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667 七福神めぐり ケツっぱりくねくね
しおりを挟む桃尻相撲の関脇・広末亮子。
ダイナマイトヒップに秘められた桃尻力は圧倒的にて、技術にも優れており、屈強な体躯を誇る商会長をもたやすく退けた。
そんな猛者と対峙する芽衣。
小兵であることを活かして素早さで相手を翻弄し、隙をついて……。
というのがセオリーではあるが、この九つの缶によって構成された狭い舞台では、その戦法は使えない。
ましてや攻撃手段は、あくまで尻のみという厳格な制約もある。得意の拳も蹴りも封印された状態では、さしもの狸是螺舞流武闘術の継承者とて戦いようがない。
「悪いけど、うちらもバイト代がかかってるんで、いくら小さい子でも手は抜けないよ。覚悟おし」
出来高払いにて、勝てば勝つほどにボーナスがつくそうで、広末亮子は初手からいっきに芽衣を圧殺にかかる。
小細工無用のヒップアタック。
巨大な肉弾が情け容赦なく、芽衣を吹き飛ばそうと迫る。
だが芽衣はまるで避けようとはせずに、その場を微塵も動かない。
「あぁ、やっぱりダメだぁ」
との嘆息を漏らしたのは高月商店街一同。
だがその表情が一転して「おっ!」と驚嘆にかわり、広末亮子は「なんだとっ!」と驚愕を浮かべる。
肉弾が当たる寸前のこと。
その場にてサッとしゃがみこんだ芽衣。姿勢を低くしてから「えいやっ」と低空飛行にて尻を突き出し狙ったのは、相手の膝関節。
この「落ちたら負けよ、いやん、桃尻相撲」という競技は、尻を主体に闘うという特性があるがゆえに、どうしても攻撃する瞬間には相手に背を向けることを余儀なくされる。そうしないと相手を尻で吹き飛ばせられないからだ。
しかしそれゆえにフクロウばりに首が回らないかぎりは、どうしたって死角が生じる。
ただでさえ大柄な身、厚い肉の塊、首もまた太く、これをめいっぱいにひねっても背後のすべてをカバーすることは、まず不可能。
だって広末亮子は人間だもの。
その構造上の弱点をつき、なおかつ自身の小柄なのを活かし、まんまと相手の死角へと潜り込んだ芽衣の膝カックンが炸裂っ!
意識外からの膝カックンは、たいそう効く。ましてや支えている身体が重たいとなれば、なおのこと。
「うおっ、あぶねえ」
ぐらりとバランスを崩して、あやうくうしろに倒れそうになった広末亮子。それでも日頃の鍛錬により踏ん張り、かろうじて転倒を阻止。
どうにかもちこたえたかと安堵しかけるも、直後に傾きがいっきに起こり、ついにはドテっと仰向けに倒れてしまった。
それを成したのは芽衣。
膝カックンにて、大きくバランスを崩した広末亮子。
ばたついているところを下に潜り込んでからの「喰らえ、ヒップアタックかちあげアッパー!」
ネコがつま先立ちにてシャーッと威嚇するときのようなポーズにて、天へと尻を突き出すタヌキ娘。
片足をすくいあげられたという次第であった。
◇
初勝利に沸く高月商店街一同。芽衣を胴上げして「わっしょ、わっしょい」
対して負けた広末亮子は「そんなバカな」と呆然自失。なにせ自分よりもずっと小さな相手にやられたのだから、それも無理からぬこと。
するとそんな彼女に「どけ、邪魔だ」と冷たく言い放ったのは、宝生寺チームの次鋒である大関・米倉祥子さん。
「小兵相手に不覚をとるとはな。桃尻相撲取りの面汚しめ。ふんどし担ぎから出直してこい」
両腕を開いたり閉じたり、カポンカポンと脇を鳴らす大関は、さすがの貫禄。
油断や驕りもなく、ただ粛々と戦いの場へと臨む。
広末亮子と背丈は同じぐらいだが、横幅がさらに広く、前後も厚い。加重三十キロぐらいか。だが尻の盛り上がりが逆にやや小ぶりなのが気になるところ。
関脇の尻を、パンの詰め放題でパンパンになった袋とするのならば、大関の尻は土嚢袋のような印象を受ける。
◇
大関・米倉祥子と芽衣の対戦。
立ち上がりはとても静かであった。
さすがは大関、うかつに飛び込んだりはしない。なにより狭い舞台の使い方がウマい。じりじりと動きつつ、相手を牽制、角の逃げ場のない死地へと追い込んでゆく。
はっと芽衣が気がついたときには、すでに土俵際。身動きを封じられていた。
そうして獲物を追い込んだとたんに、猛獣が牙をむく。
ドンッ!
突き出される巨尻。最短距離を一直線に迫る重たい攻撃。
これぞ米倉祥子を大関の地位にまで駆けあがらせた「尻ぶちかまし」なる技。
轟っと風がうなり猛然と直進する姿は、まるで新幹線の先頭車両のごときフォルム。跳ね飛ばされたらひとたまりもあるまい。
逃げ場のない芽衣。
これを正面から迎え撃つ。
されど小兵ゆえに、その尻撃はあまりにも軽く、とても対抗しきれそうにない。しょせんは無駄な足掻き……。
誰もがそう考えた。
けれどもそれは一発だけであったのならばの話。
塵も積もればなんとやら。軽い一撃も数がそろえば、それなりになる。
芽衣の腰が前後にくねくね高速回転。
さながら盛ったサルのごとき激しい動き。あまりのはやさに芽衣の腰部がぼやける。尻がいくつにも見える。
凄まじい速さにて次々とくり出される尻撃、尻撃、尻撃!
尻撃の雨あられ。
一分間腰振り世界記録があれば、まちがいなくギネスレコードを塗り替えたであろう動き。
高速尻撃がついに米倉祥子の「尻ぶちかまし」止めたばかりか、押し返しはじめたもので、「おのれ、こしゃくな!」と大関も負けじと腰をふりふり。
これによりケツっぱりの応酬にて、激しい乱打戦へと突入する。
缶の舞台に響き渡るは尻肉と尻肉が、ぺちん、ぱちん、ドコンと打ち合う音。
五、十、二十、三十、五十……ときて、ついに七十を数えようとした目前のこと。
ゴキリとイヤな音がして「うっ」と固まったのは大関。
ついに腰が限界を迎えたのである。
パワーがある分、腰への負担も大きい。それが急にヘンな動きをしたもので、ついにギックリときてしまったのであった。
その音に聞き覚えのある高月中央商店街の老人たちは、そろって「いやぁーっ」と悲鳴をあげた。
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