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998 がさ入れ
しおりを挟む尾白たちが英円、蛾舎泰造およびチームロストブラッドの面々と激突していた同刻。
地下施設内に侵入した毛玉たちとは、別行動をとっていた集団があった。
それは泣く動物も黙って震えてちびる、国税局八番課の面々である。
ヒトにアニマルに鬼に妖にと、現在混迷を深めている日ノ本の住民事情。
このことは世間一般にこそあまり知られてはいないが、さすがに国は状況を把握している。
そしてこの国の民には教育、就労、納税という三つの義務が課されている。
ぶっちゃけ教育と就労に関しては好きにしたらいい。
だがしかし! 納税の義務だけはきちんと守ってもらう。
というのが国としての確固たるスタンスである。
国としては相手が人間だろうが、動物だろうが、鬼だろうが、妖怪だろうか、宇宙人だろうが、幽霊だろうが、神だろうが、悪魔だろうが、関係ない。
払うモノさえきちんと払ってもらえるのであれば、異世界の大魔王とてウエルカム。
しかし根がチャランポランな毛玉どもは、その辺の意識がどうにも希薄なのだ。
「税金? 納税の義務? なにそれ? 知ったこっちゃねえよ。おれたちは自由だ。ちゃんちゃらおかしいぜ、バーカ、バーカ」
などという不遜な考えを持つ者も多い。
ちゃっかり公共サービスは利用するくせに、身銭を切るのは渋る。
そこで国税局八番課の出番となる。
人外どもの指導および徴収やら差し押さえを専門とする部署にて、対象が特殊であるがゆえに構成メンバーは全員が凄腕の陰陽師である。
とどのつまり国税局八番課とは、かつては国家運営を左右するほどの重要機関であった陰陽寮の成れの果てなのである。
◇
毛玉たちが暴れているのを尻目に、国税局八番課のメンバーらは地下施設内の立ち入り調査に着手する。
いわゆる抜き打ちのがさ入れだ。
「第一班は端末から引き出せるだけデータを引き出してください。第二班は資金および物流の流れの把握を急いで。第三班は引き続き差し押さえられそうな品のピックアップを……」
現場にて指揮をとっていたのは、死んだアジのような目をした小柄な女性だ。
彼女の名前は車屋千鶴。
やっかいな地域である畿内を担当する係官で、それゆえに高月にもちょくちょく顔を出しており、尾白四伯とは顔なじみである。
というか尾白は、やたらと怪異に好かれる体質らしくて、あまりにも引きがいいから、たまに疑似餌代わりに利用している間柄だったりもする。
車屋千鶴という女、見かけこそは美少年っぽく華奢なのだが腕はたしか。やることなすこと過激にて、徹底しており、容赦がない。
もしも逃げようものならば、地獄の果てまで追いかけていき、捕まえては、尻の毛まで毟り取る。
そんな車屋千鶴、どさくさにまぎれて聚楽第の陰謀を……。
ではなくて、財政状況および金品の流れやら、方々との黒い繋がりなどを根こそぎ漁るべく動いていた。
もちろん、一円でも多く納税額をあげるために。
ぷるるるるる……。
自分のスマートフォンが震えたもので、すぐに車屋千鶴は電話にでた。
相手は上司である課長の賀茂勇魚であった。
「どんな調子だ?」
「こちらはそこそこの収獲です。尾白さんたちが暴れてくれているので、連中の注意がそちらに向いているから楽なもんですよ。そっちこそ、どうなんです?」
「動物界はすでに動いている。鬼どもの協力はとりつけた。天狗の方もどうにかなりそうだ。いまは避難誘導が本格化している。それでこれは白の女王からの伝言だ。『死にたくなければ、いそいでこの地を離れろ』とのことだ。だから適当なところで切り上げて引きあげろ」
白の女王、鬼族を統べる七宝院白瑠璃。
彼女は「君臨すれども統治はせず」を掲げており、めったに人前には姿をあらわさず、基本的には鬼たちの好きにやらせている。人間社会とも必要以上に関わらず、距離を置いている。
そんな白の女王がわざわざこの地に足を運んだ。それも一族の主だった者たちを引き連れてである。
同じ大物でも浮かれポンチの金剛九尾・戸隠呉羽とはちがって、たんなる物見遊山なんぞではありえない。
「わかりました。様子を見つつ、作業を切り上げ撤収します」
そう言って車屋千鶴は上司との電話を切ったところで、足下がぐらり。
地下施設全体がずしんと揺れて、天井からぱらぱらと埃が降ってきた。
相当に暴れているらしく、激しい戦闘の余波がこちらにまで伝わってきている。だが、それだけとは思えない不穏な微震もずっと続いている。
スマートフォンをいじる車屋千鶴は電話をかけた。相手は尾白四伯である。
「まんざら知らない仲でなし。いちおう報せておいてあげましょう」
との親切心から。
でも、コール音が鳴るばかりでなかなか繋がらない。
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