おじろよんぱく、何者?

月芝

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757 聖地巡礼

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 誰かに見られている……。

 近頃やたらと視線を感じる。
 芽衣に「なんだが誰かに見られているような気がするんだけど。もしかして聚楽第の監視かな」と相談したら「いや、さすがに連中もそこまで暇じゃないでしょう」と一蹴された。
 おれも「まぁ、そうだよなぁ」といちおうは納得しつつ、仕事がらみでどこぞより逆恨みを買っていることもありえるから、念のための用心はしておく。とりあえず夜間の外出はなるべく控えることにした。
 だというのにである。
 事態は改善するどころか、むしろひどくなっていく。
 これは精神衛生上、きわめてよろしくない。
 だからおれは相手を特定しようと試みる。

 商店街をぶらぶら。
 視線を感じたところで、わざと寂しい路地へとふらり。
 すぐさま物陰に身を潜めて様子をうかがう。
 が、いくら待てども追跡者はあらわれず。
 敵もさるもの、なかなか尻尾を出さない。

 ならばとお次はファーストフード店に入り、二階の窓際のカウンター席に陣取る。
 ここからならば店先が丸見えかつ、二階へあがってきた者の正体も丸わかり。
 けれども待てどもそれらしい者はあらわれず。きたのはきゃぴきゃぴした女子大生風の集団とおぼしき面々のみであった。

 誰もいない道でいきなりふり返ったり、急に走り出したりなんてマネもしてみたが成果なし。
 逆にあえて人混みにまぎれてつつ、こっそり周囲をデジカメでぱしゃぱしゃ。
 画像よりそれっぽいのがついてきていないかを探ってもみたが、特に目をひくような相手はいなかった。
 フム。よほど正体を隠すのが巧みな相手のようだ。
 でもだからこそわからない。
 そこまで巧みに姿を消せるのに、どうして気配を残す?
 監視対象に視線を感じさせる?
 なんていうか、ちぐはぐなのだ。

  ◇

 事務所にておれが現像した写真を眺めながら「う~ん」とうなっていると、「何の写真ですか?」と芽衣、写真を手にとりしげしげ眺めつつ。

「これはうちの商店街ですよね。いつ撮ったんですか? えっ、今日の午前中。へー、そんな時間帯なのにずいぶんと若い人が多いんですねえ。いつのまにか映えスポットでもできたのかしらん。でもそんなのがあったら学校でとっくに話題になってるはずなのに」

 不思議そうに首をかしげる芽衣。その言葉に、おれは「あっ!」
 よくよく考えてみれば不自然な現象がしっかり撮影されているではないか。
 だってここはあの高月中央商店街なんだぞ。
 本職よりもガチっぽい商会長をはじめとしたクセの強い面々が勢ぞろい。高月の地、屈指のディープスポット。べったべたのこてこて、生活感満載にて、おしゃれスポットとは対局に位置する場所である。
 ゆえに今どきの若い子なんてほとんど素通り。
 というか若い連中はたいてい駅向こうのおしゃれな高月城北商店街へと行く。

 だというのに写真の中には、こじゃれた格好の姉ちゃんたちがけっこうな比率で混じっている。ひとりふたりぐらいならば、たまたまということもあるだろうが、これはさすがに多すぎる。
 通りすがりなんかじゃない。
 明らかになんらかの意図を持ってこの場所に踏み入っている。

「……ひょっとしておれのファン、とか」

 そういえば視線にはまったく悪意や害意が感じられなかった。それどころかよくよく思い返してみれば、むしろ好意的ですらもあったかも。
 なんぞとおればつぶやけば、芽衣が「そんなわけないじゃん」とこれを言下に否定する。
 しかしタヌキ娘はおれの発した「ファン」という単語にて、何かを閃いたのか、自身のスマートフォンを取り出すなりちゃちゃっと操作を開始。
 で、すぐに「あー、わかりました。ナゾの視線の正体はたぶんこれですよ」と画面をみせた。

 小さな画面に表示されてあったのは怪盗ワンヒールのファンサイト。
 黒を基調としたシックなデザインは超クール。
 内容はヤツの活動記録、交流掲示板、被害者たちからのコメント、他にも二次創作の小説やらマンガどころか、ファンが作成したPVやテーマソングまで公開されている。
 あいかわらずの盛況ぶり。
 いつのまにかアクセスカウンターが三十億を越えているんだけど!

 で、問題は交流掲示板のところ。
 いまもっとも盛り上がっているのが「聖地巡礼」というスレッド。
 どうやらファンたちの間では高月の地を訪問するのが流行しているらしい。
 そして実際に現地を訪れたとおぼしき者が、こんなことを書き込んでいた。

『残念ながらワンヒールさまには会えなかったけど、例の探偵をみつけたよ。同人誌の小説のイメージ通りでちょっとびっくり! 安定のダメダメ具合(笑)。あれは一見の価値あり』


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