おじろよんぱく、何者?

月芝

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677 大根と餅巾着とガンモ

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 多賀藻食品株式会社の工場長である瀬戸明義。
 故・橋都十和子さんの書類上の養子である田村健司。
 ふたりの身辺をうろつき、揺さぶりをかけた五日後のこと。
 ようやく獲物がエサに喰いついた。

 ちょいと頼みたいことがあったので高月中央商店街の路地裏にて診療所を営む、光瀬菜穂のところへと顔を出し、コンビニに立ち寄って昼飯に食べようと熱々のおでんを買ってから事務所に戻ったところ……。

 目ざし帽をかぶった不審者らが事務所の床に転がっていた。
 この二人、おれが留守の間に忍び込もうとしたところを、第二助手のしらたきさんによって捕縛されたらしい。
 まんまと扉の鍵を開けて侵入したところを、後頭部からぶ厚い電話帳にてガツンと一撃。やるな、しらたきさん。

  ◇

 がっちり両手足を縛って拘束してから、目ざし帽を引っぺがす。
 フム、知らない顔だ。が、堅気ではない。裏稼業の人間特有のニオイがぷんぷんしていやがる。
 はてさて、たんに金で雇われただけか、連中の一味か。

「おい、そろそろ起きろ」

 つま先で小突くと「うーん」と目を覚ましたふたりは、すぐにハッとなり、自分が縛られていることに愕然とする。
 それを見下ろしながら、おれは言った。

「おまえたち、運がいいぞ。いま、ちょうどおでんを買ってきたところなんだ。いっしょに喰おう。なに? いらない。ふふん、遠慮するなよ。おれの奢りだ。たんと召し上がれ」

 ほどよく冷めていたので、小鍋に移し替えてぐつぐつぐつ。
 マグマのごとく煮えたぎったところで、さっそく熱々の大根を喰わせてやろうとしたら、めいっぱいに顔をそらしてイヤイヤと駄々をこねる侵入者のかたわれ。
 しょうがないのでおれはパチンと指を鳴らす。
 すかさず天井からだらりと垂れさがったのは怪異・白い腕ことしらたきさん。むんずと男の顎を掴んでは、これを固定して強引に口を半開きにする。
 そこに大根を投入。
 たちまちお口の中が灼熱地獄となり、たまらず吐き出そうとしたところを、「ダメだろう。食べ物を粗末にしちゃあ。もったいないお化けがでちゃうよ」とおれが手で塞いで阻止。
 するとしばしジタバタ暴れていたものの、すぐにぐったりしてしまった。
 精神的にも物理的にも少々刺激が強すぎたらしい。

「ちっ、しょうがない。じゃあ、次はお前だ。具は何がいい? おれのオススメは餅巾着かガンモかな。なんならふたつまとめていくか? 汁をたっぷり吸ってるから、たちまち昇天すること請け合いだ」

 でもって同じようにしようとしたのだが、こちらはさらに根性なしにて、しらたきさんに頬を撫でられただけで、ふたたび気を失ったしまった。
 散々悪いことをしてきたであろうに、怪異ごときにビビるとは、わけがわからん。
 おれは憮然としつつも、愛用のガラケーを取り出しピッ、ポッ、パッ。
 連絡をとった相手は光瀬菜穂。

「あー、悪い。さっそくさっき頼んだやつを持ってきてくれ。事務所に帰ったら罠に引っかかってた」
「了解。すぐに持っていくわ。ちなみに私、お昼まだなんだけど」

 暗に「おごってほしいなぁ」との催促をされたおれは言った。

「おでん、好きか?」

  ◇

 注射器の中に入っているのは怪しげな黄色い液体。
 芽衣がよく飲んでいるビタミンC配合の炭酸飲料に似ているそれの正体は、光瀬女医特製の自白剤。効果抜群にて、問われるままに知っていることをベラベラ話したあとは、前後、三日分ほどの記憶を消失するというオマケつき。体内に残ったやばい成分もさらりと散っては、おしっこといっしょに排出されるから、まずバレる心配がないとのこと。

 もしかしたらこの手の薬品を所持しているかなぁ。
 と試しに声をかけてみたら「あるよ」とのいい返事にて、ウシ女医が「これ」と小瓶を棚から取り出した。

「自分で訊いておいてなんだけど、町医者風情がいったい何に使うんだ? というか、まさかおれに使ってねえよな?」

 率直な疑問をぶつけたら、ついと顔をそむけられた。

 そんないわくつきの品を捕獲したふたり組にちゅちゅっと注入。
 効果があらわれるまで待つこと十分。
 その間に、おれと菜穂はおでんをつつく。

「タマゴもーらいっ」
「あっ、おまえ、真っ先にそこ行くか、ふつう。まずは大根からだろうが」
「甘いわね、尾白くん。私は欲望に忠実な女。食べたいものから先に食べるの」

 おでんの小鍋を囲んでわちゃわちゃしているうちに、薬物浸透、準備完了。
 さっそく事情聴取を開始。
 するとうれしいことに、この侵入者、敵勢の実行部隊の一員であることが判明し、ボスのことやらアジトのことなんぞ、いろんな情報がごろごろ出てきたもので、ラッキー!

「よしよし、これで依頼人にもいい報告ができそうだ。それに橋都十和子さんの仇も討てるぜ」


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