759 / 1,029
759 一触即発
しおりを挟むいつものごとく事務所のドアを蹴飛ばし入ってきたのは、カラス女。
開口一番「いったいどうなっていやがるっ!」
不良刑事はずいぶんとご機嫌斜めだ。
当人の口から語られたところによれば、理由はおれと同じ。向けられる視線のせい。
ただし、おれの場合とはちがって、視線には険が含まれており、ときおり舌打ちなんぞも混じるらしい。
余計なオマケがくっついているのは、安倍野京香が過去にやらかしたのが原因。
かつて怪盗ワンヒール、怪人インソールあらため怪人インソールダブルエックス、尾白探偵事務所らによって行われた高月変態三番勝負。
あれやこれやあって決着は最終戦までもつれ込む。
いよいよクライマックスという場面にて。
タワーマンションの屋上ヘリポートで、まんまとお宝をゲットして逃げようとしていた怪盗ワンヒールめがけて、カラス女はズドンと発砲。
いきなり脳天を撃ち抜かなかっただけでも、おれからすれば上出来な気がするのだが、傍目にはそうは映らなかったようで……。
怪盗ワンヒールのファンたちは、この暴挙に激怒!
結果、ファンたちの間では、おれは怪盗の引き立て役のダメ探偵として、安倍野京香はとんでも不良刑事として、広く知られることになる。
とどのつまり、カラス女はヒール役として認定されてしまったのだ。
そして始まった聖地巡礼。
こぞって高月の地へと足を運ぶ熱心なファンたちは、街中で探偵を見かけたら「ぷぷぷ」と失笑し、黒づくめの女刑事を見かけたら「けっ」と地面にツバを吐いての舌打ちにて中指をおったてる。もしくは親指をクイッとさげる。
因果応報、すべては自業自得である。
おれは「ご愁傷さま」としか言えない。
だというのにだ。カラス女が掴みかかってきては「なんとかしろ、四伯!」なんぞと無茶をいう。
「げふっ、く、苦しい。いや、だから、そういうところがダメなんだって」
「っ! いいからどうにかしろ。うっとうしくってかなわん」
「そんなことをいったって……。あー、だったら輝子お嬢さまに頼んで、サイトの方から注意喚起をしてもらうとか」
お嬢さまとは怪盗ワンヒールのサイトを運営している花林園輝子のこと。
ゆるふわカールの妙齢の乙女。かつて怪盗会いたさに懸賞金をかけたこともある良家のお嬢さま。怪盗のターゲットにされたときに、ハイヒールの片方だけでなくまんまとハートまで盗まれてしまった。恋しい想いが募るあまり、ついにはファンサイトをも立ち上げ現在へと至る。いまでは趣味が高じて、そっち方面の仕事でもバリバリ活躍中の超やり手のサイト運営者。
「それだ! よし、いまから行って直談判するぞ。四伯、おまえもついて来い」
「はぁ、なんでおれが」
「いいからこい! ひとりよりもふたり、クレームってのは数と勢いがモノをいうんだよ」
言い出したらききやしない。
どうしておれの周囲はこんな女性ばかりなのだろうか?
とはいえ少なからず迷惑をこうむっているのはおれも同じなので、ついでだから頼んでみるのもアリか。
サイトの端っこにでも小さく『探偵さんはデリケートな生き物です。不用意に触れようとはせずに、そっとやさしく見守ってあげてください』との注意書きでも表記してもらえれば、この騒動も少しは落ちつくかもしれん。
◇
そんなわけで事務所をそろって出たおれとカラス女。
「で、どっちに向かう?」
「とりあえず近場のマンションの方からあたろう」
花林園輝子の実家は高月北部の高級住宅街にあり、大豪邸にて超リッチ。
それとは別に駅前のタワーマンションの最上階にも部屋を所有している。
同じ階にはカラス女にベタ惚れの鹿島紗月と、彼女の専属メイドである宇陀小路瑪瑙が住んでいる。
高級ワインや豪奢な食事をエサに、誘われるままにちょくちょくお邪魔をしているカラス女は、勝手知ったる場所から攻めるつもりのようだ。
でも意気揚々と雑居ビルを一歩出たところで、おれたちはびくりと固まった。
表はしぃんと鎮まり返っており、異様な空気が張り詰めている。
まだ昼間にもかかわらず人通りが途絶えている。
雑多なごみごみ感が持ち味のうちの商店街にしては、かなり不自然な状況。
「なんだ?」
「はて?」
おれたちはそろってコテンと首をかしげた。
この状況を作り出していたのは、ふたつの集団。
ちょうどうちの雑居ビルの入り口を挟むようにて対峙している。そいつらが堰となって人の流れを遮っていたのである。
多い……かなりの人数だ。双方ともに五十人前後はいるんじゃなかろうか。
そんな集団同士がにらみ合っている。剣呑にて一触即発といった雰囲気。
どっちがどっちなのかはわからないけれども、どうやらここにきて攻め派と受け派が、ついにがっつりかち合ってしまったようだ。
そんなところにのこのこ姿をあらわしてしまったおれたち。
気づいたときには双方からじーっと見つめられており、おれたちは顔を引きつらせる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
古道具屋・伯天堂、千花の細腕繁盛記
月芝
キャラ文芸
明治は文明開化の頃より代を重ねている、由緒正しき古道具屋『伯天堂』
でも店を切り盛りしているのは、女子高生!?
九坂家の末っ子・千花であった。
なにせ家族がちっとも頼りにならない!
祖父、父、母、姉、兄、みんながみんな放浪癖の持ち主にて。
あっちをフラフラ、こっちをフラフラ、風の向くまま気の向くまま。
ようやく帰ってきたとおもったら、じきにまたいなくなっている。
そんな家族を見て育った千花は「こいつらダメだ。私がしっかりしなくちゃ」と
店と家を守る決意をした。
けれどもこの店が……、というか扱っている商材の中に、ときおり珍妙な品が混じっているのが困り物。
類が友を呼ぶのか、はたまた千花の運が悪いのか。
ちょいちょちトラブルに見舞われる伯天堂。
そのたびに奔走する千花だが、じつは彼女と九坂の家にも秘密があって……
祖先の因果が子孫に祟る? あるいは天恵か?
千花の細腕繁盛記。
いらっしゃいませ、珍品奇品、逸品から掘り出し物まで選り取りみどり。
伯天堂へようこそ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる