おじろよんぱく、何者？

876 獣王武闘会本戦 一回戦第三試合 前編

　
　一回戦第三試合、ワールドベアーズＶＳ獣空手。
　対戦形式は星取り形式。
　ワールドベアーズはそのチーム名の通りのメンバー構成。
　先鋒パンダの張林ちゃんりん、次鋒クロクマのジョニー・デック、中堅ヒグマの久保昭くぼあきら、副将グリズリーのピエール・ジョセフ・クラウセン、大将ホッキョクグマの緒太守兜来おたすつくるという順番で試合に臨む。
　対するチーム獣空手。こちらは種族混合にて、共通しているのは全員が獣空手の有段者ということ。

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　動物は種族ごとにカラダの形態や、その生態も様々。ゆえに固有の武術を産み出し、これを代々研磨しては相伝していることが多い。
　キツネならば狐崑九尾羅刃拳ここんきゅうびらじんけん。
　トラならば滅爛虎慄紅武爪術めらんこりっくぶそうじゅつ。
　ヘビならば累かさね。
　タヌキならば狸是螺舞流武闘術りぜらぶるぶとうじゅつに、屋島蓑山流四十八霊やしまみのやまりゅうしじゅうはちれいなど。
　けれどもモノによっては一子相伝であったり、秘伝扱いされていたり、門戸が狭かったり、習得が困難であったり、種の衰退のせいで伝承が途絶えてしまっていたりすることもままある。

　だが身を守る術は必要だ。
　そんな求めに応じて生まれたのが獣空手。人間に化けている動物用に改良された空手にて流派は多く、動物界ではもっとも広く普及している武術。
　来るもの拒まず去る者追わず。種族を問わず誰にでも門を開いており、各地に道場があるので、その気になればいつでも学べる。それこそ気軽なエクササイズ目的から、より本格的な格闘技の習得を目指すことまで。
　実力もさることながら、その裾野の広さ、門人数の多さ、資金力、組織力を背景に、動物界では一大派閥を形成している。

　そんな獣空手業界から送り込まれた精鋭チーム。
　先鋒土佐犬の武田克頼たけだかつより、次鋒イノシシの高山宗治たかやまみのはる、中堅黒毛牛の佐渡豪さわたりごう、副将はチームの紅一点であるリビアヤマネコの春海凪はるみなぎ、大将ライオンの千石京志郎せんごくきょうしろうという布陣。

　　◇

　第一試合、第二試合、ともにド派手で圧倒的な試合展開であった。
　それに比べると第三試合はちょっと控え目な印象を受けていたのだが、いざ幕が上がってみたら客たちは総立ちで、会場は興奮の坩堝と化す。
　理由は、両チームの戦闘スタイル。
　ワールドベアーズは巨躯によるパワーを活かして、敵を薙ぎ払う。
　獣空手は鍛え上げた拳と技で相手を攻め立てる。
　あとのことなどまるで眼中になし。かけ引き、何それ？　小細工無用。
　ただ目の前の相手に集中し、一心不乱に全身全霊でもって挑む。
　嬉々として正面からガンガン殴り合うバトルジャンキーども。
　血沸き肉躍る試合展開はとても豪快で、それでいて素人目にもわかりやすい。
　観客たちはますますヒートアップ。その声援に後押しされるかのようにして、選手たちも不敵な笑みを浮かべては、応酬がより苛烈になっていく。

　チカラのワールドベアーズか。
　技？　の獣空手か。
　先鋒戦を土佐犬の武田克頼が制すれば、次鋒戦はクロクマのジョニー・デックが競り勝ち、中堅戦は激闘の末に両者倒れて引き分け。
　一進一退の攻防が続く中、闘技場に立ったのは紅一点のリビアヤマネコの春海凪。
　汗と血と男汁飛び散るむさ苦しい肉弾戦が続いて、ちょっと食傷気味であった観客たちにとって、彼女の登場は一服の清涼剤となる。
　かと思われたのだが、それは甘かった。
　猛々しい面子の中にあって、副将に据えられたのは伊達じゃない。
　試合開始の合図とともに、ネコなのに豹変する春海凪。
　その戦いぶりは清涼剤どころか、ギンギンにみなぎるエナジードリンク！
　血液飛沫量および肉体破損率が五割増し！
　春海凪は身長差や体格差なんぞはものともせず、自分よりもずっと大きなグリズリーのピエール・ジョセフ・クラウセンを終始圧倒する。
　俊敏にて相手を翻弄し、ぶ厚い肉の鎧は手数の多さにて打ち崩す。足のスネやら甲、肘や膝の関節など、急所から急所へと流れるような連撃。途切れることのない怒涛の攻めにて、ピエール・ジョセフ・クラウセンに何もさせなかった。

　かくして二勝一敗一分けにて、獣空手が優勢にて大将戦へともつれ込んだ第三試合。
　もう後がないワールドベアーズは、何が何でも勝ちにくるであろう。悠然と闘技場中央に進むホッキョクグマの緒太守兜来。
　これを迎えるライオンの千石京志郎は立ったままで目を閉じては、精神を集中し、静かに闘気を高めていた。