑙さんは言わずもがな。
 阿紫屋のお嬢さんにあんまり貸しを増やすのも、あとがちと怖い。母親の竜胆がこれさいわいと厄介ごとを押しつけてくるのが、目に見えている。
 となれば、無難なのはタエちゃんあたりか。いや、いっそのこと零号を連れて行くというのも」

 おれがぶつぶつ独り言をつぶやいていると、それを聞きつけた芽衣が「危険がないんだったら、今度はタエちゃんといっしょにミワちゃんを誘っちゃダメですか」と言い出す。

 ミワちゃんこと山崎美和子は芽衣の高校の同級生。タエちゃんこと白妙幸ともども仲良くしている女生徒。
 山崎美和子は生粋の人間。奇人変人変態武闘派バイオレンス系ばかりがやたらと目立つ芽衣の交友関係にあって、唯一ともいえる真っ当な常識人にして、良識の守り人。
 もしもミワちゃんという存在が居なかったら、いまごろタヌキ娘とヘビ娘は暴走しまくってきっと塀の中だったのにちがいあるまい。

 三人は仲良しにていつもつるんでいる。
 だがしかし、芽衣とタエちゃんが動物であることはミワちゃんにはまだ秘密。
 ミワちゃんは世間一般の人々と同じく、すぐそばに人に化けた動物たちがのうのうと暮らしていることに、ちっとも気がついていない。友人がタヌキとヘビだなんて夢にも思っていないはず。
 そのせいか、どうしてもときおり共通の秘密を抱える二人との間に、壁というか溝というか、薄い膜が張る瞬間がある。
 加えて、武闘派の芽衣とタエちゃんは行動をともにする機会もしばしば。
 話せないことが増えるたびに、三人の間に膜が張る瞬間が増えてゆく。
 こうなるとミワちゃんも「おや?」と首をかしげるように。
 そして産まれるのが「自分だけがのけ者にされているかも」という疎外感。

「ここのところタエちゃんとだけ動くことが多かったせいか、表にこそ出しませんけど、ミワちゃんがちょっとスネてるっぽいんですよ。ですから、ね?」

 芽衣からのお願いに、おれは「うーん」と思案顔にて事務所の天井を仰ぐ。
 はてさて、どうしたものやら。


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