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120 パンダ
しおりを挟む突然の怒号に、ファーストフードの店内は騒然となった。
茶髪にピアスの男が、小麦色の肌をしたコギャル風の女を口汚く罵っている。
どうやら痴情のもつれのようだが、男のあまりの剣幕に押されて、他の客達は、ただ遠巻きに様子を見守ることしかできない。かけつけた店員もおろおろ。
責め立てる男と、ひたすら謝る女。
聞こえてくる会話の端々から、どうやら騒動の原因は女の浮気にあるようだが……。
まわりの迷惑を一向にかえりみない痴話ゲンカを、遠巻きに眺めながら、甘いシェイクに舌鼓を打つ二人の女の子。
ストロベリー味のシェイクを美味しそうに飲んでいたのは、生来の性格の良さが災いしてか、なにかと級友たちから雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているミヨちゃん。好きな果物はと尋ねられれば、即答で「いちご」と答えるほどの、大のいちご好き。ゆえにシェイクは、いつもストロベリー味、一択である小学二年生。
そんなミヨちゃんの隣で、バニラ味のシェイクをすすりながら、モメているカップルに冷ややかな視線を送っていたのは、クラスでも無愛想で通っているのだが、ここぞという時に、あまりにも辛辣な毒を吐くので、級友たちのみならず、先生たちからも密かに恐れられているヒニクちゃん。
ここは駅前にあるハンバーガー大手チェーンのお店。
本日はサービスデーにつき、通常二百円のシェイクが半額の百円。しかもクーポン割引と併用可能にて、二割引きの八十円にて飲めるとあって、おこづかいを握りしめてやってきた二人の幼女。
少女マンガ好きの影響か、他人の色恋に、わりと敏感なミヨちゃん。興奮を隠し切れずに興味津々。「あの二人、いったいどうなっちゃうんだろう」
だがヒニクちゃんは無言のまま、ズルズルと音を立てて、目の前のシェイクに集中。
彼女の無愛想ぶりは筋金入りなので、満足に受け答えをしてくれないのは、いつものこと。だから、とくに気にもせずに一方的に喋るミヨちゃん。これが二人の日常。
しばらくすると揉めていたカップルに進展があった。
それまで言いたい放題であった男のトーンが急に下がり、女の咽び泣く声が店内に響きだしたのだ。
「どうやらあのお姉さん、女の武器を使ったみたい」
その様子を見てミヨちゃんが、こう発したところで、おもむろにヒニクちゃんが閉じていた口を開く。
「女のひと雫に優るものなし」
でも残念ながら、女の涙ほど早く乾くモノもない。
フィルムタイプのマスカラが、涙や汗に強くてオススメ。
百年の恋も、パンダ目を前にしたら、冷めちゃうと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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