ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

82 ゆるキャラ

　
　機械でできたキリンみたいなショベルカーが、長い首を上下するたびに、バキバキと激しい音がして、壁が剥がれ、あらわとなる内部。
　通学路の途中にある、青い瓦屋根の築五十年近い、古い木造アパート。
　薄いドアと土壁、すりガラスの窓、赤錆びだらけの階段と手すり……。
　いまどき、ドラマぐらいでしかお目にかかることがない、レトロな造り。だがついに寄る年波には勝てずに、このたび建て直しが決まった。
　ちょうど下校時間に、解体作業が行われていたのだが、これに子どもたちが喰いついた。警備員が設けた柵の向こうから、迫力ある破壊活動に大はしゃぎ。
　ちびっ子たちからのまさかの歓声や声援に、ムキムキの作業員たちが照れている。
　そんな様子を、一緒になって見物していたのは二人の女の子。

　性格の良さが災いして、なにかと級友たちからは雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているミヨちゃん。
　クラスでも無愛想で通っているのだが、ここぞという時に、あまりにも辛辣な毒を吐くので、級友たちのみならず、先生たちからも密かに恐れられているヒニクちゃん。

「こんどはマンションになるんだって。それで一階にはコンビニができるって聞いたよ」

　素直な性格と愛くるしい笑顔にて、近在のお年寄りたちから絶大な支持を得ているミヨちゃんが、そちらの筋から仕入れた情報を披露する。
　ミヨちゃんがクッキー缶にて保管している名刺コレクション。一人が渡したのをきっかけに「わしも、わたしも」ともらっているうちに集まったもの。当人はカード集めの延長ぐらいにしか思っていないのだが、出すところに出せば、トンデモナイ威力を発揮することを、まだ誰も気づいていない。たかが幼女のネットワークと侮るなかれ。

「そうそう。コンビニっていえばねぇ……」

　ミヨちゃんのところには、二人の兄がいる。長男のヒロ兄は大学生。
　昔から学業が優秀らしく、研究職を目指し、大学院へと進む予定なのだが、この兄がとあるコンビニへと行ったときのこと。
　そのときは、実験室に数日ほどこもっていたせいで、わりと薄汚れた格好をしていた。ヨレヨレのシャツに、しわだらけのズボン、髪だってぼさぼさ、無精ひげも生えており、目の下にはクマができている。夜中にうろついていたら、お巡りさんに呼び止められてもしようがない程度のボロ具合。
　そんな客に対して、コンビニ店員の応対は最悪だった。客を客とも考えぬ横柄な態度に終始し、妹のこと以外では感情を露わにすることのない、ヒロ兄を憤慨させる。さすがに店先にて怒鳴るような真似はしなかったが、かなり気分を害した。
　こんなことがあった数日後。今度はきちんとしたスーツ姿にて来店する。教授の学会に助手としてお供するために、きちんとおめかししていたのだ。
　商品を手にレジに向かうと、あの時の店員。
　以前のことが脳裏をよぎり、ムッとするヒロ兄。だが今度は、一転してへりくだった対応に終始するではないか。つまり店員は客を見た目で判断して、態度をコロコロと変えていたのである。これにはヒロ兄、内心で盛大にイラついた。「二度と来るか！　こんな店」
　自宅に戻ってから、可愛い妹を膝の上にのせてグチることで、なんとかささくれた心を慰めた兄。
　と、いった話。

「やっぱり見た目って、だいじなのかなぁ」

　バキバキと壊れていくアパートの音をＢＧＭに、ミヨちゃんが小首を傾げる。その拍子にキャラメル色のくせっ毛のはしが、ピコンとはねた。
　すると長らく閉じられていたヒニクちゃんが、おもむろに口を開く。

「ゆるキャラ、中身はたいていオッサン」

　服、靴、腕時計、髪型、身だしなみ……。
　判断する基準は人それぞれ。
　着ぐるみだって、中身より外見に価値があると思うの
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。