おじろよんぱく、何者?

月芝

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636 箱根の嫁獲り競争 男と女のくるくる

 
 まわるまわるよ、くるくるまわる。
 世界はまわり、地球もまわり、クルマもまわる。
 運も景気もまわるというけれど、なぜだかうちにはちっともまわってこない。
 そのくせ貧乏神と閑古鳥だけは、こまめにまわってくるのだからイヤになっちゃう。

 小田原城下にて、クラッシャー権藤が突如としてくるくるスリップ。
 それに巻き込まれて、複数の車両どもまでもが仲良く、くるくる、ぐるぐる、ぐーるぐる。
 いっそのこと路肩にて盛大にクラッシュでもしてくれたらまだよかったのだが、器用にも路面を滑り続けている。
 というか、いくらなんでもまわりすぎっ!

「冬場の路面凍結じゃあるまいし、どうして……」
「うん? あれ、四伯おじさん、アスファルトの上に何か白い粒みたいなのがいっぱい落ちてる」
「あれは……ひょっとして生米でしょうか。それが大量にまかれているようです」

 はたして米ごときでクルマがスリップなんぞするものなのか?
 おれ、芽衣、瑪瑙さんは三人そろって首をかしげて「う~ん」
 たまに砂利の駐車場とかでツルっと滑ることはあるけれども、はてさて。

「しかし罰当たりなことをしやがる。ひと粒のお米には七人の神さまが宿っているんだぞ。校舎裏に呼び出されて寄ってたかってフルボッコにされるぞ。いったいどこのどいつの仕業だ! って考えるまでもないか」
「裏日光猿軍団でしょうけど、でもどうしてコメ?」
「おそらくはレースを盛りあげるためかと。こんな阿呆なこと、おおかたうちの祖父の思いつきでしょう」

 レース主催者である宇陀小路兵銅の指示により、旗下の裏日光猿軍団が動いた模様。
 白バイ隊から参加者らを守ったかとおもえば、一転して妨害工作を仕掛けてくる。
 まるで「ワシがルールブックじゃ」とでも言わんばかりのやりたい放題に、おれたち三人はこめかみに青筋を立てて、ムカっ腹。
 だからとて棄権はしない。
 それをしちゃうとなんだか負けたような気がするから。
 それは他の参加者らも同じらしい。スピンをまぬがれた面々が、タイミングをはかりつつ、果敢にぐるぐる地獄の試練へと挑む。

  ◇

 赤い流星と黒鉄の幽霊が道の両脇から、ほぼ同時にぐるぐる地獄内へと侵入。
 たんに避けて進むのではなくて、回転しているクルマの動きに合わせて、ギリギリのところを通り過ぎていく。
 障害物に対して赤い流星が二十センチほどの距離にまで幅寄せすれば、負けじと黒鉄の幽霊は十五センチにまで近づき、ドヤ顔。
 するとムキになった赤い流星がさらにギリギリを攻めるといった具合に、無駄に張り合う両雄。
 それに比べてやや苦戦していたのが、黒の三連星の碁台三兄弟。いつも三人いっしょ。兄弟ならではの息の合った連携こそが強みの彼らではあるが、あいにくと国道1号線に展開されているぐるぐる地獄内では、それがままならぬ。動きの制約のみならず、三人一組でないとという心理的な束縛をもみずからに課してしまい、どうしても運転がぎくしゃくしたものに。

 しかし、それらを尻目に悠々と試練を突破した者がいた。
 火車お七である。
 姉御、まさかのコースアウトにて歩道を征く。
 掟破りにて、ずんずん突き進む。火車お七が化けているのはメルセデス・ベンツSSKっぽいクラシックカー。縦長な車体は彼女の肢体のようにスリムにて、歩道の幅でもおかまいなしに突っ走れる。
 とはいえ、ときおり歩道の幅が狭くなったり、電柱やら安全ポールがひょっこり立っていたりもするのだが、そのたびに彼女はぴょんと片輪走行を披露しては、なんなくこれを超えてゆく。

 とんだ荒業! おれは「すげえけど、あんなのありかよ」と首を傾げずにはいられない。
 しかし芽衣と瑪瑙さんら女性陣は「あっははは、かしこい」「じつに利にかなっています」と感心しきり。
 でもって瑪瑙さんもさっそく真似すべく、歩道へとラリーカーを乗り入れた。
 この局面であらわとなったのは男女の思考のちがい。
 男は試練を前にして闘志をたぎらせ、これに挑む。
 女は試練を前にして打開策を模索し、柔軟に対応してみせた。
 とかくなんにでもムキになっては夢見がちな野郎どもと、現実的に物事を見極める女性たち。
 技術を競っている間に、しれっと抜かれた赤い流星と黒鉄の幽霊こそが、いい面の皮であった。

「バカは死ぬまでまわってな」と火車お七。
「ごめんあそばせ」と瑪瑙さん。

 かくしてまんまと首位へと躍り出た女たち。
 箱根の山々が眼前へと迫ってくる。
 いよいよレースは佳境へと。


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