おじろよんぱく、何者?

月芝

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576 策士

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 第一位、総得点数、四百十五、ピンポンレンジャー。
 第二位、総得点数、三百五十六、尾白チーム。
 第三位、総得点数、六十、桜花探偵事務所高月支店チーム。
 第四位……。

 結果はご覧の通りにて、奮闘するもあと一歩及ばず。
 大歓声を受けながら、優勝および六位までの上位入賞チームたちが、司会役の女性に呼ばれるままに壇上へとあがるも、惜敗を喫したおれたちはすっかり意気消沈。
 今回ばかりは二番じゃダメだったんだ。
 なにがなんでも一番にならなくちゃいけなかったというのに……。

 ミワちゃんが助けたいと願った薄幸の幼女。
 名前を山田羽菜やまだはなという小学三年生の子なのだが、不甲斐ない結果に終わったというのにもかかわらず、ペコリと丁寧にお辞儀をして「無理を言ってごめんなさい。がんばってくれてありがとう」と礼を言われたときには、マジで泣きそうになった。

 華やかな壇上や会場の雰囲気とは裏腹に、ガックシ肩を落としてのお通夜モードのおれたち。
 下位から順に記念のメダルや盾などを、萩野露草から授与されてゆくのを尻目にため息が止まらない。
 入賞者の賞品については順位に応じて金額の上限が設定されており「その範囲内でご希望の品をどうぞおっしゃって下さい」という形式。希望を承って検討の上で問題がなければ、後日お届けということになっている。あわてて決める必要はない。持ち帰ってじっくり考えてもいいとのことなので、いったん話を持ち帰る者がほとんど。

 そんな中でこの場ですぐさま希望を述べる者がいた。
 第三位になった桜花探偵事務所高月支店チームである。代表はもちろんドーベルマンカマこと千祭史郎。

「そういえばすっかり忘れていたが、こいつもいちおうは探偵だったな」

 と今更ながらに思い出したおれ。
 駄犬のところのチームメイトは全員がヤツのところの所員。突出こそしていないが安定した能力の持ち主揃いにてバランスがいい。総合力の高さがこの好成績に反映されたのであろう。
 さもありなんとおれは独りごちつつ、「いったい何を望むのやら。まさかとはおもうが、ホテルのプールサイドでムキムキのピチピチなボーイズに囲まれて、ウハウハしたいとか阿呆なことを言い出すんじゃなかろうな」とか心配していたら、千祭は意外なことを口走り会場中の度肝を抜く。

「景品ってこの金額内ならば問題ないのよね? でしたら私は得点の譲渡を希望するわ。うちが獲得したポイント六十、そっくりそのまま第二位の雑種のところに……じゃなかった、尾白チームに移してちょうだい」

 よもやの申し出!
 いきなり名指しされて、おれたちは目が点となる。
 予想のはるか斜め上をいく展開により、さしもの萩野露草も面喰らい「はぁ?」と一瞬固まった。
 会場中にもさざ波を起きる。ざわざわざわざわ。
 だってそうだろう?
 もしもこの申し出が受理されたら、順位がひっくり返ってしまうのだから。
 掟破りとも言える裏技。
 はたして主催者側はどう判断するのか。
 固唾を呑んで行方を見守る人々。

 目を閉じたままアゴに手をあて、たっぷり三分ほど熟考していた萩野露草。
 ふたたびまぶたを開けるなり、「いいでしょう。許可します」とにこり微笑んだ。
 これにより優勝は譲渡分が加算されて四百十六ポイントとなった尾白チームとなる。
 急転直下、まさかの逆転劇に沸き立つ場内。

 喜びのあまり「やったね!」とミワちゃんに抱きつく、芽衣、タエちゃん、桔梗ら。そこに山田羽菜や彼女を助けようと協力していた面々も加わって、お祭り騒ぎとなる。
 客席からもやんやの拍手。
 このタイミングで「パーン」と発射されたのは紙吹雪。
 金銀のキラキラが盛大に会場を舞い、興奮と感動は最高潮へと。

  ◇

 そんな光景を眺めながら、おれが「何か悪いもんでも食ったのか?」と声をかければ「フンっ。勘違いしないでよね、雑種」とそっぽを向いた千祭史郎。

「山崎美和子っていったかしら、あの三つ編みのメガネっ子に頼み込まれたからよ。それにしてもたいした子ね。萩野会長が断われないのを見越して、こんな大胆な策を講じるんだもの。ったく、ただのモブ子かとおもったら、トンデモナイ策士だわ」

 三階ではピンポンイエローやイベントに参加していた者たちが多数、ミワちゃんを発起人とする「幼女を救う」という活動に協力していた。
 本当はイエローを通じて、他のピンポンレンジャーをも味方に引き入れたかったのだが、連絡がつかず。
 頼りになるチームメイトたちががんばってくれている。
 けれども相手は高月三大変態の一雄。かつては探偵と助手が破れたほどの猛者。油断はできない。
 そこでミワちゃんはさらなる一手を打つ。
 それこそが競技終了後のロビー活動であった。


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