おじろよんぱく、何者?

月芝

文字の大きさ
1,004 / 1,029

1004 ロープマジック

しおりを挟む
 
 戦いのさなかだというのにグダグダと。
 零号はいつになく饒舌であった。
 よもやこの緊迫した場面で「もっと紙の本を読め」と説教されるとはおもわなかったシリウスは「なにを!」と反感を募らせる。
 だが、その時になってシリウスはようやくあることに気がついた。
 零号の身が少し傾いでいる。右半身をやや引いて斜に構えており、メイド服の袖が不自然に揺れていた。
 よくよく見てみれば右腕の肘から先が見当たらずに、中身のない袖がひらひらと。
 あの体勢はそんな無様な姿を自分から隠すため?
 でもいったい何のために?
 シリウスが内心で訝しんでいると聞こえてきたのが――。

 シュルシュルシュルシュル……。

 足下で何かが擦れる音がして、はっ!
 見れば自分の周囲の床に投げ出されるようにして、だらりとたれていたワイヤーが急速に巻き上げられており、それによってみるみる輪が狭まっていくではないか。
 ワイヤーは零号の腕からのびており、輪の中心にはシリウスがいた。

 シリウスのロケットパンチは、無線タイプである。
 しかし零号のロケットパンチは、ワイヤーにて繋がれた有線タイプとなっている。
 リモコン操作により自在に飛ばせるシリウスのロケットパンチは、ちゃんと自動制御で戻ってくるから、回収の手間いらずでとっても便利だ。
 けれども技術的に劣るワイヤー式にもメリットがある。
 ウインチとして物を牽引したり引き寄せたりと、日常においては使い勝手がいい。

 先ほど互いにロケットパンチを打ち合ったとき。
 零号はあえて右腕を巻き戻さずに残しておいたのは、シリウスを絡め捕るためである。
 そして柄にもなくやたらと説教臭い長口上をあえてやってみせたのは、シリウスの注意を床に張った「くくり罠」からそらすためであった。
 イノシシやシカをはじめとした野生鳥獣を捕獲するのに、よく使われるのが「くくり罠」である。原理は簡単、獣の足などをワイヤーやロープで作った輪っかで引っかけてくくるというもの。

 ギュルギュルギュルギュル!

 猛然と動くワイヤー、このままでは輪が縮まって縛られてしまう。
 そこでシリウスはビームサーベルを閃かせて、斬っ。
 うねるワイヤーを切断する。

「ははは、造作もない。これで……って、な、なんだとっ!」

 断ち切り罠を破ったはずなのに、ワイヤーはいまだ健在であった。
 種明かしをすれば、簡単な手品である。
 固く結んだのがするりと抜けたり、ハサミでちょん切ったのがくっついていたり。
 ロープマジックの初歩の初歩、ちょっとした宴会芸である。
 以前に、商店街の新年会の席にて商会長が隠し芸として披露していたのを、零号はちょいと拝借した次第。

 種もしかけもあるペテン。
 けれども知らない者からすれば「?」と首を傾げるばかり。
 あとになって冷静に考えてみればわかることも、焦っているときには気づけないもの。
 高性能な演算能力を誇るシリウスの電子脳は、すぐにトリックに気がついた。
 だがそのトリックの解答へと思い至るまでに生じたコンマ数秒が命取りとなる。
 ついに輪がぎゅっと締まって、両足首を縛られてしまった。
 シリウスは背中のブースターを起動させて強引に逃れようとするも、それよりも先にグイっと引かれたもので、バランスを崩して倒されてしまう。
 かとおもえば、その身がいきなり大きく跳ね上がった。
 零号によるシリウスの一本釣りである。

 いっきに手繰り寄せられたシリウス、これを待ち受けていたのは零号の左の拳。
 両足をひろく開き、やや腰を落としては、溜めを作っての姿勢より放たれた渾身の拳がカウンター気味にシリウスの横っ面へと炸裂する。
 瞬間、シリウスが声にならない悲鳴をあげた。

 ズドンッ!

 とてつもなく重たい衝撃によりフロア全体が打ち震える。
 半壊するネコ頭、きりもみしながらシリウスが吹き飛んでいく。
 びぃんと張ったワイヤーが耐えきれずにぶちりと切れた。
 シリウスのカラダは激しく回転しながら床にぶつかりバウンドしては、奥の壁に激突するもまだ止まらず。上方へと跳ねては天井へとめり込み、そして床へと落下した。さらにはそのうえに大きな瓦礫が降ってきて下敷きとなった。

 これでようやく決着かとおもわれたが、右腕を失った零号はいまだ戦闘態勢を解いておらず、妹機が埋もれている瓦礫の山をじっと見つめていた。


しおりを挟む
感想 610

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

古道具屋・伯天堂、千花の細腕繁盛記

月芝
キャラ文芸
明治は文明開化の頃より代を重ねている、由緒正しき古道具屋『伯天堂』 でも店を切り盛りしているのは、女子高生!? 九坂家の末っ子・千花であった。 なにせ家族がちっとも頼りにならない! 祖父、父、母、姉、兄、みんながみんな放浪癖の持ち主にて。 あっちをフラフラ、こっちをフラフラ、風の向くまま気の向くまま。 ようやく帰ってきたとおもったら、じきにまたいなくなっている。 そんな家族を見て育った千花は「こいつらダメだ。私がしっかりしなくちゃ」と 店と家を守る決意をした。 けれどもこの店が……、というか扱っている商材の中に、ときおり珍妙な品が混じっているのが困り物。 類が友を呼ぶのか、はたまた千花の運が悪いのか。 ちょいちょちトラブルに見舞われる伯天堂。 そのたびに奔走する千花だが、じつは彼女と九坂の家にも秘密があって…… 祖先の因果が子孫に祟る? あるいは天恵か? 千花の細腕繁盛記。 いらっしゃいませ、珍品奇品、逸品から掘り出し物まで選り取りみどり。 伯天堂へようこそ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

処理中です...