おじろよんぱく、何者?

月芝

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884 獣王武闘会本戦 一回戦第五試合 前編

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 休憩を挟んでBブロック予選がいよいよ始まろうとしている。
 一回戦第五試合、ロストブラッドVS四国連合。

 四国連合を率いるのは平多紀理たいらたぎり。「オーッホッホッホッホッ」という斜め四十五度の高笑いと金髪縦ロールがトレードマークの豪奢なお嬢さまタヌキ。三大化けタヌキの一雄である屋島太三郎狸の直系の娘。歴代当主の阿呆の血が祟って没落一直線な淡路の芝右衛門の子孫であるの芽衣の洲本家とはちがって、こちらの歴代当主はそろって超優秀。おかげさまにて平の家はとってもお金持ち。土地持ち、山持ち、寺社持ち、船持ち、その他にもいくつもの事業を手がけており四国では知らぬ者なしというお家柄。そして天はそんなお嬢さまに武の才までも与えており、若くして屋島蓑山流四十八霊の免許皆伝の腕前。
 ちなみに屋島蓑山流四十八霊やしまみのやまりゅうしじゅうはちれいは、四国のタヌキたちに伝承されてきた合気道に似た武術。四十八の基本の型を組み合わせることによって、ありとあらゆる攻撃に対処し、これを受け流し、ときに倍加にして跳ね返す。専守防衛を信条とする。

 チームメンバーは全員が屋島蓑山流四十八霊の遣い手にして、公私に渡って平多紀理を支えている面々。

 安房野弁天あわのべんてん
 誰彼かまわず「ああ~ん」とメンチを切っているのは、カリアゲつんつん頭の若いタヌキ娘。田舎ヤンキー丸出しのケンカ上等オラオラ系。こう見えて免許皆伝の腕前。

 戸佐森弓弦とさもりゆずる
 平多紀理と安房野弁天のふたりとは幼馴染みの間柄にて、昔から気の強い彼女たちに振り回されている草食系男子のタヌキの青年。いつもおどおど、きょどきょどしており、ちょっと頼りないけれども、こう見えてやはり免許皆伝の腕前。

 香川重盛かがわしげもり
 チームのお目付け役。白髪交じりの頭にて人畜無害っぽい中年男。体力こそは若い連中におよばないものの、それを補ってあまりある経験値がある。なんといっても間合いの取り方が巧い。ふだんは執事兼秘書のような仕事をしている。これまた免許皆伝の腕前にて年少組の道場の師範も任されており、平家の信任厚きタヌキでもある。

 絵島郁恵えじまいくえ
 本戦に合わせて投入された新メンバーの五人目。なお郁恵というのは源氏名にて本名は新五郎という。この時点ですでに薄々お気づきであろうが、彼もとい彼女はオカマのタヌキである。ふたつに割れた逞しいアゴで見た目はムキムキ、でも中身は乙女。いちおう免許皆伝ではあるが現時点では実力未知数。

 なかなかに濃いキャラを揃えてきた四国連合。
 これと対するは獣王武闘会の東国予選を制したロストブラッド。
 彼らの戦いの様子を記録した映像の類が一切なく、人伝に入ってくる情報は予選会で発揮された圧倒的強さと、その残虐性ばかり。そして忘れてはならないのが、このロストブラッドもまた聚楽第の紐付きのチームであるということ。
 本戦ではわざわざチームリーダーを交代しての参戦となる。

 新リーダーは蛾舎泰造がしゃたいぞう
 灰色のぼさぼさ髪をした大柄な老人。先々代の頃から八海山家に仕えている従者で、現在は八海山白雪に従属し、陰日向にて彼女を支えている。その正体はニホンオオカミの、たぶん唯一の生き残り。実力は未知数ながらも、まとっているオーラが半端ない。トップクラスの猛者であることはまず間違いない。
 以下、好古よしふる景親かげちか重衡しげひら為朝ためともという若者たちがメンバーなのだが、試合前のアナウンスにより紹介された彼らの種族や経歴が明らかとなったとたんに、会場中がざわざわざわ……。

 好古はニホンオオカミ。
 景親はタスマニアタイガー。
 重衡はフォークランドオオカミ。
 為朝はエゾオオカミ。

 みな地球上から姿を消したはずの者たち。
 よもや、それの生き残りが!
 なんてことを能天気に喜んで信じる阿呆は、この地に集った連中の中にはひとりもいないだろう。
 なにせ動物たちはみな厳しい生存競争を勝ち上がって、いまここにいる。だからこそ知っているのだ。そんなお伽噺みたいな幸運なんてありはしないことを。動物にとって滅びは対岸の火事ではないのだ。
 天狗は唯我独尊。
 鬼族は人間たちと協調路線をとりつつも一線を引いている。
 では現在地球上でもっとも繁栄を謳歌している人間はというと、彼らこそがもっとも多くの種族を葬ってきた元凶であることは、誰もが知るところ。そのくせ妙な仏心を起こしたりもする。銃でバンバン乱獲しておいて、残りわずかとなったら保護とか勝手をぬかす。
 でもって、ロストブラッドの面々なのだが、蛾舎泰造を除いて厳密には生き残りではなかった。
 彼らは人為的に再生された種族。
 遺伝子培養にて復活、世に産み落とされた人造アニマルであったのだ!

 勝手に滅ぼして、勝手に再生する。
 神の御業か、悪魔の所業か。
 クローン技術の暴走ともいえる存在を目の当たりにして、観客一同は騒然となった。


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