おじろよんぱく、何者?

月芝

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855 おみくじ狂騒

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 四番手は零号、サイコロの出た目は五、マスには何も書かれていない。
 で、いよいよおれの番が回ってきた。出た目は三にてタエちゃんの青い駒と同じマスにおれの黒駒が並ぶ。そしておみくじを引くのだが……。

「おっ、重っ!」

 一斗缶を三つ繋げたようなでっかいおみくじは、見た目以上に重かった。
 あと取っ手の類が一切なくて、表面がツルツルしているから、とっても持ちづらい。そんなシロモノを軽々としゃかしゃかするうちの女性陣。
 だがおれも男だ。ここは意地で持ち上げて、どうにかクジを引く。
 あっ、いま、腰のあたりがぴきりときた。ちょっとやばいかもしれない。

「小凶、金運いまいち、恋愛運いまいち、健康運いまいち、腰に注意。あと足下にも注意、菓子難の卦あり。水難の兆しもあり」

 いささか腰に不安を抱えたまま開いた「みくじ箋」には「いまいち」の文字が並ぶ。
 どうしておれのだけ? なんだかちょっとイラっとくる言葉だよね。でもって菓子難って何だよ?
 みんなも首を傾げている。
 おれはとりあえず自分の足下を確認するも、特に異常はなし。
 かと思ったのだが、少し片足を浮かしてずらしてみれば、足の裏から伝わってきたのはぐにゃりというイヤな感触。
 ガムだった。口の中でくちゃくちゃしたあとに、出涸らしがペッと道端に捨てられてある迷惑なアレだ。
 さっきまで床の上にそんなモノはなかったはずなのに……。

「ちっ、最悪だ。よりにもよってお菓子ってガムのことかよ! クツの底にべったりくっついてやがる」

 これはダメだ。クツ底の溝にしっかりこびりついており、簡単にはとれそうにない。
 うぅ、動くたびに、ねちゃんねちゃんして気持ち悪い。
 なのでおれはみんなに断わって、いったん中座し階下へと。もちろん汚れたクツを洗うためだ。その間、みんなにはスゴロクを継続してもらう。
 だがそんなおれを水難が襲う。
 風呂場で水道を借りようとしたらシャワーになっていた。ブシャーッとモロかぶりにて、おれは全身びしょ濡れ。こんちくしょうめっ!

 すっかり濡れネズミとなってしまった。ぐすん。
 しかしこうなってはもうしようがない。おれは開き直ってすっぽんぽんとなり、裸でクツを洗う。
 おっさんがフルチンでごしごし。風呂の壁に設置されてある鏡に映る己の姿に、ちょっと泣けてきた。それと同時にイラついた。
 だからついでに熱いシャワーを「ふふふん」と鼻歌まじりで浴びてやった。ちょうど風呂も沸いていたので入ってビバノンノ。柑橘系の入浴剤が置いてあったので勝手に投入。ふぅ、たいそういいお湯でした。

 湯上りに台所で、キンキンによく冷えたビールをいただき「かーっ」と喉を鳴らす。
 バスタオルとか一式そろっていたので助かった。
 なお濡れた自分の衣類は乾燥機にぶち込んで置いた。十五分ほどで仕上がるらしいので、機械に任せておく。

  ◇

 着替えを済ませ、飲みかけの二本目の缶ビールを片手に屋根裏部屋へと戻ったら、場が騒然としていた。
 頭を抑えてうずくまっているタヌキ娘。
 なぜだか女性ファッション雑誌の表紙を飾るトップモデルのような服装になっているヘビ娘。
 目を血走らせて猛り吠えているトラ猛女なんて、半獣化しちゃっているし。
 かわらずツンとすまし顔なのは零号のみ。

「ずいぶんと遅かったですね。そのお姿から察するに、すっかり開き直られたご様子。さすがは尾白さんです」
「ふん、もう遠慮はやめた。それよりも零号、これはいったいどういった状況なんだ?」
「はい、かいつまんで説明しますと……」

 一番手の芽衣、またしてもサイコロで六の目を出すも、これまた「おみくじを引く」のマス目。結果は小凶。そしてまたまた落ちてきた金盥にぐわんと脳天をやられたのだが、今度の金盥は二回りほど大きくかつ重かった。それゆえに絶賛、悶絶中。
 二番手のタエちゃん、サイコロの目は三にて、これまた「おみくじを引く」のマス目にて、結果は小吉。とたんに体がキラキラと輝いたとおもったら、メイクアップでドレスアップ! シンデレラのごとき変身を遂げて、当人はひどく困惑中。
 三番手のトラ美、サイコロの出た目は二だけれども、進んだ先は「二マス戻る」にて、これまたおみくじを引くハメに
 結果は小吉であったのだが、「身内に吉事あり、妹に彼氏ができる」との文章を呼んだ瞬間にブチッ! トラ美こと孤斗羅美には妹がいる。名を玲花といい、ハーフパンツがよく似合う元気なボクっ娘。トラ美はそんな妹をとても大事にしている。そんな大事な妹に悪い虫がついたと知って、激怒のあまり獣人化。
 四番手の零号、サイコロの目は五にて、駒を進めたマスには何も書かれていない。みんながおみくじを引いては悲喜こもごも。なのに自分だけ引けないことに、ちょっとつまらない。

 小凶やら小吉でこのざま。
 もしも大凶なんぞを引き当てたりしたら、どうなることやら。
 おれはドキドキしながらサイコロを振る。そして出た目は五。
 進んだ先のマスには「二マス戻る」という非情な文字。
 というわけでおれも「おみくじを引く」の刑を喰らったのだが……。
 恐るおそる開いた「みくじ箋」に書かれていた吉凶の文字は「たいら

「なんじゃこりゃあ?」

 おれは素っ頓狂な声をあげた。


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