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15 腹八分
しおりを挟む下校時に、「けふっ」と可愛らしいゲップをこぼしたのは、ミヨちゃん。
性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っている小学二年生。ただいま給食当番が多めに盛ったシチューにて、お腹がぱんぱん。ちょっと苦しい女の子。
どうしてそんなことになったのかというと、よそってもらう順番が一番最後になったから。ちゅうとはんぱに残っていた分を、ぜんぶ器に入れられてしまったのだ。
わりと押しに弱い彼女は、断ることができなかったのである。
一緒に暮らしている祖母の薫陶よろしく、食べ物を粗末に扱うを良しとしないミヨちゃんは、頑張ってすべて平らげた。そのムリがたたっているのである。
そんな友達を心配そうに見つめているのはヒニクちゃん。
自他共に認める無口な能面女子。彼女も多く盛りつけられそうになったのだが、そこはきっぱり断った。無言にてノーと手をかざされては、給食当番も無理強いはできない。
胃の中身が集団で大脱走! とかされても困るので、公園に立ち寄り、休憩することにした二人。
木陰にあるベンチにて、しばらく、ぼへーと過ごす。
やわらかな膝枕に頭を預けて体を休めるミヨちゃん。
体温にてほんのりと温かくなるヒニクちゃんの太もも。
そよそよと心地よい風が吹く。
陽気のせいか、ヒニクちゃんがちょっと、うつらうつら。
「あっ!」叫んだミヨちゃん。
いきなりガバっと起き上がった。
それにビクリとなるヒニクちゃん。
「すっかりわすれてた。わたし、お腹のクスリもってたんだ」
ランドセルの中をガサゴソと漁るミヨちゃん。
お母さんが、もしものとき用にと持たせていた漢方系の胃腸薬の小袋をとりだし、にぱっと笑う。その拍子に小さな八重歯が顔をのぞかせた。
公園の水道水で薬を飲んだミヨちゃんが、独特の風味に顔をしかめる。
「そういえば、おばあちゃんが、食事のたんびにボヤいてるんだあ。『こんなに薬ばかり飲んでたら、かえって気分が悪くなる』って」
手の平いっぱいのカプセルやら錠剤やらを飲んでいると聞いて、ヒニクちゃんも眉間にしわをよせる。
「おクスリだけでお腹がいっぱいになっちゃうよ」とミヨちゃん。
これに同意してコクコクと頷くヒニクちゃん。
と、ここで筋金入りの無口女であるヒニクちゃんが、ようやく口を開いた。
「クスリはリスク」
「リスクってなに?」
「きけん」
良薬も過ぎれば毒となる。
医者によって考え方はまちまち。患者はどれを信じればいいの?
でもどんな名医も最後には必ず、適度な運動、適度な食事、適度な睡眠を勧めると思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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