636 / 1,029
636 箱根の嫁獲り競争 男と女のくるくる
まわるまわるよ、くるくるまわる。
世界はまわり、地球もまわり、クルマもまわる。
運も景気もまわるというけれど、なぜだかうちにはちっともまわってこない。
そのくせ貧乏神と閑古鳥だけは、こまめにまわってくるのだからイヤになっちゃう。
小田原城下にて、クラッシャー権藤が突如としてくるくるスリップ。
それに巻き込まれて、複数の車両どもまでもが仲良く、くるくる、ぐるぐる、ぐーるぐる。
いっそのこと路肩にて盛大にクラッシュでもしてくれたらまだよかったのだが、器用にも路面を滑り続けている。
というか、いくらなんでもまわりすぎっ!
「冬場の路面凍結じゃあるまいし、どうして……」
「うん? あれ、四伯おじさん、アスファルトの上に何か白い粒みたいなのがいっぱい落ちてる」
「あれは……ひょっとして生米でしょうか。それが大量にまかれているようです」
はたして米ごときでクルマがスリップなんぞするものなのか?
おれ、芽衣、瑪瑙さんは三人そろって首をかしげて「う~ん」
たまに砂利の駐車場とかでツルっと滑ることはあるけれども、はてさて。
「しかし罰当たりなことをしやがる。ひと粒のお米には七人の神さまが宿っているんだぞ。校舎裏に呼び出されて寄ってたかってフルボッコにされるぞ。いったいどこのどいつの仕業だ! って考えるまでもないか」
「裏日光猿軍団でしょうけど、でもどうしてコメ?」
「おそらくはレースを盛りあげるためかと。こんな阿呆なこと、おおかたうちの祖父の思いつきでしょう」
レース主催者である宇陀小路兵銅の指示により、旗下の裏日光猿軍団が動いた模様。
白バイ隊から参加者らを守ったかとおもえば、一転して妨害工作を仕掛けてくる。
まるで「ワシがルールブックじゃ」とでも言わんばかりのやりたい放題に、おれたち三人はこめかみに青筋を立てて、ムカっ腹。
だからとて棄権はしない。
それをしちゃうとなんだか負けたような気がするから。
それは他の参加者らも同じらしい。スピンをまぬがれた面々が、タイミングをはかりつつ、果敢にぐるぐる地獄の試練へと挑む。
◇
赤い流星と黒鉄の幽霊が道の両脇から、ほぼ同時にぐるぐる地獄内へと侵入。
たんに避けて進むのではなくて、回転しているクルマの動きに合わせて、ギリギリのところを通り過ぎていく。
障害物に対して赤い流星が二十センチほどの距離にまで幅寄せすれば、負けじと黒鉄の幽霊は十五センチにまで近づき、ドヤ顔。
するとムキになった赤い流星がさらにギリギリを攻めるといった具合に、無駄に張り合う両雄。
それに比べてやや苦戦していたのが、黒の三連星の碁台三兄弟。いつも三人いっしょ。兄弟ならではの息の合った連携こそが強みの彼らではあるが、あいにくと国道1号線に展開されているぐるぐる地獄内では、それがままならぬ。動きの制約のみならず、三人一組でないとという心理的な束縛をもみずからに課してしまい、どうしても運転がぎくしゃくしたものに。
しかし、それらを尻目に悠々と試練を突破した者がいた。
火車お七である。
姉御、まさかのコースアウトにて歩道を征く。
掟破りにて、ずんずん突き進む。火車お七が化けているのはメルセデス・ベンツSSKっぽいクラシックカー。縦長な車体は彼女の肢体のようにスリムにて、歩道の幅でもおかまいなしに突っ走れる。
とはいえ、ときおり歩道の幅が狭くなったり、電柱やら安全ポールがひょっこり立っていたりもするのだが、そのたびに彼女はぴょんと片輪走行を披露しては、なんなくこれを超えてゆく。
とんだ荒業! おれは「すげえけど、あんなのありかよ」と首を傾げずにはいられない。
しかし芽衣と瑪瑙さんら女性陣は「あっははは、かしこい」「じつに利にかなっています」と感心しきり。
でもって瑪瑙さんもさっそく真似すべく、歩道へとラリーカーを乗り入れた。
この局面であらわとなったのは男女の思考のちがい。
男は試練を前にして闘志をたぎらせ、これに挑む。
女は試練を前にして打開策を模索し、柔軟に対応してみせた。
とかくなんにでもムキになっては夢見がちな野郎どもと、現実的に物事を見極める女性たち。
技術を競っている間に、しれっと抜かれた赤い流星と黒鉄の幽霊こそが、いい面の皮であった。
「バカは死ぬまでまわってな」と火車お七。
「ごめんあそばせ」と瑪瑙さん。
かくしてまんまと首位へと躍り出た女たち。
箱根の山々が眼前へと迫ってくる。
いよいよレースは佳境へと。
あなたにおすすめの小説
古道具屋・伯天堂、千花の細腕繁盛記
月芝
キャラ文芸
明治は文明開化の頃より代を重ねている、由緒正しき古道具屋『伯天堂』
でも店を切り盛りしているのは、女子高生!?
九坂家の末っ子・千花であった。
なにせ家族がちっとも頼りにならない!
祖父、父、母、姉、兄、みんながみんな放浪癖の持ち主にて。
あっちをフラフラ、こっちをフラフラ、風の向くまま気の向くまま。
ようやく帰ってきたとおもったら、じきにまたいなくなっている。
そんな家族を見て育った千花は「こいつらダメだ。私がしっかりしなくちゃ」と
店と家を守る決意をした。
けれどもこの店が……、というか扱っている商材の中に、ときおり珍妙な品が混じっているのが困り物。
類が友を呼ぶのか、はたまた千花の運が悪いのか。
ちょいちょちトラブルに見舞われる伯天堂。
そのたびに奔走する千花だが、じつは彼女と九坂の家にも秘密があって……
祖先の因果が子孫に祟る? あるいは天恵か?
千花の細腕繁盛記。
いらっしゃいませ、珍品奇品、逸品から掘り出し物まで選り取りみどり。
伯天堂へようこそ。
ただいまクマの着ぐるみ警報、発令中!
月芝
キャラ文芸
とある地方に、ちょっぴり個性豊かな住人たちが暮らす町があった。
でも近頃、そんな町をにぎわしている変態……もとい怪人がいる。
夜ごと、クマの着ぐるみ姿にて町を徘徊しては、女性に襲いかかり、あろうことか履物の片方だけを奪っていくのだ。
なんたる暴挙!
警戒を強める警察を嘲笑うかのように繰り返される犯行。
その影響はやがて夜の経済にも波及し、ひいては昼の経済にも……
一見すると無関係のようにみえて、じつは世の中のすべては繋がっているのである。
商店街からは客足が遠のき、夜のお店は閑古鳥が鳴き、関係者の嘆きもひとしお。
なのに役所や警察はちっとも頼りにならない。
このままでは商店街が危うい。
事態を憂い、立ち上がったのは商店街の未来を背負う三人の看板娘たち。
精肉店のマキ、電器屋のシデン、古本屋のヨーコ。
幼馴染み女子高生トリオが、商店街の景気と町の平和の守るために立ち上がった。
怪人に天誅を下すべく夜の巷へと飛び出す乙女たち。
三人娘VS怪人が夜の街でバトルを繰り広げる、ぶっ飛び青春コメディ作品。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
乙女フラッグ!
月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。
それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。
ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。
拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。
しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった!
日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。
凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入……
敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。
そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変!
現代版・お伽活劇、ここに開幕です。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
それいけ!クダンちゃん
月芝
SF
みんなとはちょっぴり容姿がちがうけど、中身はふつうの女の子。
……な、クダンちゃんの日常は、ちょっと変?
自分も変わってるけど、周囲も微妙にズレており、
そこかしこに不思議が転がっている。
幾多の大戦を経て、滅びと再生をくり返し、さすがに懲りた。
ゆえに一番平和だった時代を模倣して再構築された社会。
そこはユートピアか、はたまたディストピアか。
どこか懐かしい街並み、ゆったりと優しい時間が流れる新世界で暮らす
クダンちゃんの摩訶不思議な日常を描いた、ほんわかコメディ。
娘を毒殺された日、夫は愛人と踊っていた――聖女と呼ばれた私は、王家を静かに崩壊させる
唯崎りいち
恋愛
異世界に転移し、“聖女”として王太子ジークフリートに嫁がされたフェリシア。
愛のない結婚の中で、唯一の救いは娘シャルロットだった。
しかし五歳の娘は、父から贈られたネックレスによって毒殺される。
娘が死んだ日。
王宮では祝賀会が開かれ、夫は愛人と踊っていた。
誰も娘の死を悲しまない世界で、ただ一人涙を流したのは、第八王子リュカだけだった。
やがてフェリシアは知る。
“聖女は子を産んではならない”という王家の禁忌と、娘の死の裏にある政治的思惑を。
――これは、娘を奪われた聖女が、王家を静かに崩壊へ導いていく物語。