おじろよんぱく、何者?

月芝

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996 狂戦士

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 はっと目を醒ました蛾舎泰造、慌てて上体を起こすも痛みのあまり「ぐぬ」とうずくまる。
 それを見下ろし「大丈夫か?」と声をかけたのは、くわえタバコの尾白四伯であった。

「わしは嬢ちゃんに負けたのか……」

 尾白がうなづくと蛾舎泰造は「そうか、負けたか」とぽつり。
 負けたのは彼だけじゃない。並んで横たえられているロストブラッドの面々と英円の姿もあった。
 みな酷いあり様、だがきちんと手当てが施されている。

「すまん。世話をかけたみたいだな」
「えーと、まぁ、気にすんな。試合が終わればノーサイドってな」

 そう言った尾白だが、彼および彼のチームメイトたちもまた、けっこうズタボロであった。
 その様子に、「そっちも相当に激しい戦いになったようだな」と蛾舎泰造が言えば、尾白は気まずそうについと顔をそらした。
 じつは……。

  ◇

 時を少しばかり遡って――。
 洲本芽衣が蛾舎泰造をくだした直後のことである。
 これに前後して、各々の戦いにも決着がついていた。

 弧斗羅美の拳による怒涛のラッシュにて、英円の爪が変じた斬馬刀が砕け折れ、その身が壁にめり込み沈んだ。
 尾白が化けた特殊コンテナに閉じ込められた四人の人造再生動物たちは、零号の電撃攻撃にてチリチリパーマとなったところで、室内に聞こえたのは「けふっ」
 たちまち密室内におっさんのゲップが充満した。

「おっと、こいつはとんだ粗相をば」

 だがこれはただのゲップではなかった。
 タバコのヤニと酒と、日頃の不摂生に加齢臭、マッド印の回復薬オジロミンCと天狗のゲロマズ秘薬が胃袋にて混ざり合って熟成されたもの。
 臭気センサーとかにかけたら、いきなりメーターが振り切れてレッドゾーンに突入するであろう、危険物である。
 そのせいでコンテナ内は絶望のガス室と化した。
 でもって動物は鼻が利くから、もう……。
 なんか、本当にごめん。

 コンテナの扉が開き、ようやく解放されたとき。
 好古、景親、重衡、為朝ら四人の若者たちは、目が虚ろにて、ふらふらだった。
 これに容赦なくトドメを差したのは、タエちゃんだった。

 かくして準決勝第二試合・場外戦は、チーム尾白探偵事務所の完全勝利に終わるかとおもわれたが、まさかのどんでん返しが最後の最後に待ち受けていた。
 それは……。

「うがぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!」

 絶叫にも似た雄叫びをあげたのは、洲本芽衣である。
 ふぅ、ふぅ、とイキリ立ち、鼻息荒く、目は充血してばっきばき。
 蛾舎泰造との激闘により、野生に目覚めたタヌキ娘は、完全にバーサーカーモードに入っていた。
 しかもただの暴走じゃない。
 狸是螺舞流武闘術、唯我独尊派生・蒼星を発動したままの状態でっ!
 そんなタヌキ娘が大暴れし、これを取り押さえ、どうにか落ちつかせるのに四苦八苦することになり、そのせいで尾白たちはズタボロになっていたのであった。

  ◇

 敵との戦いよりも、味方との戦いでひどい目に合った。
 という話を尾白から聞かされて、蛾舎泰造はくつくつ肩を震わせるも、傷に障ったもので「アイタタタ」となる。

「ぐぅ、いかん。腹の傷に響く。しかし、わしがのびている間にそんなことになっていたとはなぁ」

 と蛾舎泰造。
 でもってそんな手の付けられない暴れん坊タヌキ娘をどうやって止めたのかといえば、散々に苦労したあげくに、ぶちのめされたはずみでポロっと尾白のジャケットの内ポケットから零れた檄高カロリーバーミルクキャラメル味を見つけたとたんに、それを拾い食いしたらタヌキ娘が急に大人しくなったというから、呆れた話であろう。
 このくだらないオチに蛾舎泰造は我慢できずに笑い出し、またしてもうずくまって悶絶するハメになった。

 ひとしきり笑って、痛みに悶えて、涙を浮かべて。
 落ち着いた頃合いを見計らって尾白は尋ねる。

「なぁ、あんたなら、ウルの目的を知ってるんじゃないのか? もしも知っているんだったら教えてくれ。奴はいったい何をするつもりなんだ?」

 聚楽第の総帥ウル、謎多き人物が何を目論んで、こんな大袈裟な舞台を整えたのか。
 探偵の勘が告げている。
 この老オオカミ、蛾舎泰造ならば知っている、もしくは薄々勘づいているのではないかと。
 するとその勘は当たっていた。

「詳しいことはわしにもわからん。だが、あやつは言っていた。地球を浄化し青い空を取り戻す。そのために傾星の儀を執り行うと」

 なにやらぶっとんだワードが出てきたもので、尾白は目が点になった。


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