ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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40 骨董

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 近所の神社の境内では、三ヶ月に一度、週末に青空骨董市が開かれている。
 規模もしれており、一般人を相手にしている商売なので、並んでいる品の価格はわりとお手頃。さすがに驚くようなお宝が埋もれているというようなことはない。売り手だって、そこまで間抜けではないので。
 だがそれでも熱心にガサゴソと漁ってしまうのが、素人好事家の悲しいところ。
 まるで周囲の客と競い合うようにして、店先の品を手にとっては唸っている。それがわかっていて面白がって煽る店主たち。
 おかげで市は、毎回そこそこ賑わっている。
 そこにお邪魔しているのは、おばあちゃんに連れられた小学生の孫娘とその友達。

 孫たちが物珍しげに、骨董品を眺めているのを横目に、祖母は馴染みの店主と世間話に興じていた。
 店主とは亭主が元気だった頃からの知り合い。ほどほどに骨董を趣味としていた夫の、遺品整理の際にも世話になった縁がある。

「これ、かわいいー」

 はしゃぐミヨちゃん。手にした湯飲みの表面には、淡いピンクの地に長い耳のうさぎが、月をみてピョンと跳ねている。現代作家の作品にて価格はワンコイン。
 よほど気に入ったのか、上目遣いにて祖母におねだり。

「しょうがないねぇ。大事にするんだよ」

 あっさり孫に陥落されて買い与えるおばあちゃん。まだまだかくしゃくとしており、色んなサークル活動に奔走する彼女は、普段はあまり家に居ない。だからたまに一緒に出かけると、孫のためについつい財布の紐も緩みがち。

「あんたも何か気に入ったのがあったらいいな」

 孫娘の友達にも、そう声をかける祖母。
 するとヒニクちゃんが手にしたのは一枚の小皿。
 濃い紺地に白銀の点が散りばめられた柄。一見すると地味なのだが、ちょっと傾けて眺めると、さながら夜空に浮かぶ天の川のように映る。こちらも現代作家の作品にて価格はワンコイン。
 その品を選んだのを見ていた店主が「ほぅ」と感心する。

「嬢ちゃんはお目が高い。そいつを作った奴はまだまだ駆け出しだが、確かに光るもんがある。いずれは来る! とオレも睨んでいる」
「うぉー、すごい」
「あんたやるねぇ。店主、こいつも頼むよ」

 三人に褒めらえれて、ちょっぴり頬を赤くするヒニクちゃん。「ありがとう」と控えめな声にて、おばあちゃんにお礼を述べた。

 骨董市からの帰り道。
 かわいい湯飲みを買ってもらい、ご機嫌のミヨちゃん。新聞紙に包まれた品を手に、はしゃいでおり、少し危なっかしい。
 隣にいるヒニクちゃんは、転びやしないかと内心でヒヤヒヤ。その手には小皿の入った包みがしっかりと握られている。

「あのジジイは、ああ見えてけっこうな愛妻家なんだよ。若い連中の作品を扱うのも、カミさんが勧めたのがキッカケだったはずさ」

 おばあちゃんが店主について、そんなことを口にする。「顔はごうつくなクセして」と一人くつくつ笑う。
 これを聞いたミヨちゃんが「ステキ!」と素直に褒める。
 だがおもむろに口を開いたヒニクちゃんは、こう言った。

「根っからの骨董屋」

 古いモノを大切にして、価値を見出すのが骨董の世界。
 妻も大事にすると、じきに味のある古女房。
 でも本当に観る眼があるのは、きっと奥さんだと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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