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951 獣王武闘会本戦 準々決勝第四試合 鬼相撲の横綱
しおりを挟むずぅぅうぅぅぅぅん。
地響きとともに砂塵が舞い上がった。
車体が軋み、タイヤがぎゅるぎゅると虚しく空転する。
牛頭泰造がおれの化けたダンプカーを投げ飛ばして横転させた。
度肝を抜く投げっぷり。
その直後に、会場の司会者席から選手紹介のアナウンスが流れる。
それによれば、この赤鬼さん、じつは鬼相撲の横綱なんだと!
ちなみに鬼相撲とは、鬼たちの鬼たちによる鬼たちだけの相撲のことである。
横綱を頂点として、大関、関脇、小結、前頭、十両、幕下……と続くのは人間の角界と同じ。ただしルールが古式に乗っ取っており、少々荒っぽい。現代の投げ主体の取り組みとはちがって、打撃の応酬に蹴りや、踏みつけの追撃もある。流血、骨折なんぞは当たり前、「よい子はマネしちゃだめ!」な過激な内容ゆえに、とてもではないが国営放送では流せやしない。
でもって、牛頭泰造は次期赤鬼族の副長候補でもあるんだとか。
ついでに先にトラ美とやり合った紀田純一は次期緑鬼族の副長候補でもあったそう。ようは乾斑目の後釜ということ!
とどのつまり彼らは鬼の位階は真ん中でこそはあるものの、かぎりなく上位に近い中の上なのであった。
土煙の中、さらなる追撃をと牛頭泰造が狙う。
だが、その鼻先をビュンとかすめたのはアスタコ重機のアームである。
横転にて「イテテテ」と涙目になりながらも、おれはすかさず「変化!」
化け術の重ねがけにて、ダンプカーからザリガニの異名を持つ解体重機へと、ドロン。
なお今回のアタッチメントは右腕を物をつかむグラップル、左腕をコンクリートやアスファルトを砕く圧砕機というバージョンだ。どちらもハサミ型だがグラップルは爪のような形状で丸太とかを掴むことに特化している。そして圧砕機は石やコンクリートの塊なんぞを掴んではぐしゃりと握り潰すのに特化している。
器用とパワーを持つマシンアームが、赤鬼へと襲いかかった。
先の一撃は牽制目的。
びくりと赤鬼が足を止めてのけ反ったところでキャタピラが唸り、接近した。マシンの上半身が水平に三百六十度ぎゅるりと右に旋回する。たっぷり遠心力を乗せてからの、横薙ぎの一撃が垂れ込める砂塵を振り払う。
けれども牛頭泰造は頭を下げて、これをギリギリのところで回避した。
だがしかし……。
「甘い! ザリガニの異名は伊達じゃないっ」
右腕の薙ぎに続いて左腕が唸り、赤鬼に炸裂した。
とっさに腕で直撃こそは防ぐも、それでも大柄な身が吹き飛ばされる。
が、倒れはしない。
おもいのほかに打撃の感触が軽かった。ごつい見た目によらず柔軟かつ重厚な筋肉だ。不意打ち気味の一撃にもかかわらず体勢が崩れたのは、ほんのわずか。まるで大地にどっしり根を張っている千年杉を彷彿とさせる。おそるべき体幹である。
加えて反応もいい。衝撃を吸収しながら、みずから飛んで威力をほとんど殺された。
さすがは鬼相撲の横綱、簡単には土をつけさせてはもらえないらしい。
◇
いったん仕切り直し。
掴んで動きを封じようとする、こちらの右腕をかわしながら、赤鬼が張り手をかましてくる。これを操縦席にいるしらたきさんが巧みなレバー捌きにて、間合いを見切りかわしつつ、ときに左腕で打ち合う。
鬼の豪腕とマシンの豪腕が、がつん! がつん! とぶつかる。
その度に、重機ボディがびりびり震えて、おれは内心でひやひやものである。
通常のアスタコの重量は十三トンぐらい、自衛隊などで使用されている特別機はひと回り大きくて二十トンといったところ。現在、おれが化けているのは中間ぐらいのサイズにて、推定十五トンといったところだ。
ダンプカーが積載量込みの総重量で十トンほどだったので、それに比べたらずっともっと重い。
が、油断ならない。
下手に懐に入られたら、牛頭泰造に「えいや」とうっちゃられそうな気がする。
操縦席のしらたきさんも同じ考えらしく、がっつり組み合うのを嫌っているようだ。
両雄の思惑が交差し、せめぎ合う。
勝負はしばし間合いを制する、緊迫した陣取り合戦の様相へと――。
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