ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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75 煩悩

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 むかしむかし、あるところに兄弟がおりました。
 弟は貧しくとも心優しく信心深かったのですが、兄は裕福なのにケチでごうつくばり。
 あるとき旅のお坊さまを助けた弟は、苗木を一本、もらいました。

「朝夕、お経を唱えながら世話をすると、きっといいことがあるから」

 言いつけを守り、大切に苗木を育てる弟。
 じきに大人の腰ほどの大きさに成長する。枝葉もずいぶんとのびた。
 と思ったら、そよ風に揺られて、はらりはらりと落ちた葉が、地面に届くやいなや黄金色の小判にかわってしまった! おかげで弟の家はすっかり裕福になったとさ。

 さて、この話を耳にした兄は、どうしても、その金のなる木が欲しくてしようがない。
 そこで弟の人の良さにつけこんで、これを奪ってしまう。
 自分の家の裏庭に植えなおした木を眺めて、しめしめとほくそ笑む兄。
 しかし風が吹こうが、雨が降ろうが、いっこうに葉が落ちぬ。葉が落ちないから小判も出てこない。試しに葉をブチリとちぎって地面にまいてみたが、何も起きない。
 怒った兄は、木をゲシゲシと蹴った。
 細い幹が揺れて、葉がバラバラと散る。
 すると地面に落ちた葉が、とたんに白いネズミにかわってしまった!
 ネズミが「ちゅう」とひと鳴きすると、ポンと一匹が二匹に、二匹が四匹に、といった具合に増えて、あっという間に、ものスゴイ数となる。
 大群となったネズミは、流れとなって兄の体を呑み込み、その屋敷や田畑、持ち物すべてをも呑み込んでしまった。

 絵本を読み終え、最後のページに書かれていたシーンに、しかめっ面をしたのはミヨちゃん。今日は仲良しのヒニクちゃんと、最寄りの図書館に来ている。
 さきほどまで彼女が読んでいたのは、郷土に伝わる昔話を絵本にしたもの。
 近くにある神社のご神木の由来らしいのだが、ラストシーンがなかなか過激。
 文章では「呑み込んでしまった」とだけ書かれてあるが、絵のほうでは、更地に転がる兄のしゃれこうべにて、物語が終わっていたのである。
 つまりケチな兄は、欲をかいたせいで、ネズミに生きながらボリボリ喰われるという、悲惨な最期を遂げたというわけ。

「……なんか、おっかない。ふつうは心をいれかえたお兄ちゃんが弟と仲直りして、めでたしめでたし。じゃないのかなぁ」とミヨちゃん。ヒニクちゃんもコクコクうなずいて同意する。

「でも、カネのなる木かぁ。もしもあったら、欲しいマンガがいっぱい買えるね。お菓子もコロッケも食べほうだいだよ。ブルジョアだよ」

 ミヨちゃんが頭の中で、ぽわぽわと妄想の翼をはためかせていると、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「ある。カネのなる木」
「えっ! 本当?」

 ミヨちゃんに急かされて、ヒニクちゃんが案内したのは、図書館から五分と離れていないところにあるお寺の鐘つき堂、の鐘をつく棒のところ。正しくは橦木(しゅもく)という。
 ごぉーん、と鳴る釣り鐘を前に、ミヨちゃん「えー」

 お寺の梵鐘(ぼんしょう)の役目は、時刻を報せたり、修行の手助けをしたりと、いろいろ。
 音色は煩悩を遠ざけ、響きを耳にすると、功徳を積むとも云われているわ。
 実際にお寺に富も運んでいるし、あながち的ハズレとも思えないの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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