剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?六本目っ!不帰の嶮、禁忌の台地からの呼び声。

月芝

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037 算段

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 その夜はひさしぶりに家族いっしょに寝た。

 夜明けよりもずいぶん前に起きたわたしは、しばし妹の寝顔をたんのうしてからこっそり寝床を抜け出す。
 自室にて荷造り。愛用の背負い袋にワガハイの鉢、ヌシさまとの連絡用の宝珠、ハウエイさんの薬包やサンタにもらった丸薬の入った巾着などをせっせとつめる。
 白銀のスコップ姿のミヤビ、折りたたみ式の漆黒の草刈り鎌姿のアン、金づち姿のツツミらが収まっている帯革をしっかり装着し、ムギとベニオである赤い紐飾りのついた麦わら帽子をかぶろうとしたところで、ふとあることを思いつく。
 ムギの収納空間からゴロゴロと放出したのは北の異界にて手に入れたお土産類。宝石やら金銀が含まれた鉱物を大量に床へとぶちまける。

「なにはともあれ先立つものがないとね」

 つぶやきながら「いざというときに役立ててください。チヨコ」と一筆したため、自室の扉のところにペタっと貼っておく。

 身支度を整えたところで外へ。
 畑と花壇を見てまわってから家の正面に立つ。
 生まれ育った我が家を眺めていたら、唐突に玄関の扉が開いた。
 姿を見せたのは父タケヒコ。

「もう行くのか」
「うん」

 うなづくわたし。その頭に父がポンと手をのせる。
 ごつごつした大きな手だ。働き者で、とっても頼りになって、すごく強くて、かっこよくて、わたしの自慢のお父さん。

「そうか……、こっちのことは心配いらない。母さんもカノンも、里もお父さんが守る。だからチヨコは存分にやりなさい。ただし、必ず無事に戻ってくること。いいね?」

 その言葉にわたしはニカっと笑う。

「もちろんそのつもりだよ。じゃあ、行ってきます」

 元気よく答え、わたしは父に見送られて聖都へと向かった。

  ◇

 アンが造り出した転移空間。
 足下に出現する光の線は進むべき経路を示している。
 これを外れると次元の狭間を彷徨うことになるから注意が必要。
 光の線に沿って飛ぶ白銀の大剣。
 わたしはミヤビに乗剣して一路、聖都の宮廷奥にある第三妃キキョウの離宮を目指す。

 約束の刻限よりも少しばかり早く到着した。
 にもかかわらず、待ち合わせ場所にはすでにキキョウさまたちの姿があった。
 空間を裂いて出現するわたし。この光景を見慣れているカルタさんたちは、平然と受け入れてくれたけど、はじめて目にするキキョウさまは「まぁ」と驚きを隠せない。
 そんなキキョウさまの隣には、先日はいなかった第一皇女イチカさまの姿もあった。
 挨拶もそこそこに、段取りを説明するケイテン。

 まずイチカさまが母の名代として皇(スメラギ)さまへのご機嫌伺いへとおもむく。カルタさんも同行する。
 じつはこれって皇さまが幽閉されてから、ちょくちょく行われていたこと。
 しかしながら本日はいつもよりずっと早い時間に動く。それでもって意味深な文の束などを持って。だがしかし、手紙の中身はどうでもいい内容ばかり。
 宮廷内に潜んでいるであろう軍部や教会の手の者の目を引きつけるのが狙い。
 ふだんとはちがう動きというものは、けっこう目立つし、疑り深い人間ほど気になるもの。陽動というほどではないが、ちょっとした攪乱、もしくはイタズラ。

 一方でイシャルさまにはいつも通りの行動をとってもらう。
 つねに監視にさらされているというイシャルさま。ものすごーく警戒されているという。なにせ国一番の賢人だもの。
 星読みという立場は特殊だ。代々相談役として知によって主上を支えつつ、権力などからは明確に距離を置いてきた。求めに応じて必要なときに必要なことしか口にしない。それゆえに保たれた清廉と厳格さ。
 発言の重み、その影響力を二人の皇子たちも恐れているということ。かといって無闇に害さないのは、有用性をも認めているから。
 本来であればごく一部の者にしか立ち入りが許されていない星拾いの塔。その内部でも例外はなく、監視の目は光っているという。
 これをかいくぐっての接触はちとムズカシイ。
 唯一狙えるとしたら、イシャルさまが塔内の書斎にてこもっている時。
 それでも部屋の出入り口の内と外には見張りが立ち、絶えずその者らの視線にさらされることになるのだが、ここならばわずかながらに死角が生じるという。
 この書斎にわたしは立ち入ったことがないけれども、使いとして何度か単独で訪問しているアンが知っているから転移するのには問題ない。
 あとは賢人の知恵を借りて、戦を止め事態を打開する豊策を授かる。
 という算段。

  ◇

 説明を聞いてわたしはぼそり。

「なんか地味だね。もっと『女隠密、華麗に参上!』とかさせられるのかと思っていたのに」

 するとケイテンが「あのねえ、チヨコちゃん」とタメ息まじりに言った。「潜入とかの裏方仕事なんて九割方が下調べなのよ。敵方にバレるのなんて論外。一切の痕跡を残さずに、気づかせない、悟らせないのが当たり前なんだから」

 さすがは影として闇に身を置き活動を続けてきた三十路、説得力がちがうぜ。伊達に婚期は逃していない。
 なんぞとわたしがフムフム感心していたら、むんずとケイテンに肩を掴まれた。

「ねえ、チヨコちゃん。いまものすごーく失礼なことを考えてなかった?」

 喰い込む指先にて、鎖骨まわりがみしみしり。
 わたしはあわてて全力で首を横にぶんぶん。


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