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94 定番
しおりを挟むピンクのカーテンやカーペット、ベッドは半分ぬいぐるみたちに占拠されている。
ここはヤマダ宅のミヨちゃんの自室。
三人兄妹なのに、一番下の彼女が小学二年生にして、部屋をあてがわれているのには理由がある。
ヤマダ家の住宅事情にて、子どもらに融通できる部屋は二部屋。
両親としては、年頃の兄たちに、それぞれ部屋を与えて、いずれどちらかが空けば、ミヨちゃんに与えるつもりであったのだ。
だがそこで問題が生じた。
二人の兄は、揃ってかなり重度のシスコン。
どちらが妹と相部屋にするかで、かつてないほどの大げんかをやらかす。これにキレたおばあちゃんの采配にて、野郎どもをひとまとめにすることとなった。
で、残った部屋がミヨちゃんの自室となる。
今日は、お部屋でだらだらとマンガを読み耽る、ミヨちゃんとヒニクちゃん。
近所のお姉さんからもらった大長編を、二人してやっつけているところ。連載うん十年を経て、まだ連載が続いているレジェンド級の作品。
年代ごとにかわる絵柄、難しい言い回しと意味深な台詞、長編ゆえにたまに出てくる「誰だっけコレ」現象などに苦戦しつつも、真摯に作品と向き合っているミヨちゃん。まるで受験生のごとく机にかじりついて、コミックのページをめくっている。
それに比べてヒニクちゃんはベッドに身を投げ出し、ページをパラパラ。面白いのは面白いのだが、長編ゆえの中だるみや、話の脱線の多さに、ちょっとゲンナリ。
「むかしってスゴイね。こんな不良とかいたんだ」
物語の主要キャラの男子。ケンカっ早くてぶっきらぼう。だけど容姿はよくて、実は頭も良くって、いろんな才能に溢れている。
はっきり言って、コレでグレるのならば、世の凡人どもなんぞ、みんなグレてるだろうに。と思えるような登場人物。これがマジメなヒロインとなんやかやあって、更生していくのだが、しかし様々な因縁がそれを邪魔する、みたいな展開。
木刀、鉄パイプ、チェーンにカミソリ、なかには刃物までちらつかせる不良ども。それが校内外で大暴れ。
「でも、そのわりに、みんな学校にはちゃんと来るんだ……。ツンデレさんなのかな」
言われてみればもっともな疑問を、ミヨちゃんがぼそり。
これに「ぶふっ」と吹き出すヒニクちゃん。よほどツボに入ったのか、ぬいぐるみに顔をうずめて、ぷるぷる肩を震わし笑いを堪えている。
これは非常に珍しい。なにせ彼女は自他共に認める極端に無口な性質にて、めったに感情を表には出さない子なのだから。
そんな彼女がようやく笑いが納まったところで、おもむろに口を開いた。
「繋がりを欲するは人の性(さが)」
悪い人と良い人がつき合って、良い人になれば、それは良縁。
良い人と悪い人がつき合って、悪い人になれば、それは悪縁。
でも人と人が出会う確率を考えれば、ぜんぶ奇縁の類だと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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