ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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122 飛翔

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 カキン、鋭い金属音とともに歓声が起こり、みなの視線は、ものスゴイ勢いで空へと舞い上がった、白球の行方に釘付けとなった……。

 本日は小学校の球技大会。
 晴天に恵まれ、絶好のスポーツ日和の下を元気に駆け回る子供たち。
 この小学校では代々、各学年ごとに参加する球技が決まっており、生徒たちは学年ごとに別れて、クラス対抗で競いあう。

 一二年生は、男の子と女の子が混合でキックベースボール。
 三四年生は、男の子はドッジボール。女の子はソフトボール。
 五六年生は、男の子はサッカー。女の子はバレーボールと定められていた。

 現在、グラウンドでは三年生たちのソフトボールの試合が行われている。
 その試合のスコアボードの得点差を見て、誰もが我が目を疑った。
 なぜなら、あまりにも一方的なゲーム展開であったから。
 圧倒的なまでのチカラの差を見せつけていたのは、地元の女子ソフトのチームに所属しているメンバーが6人もいて、そのうちの一人はアメリカ人の父親と日本人の母親を持つハーフの女の子。中学生かと見まがう容姿、同学年の子とは比べ物にならない体格の持ち主にて他を圧倒。しかも彼女は、チームではピッチャーで四番を務めるスゴイ選手でもあった。
 超強力打線を有するハーフの子が率いるクラスは、三年生の間ではダントツの優勝候補。
 かたやその強力打線に対して、毎回大量得点を許し、もはや敗色濃厚にて、すっかり意気消沈している対戦相手のクラス。
 外野のセンターポジションにて、両の腕を組み、能面のような無愛想っぷりで、淡々と試合の展開を見守りつつ、己の守るべき場所にて、威風堂々たる仁王立ちをしていたのはヒニクちゃん。
 どうして二年生の彼女が三年生に混じって、試合に参加しているのかというと、単なる人数合わせである。
 たまたま、いろんな不幸が重なった結果、半ば強引に巻き込まれた。

 カキン、という音がまた鳴った。
 同時に後方へと一目散に駆け出すヒニクちゃん。土埃を巻き上げながら八メートルほど疾走。クルっと振り向きざまに、グローブを持った左手を空へとのばし、勢いよく飛び上がる。
 パンッという乾いた音が響き、グローブの中に吸い込まれた白球。
 ホームラン性の当たりを確信し、ガッツポーズで一塁ベースを回ろうとしていた打者はハーフの子。その足がゆっくりと止まる。主審をしていた担当の先生は、信じられないといった表情を浮かべ、しばし言葉を忘れて立ち尽くす。
 好プレイに湧き立つ観客たち。
 その声に、はっと我に返ると、審判はすぐさまアウトを告げ、ようやくスリーアウト。
 長らく続いた一方的な攻撃の時間が、ついに終わった。
 これにてどうにか試合終了。
 改めて振り返ると散々な内容。教師たちが次回の大会より、コールド制の導入を真剣に検討するほどにズタボロの大敗。
 そんな試合の最優秀選手は、もちろんハーフの子。
 打てば、三打席連続ホームランという快挙。投げては、八打席連続奪三振という怪物ぶりを披露している。
 そんな怪物相手に、ただ一人クリーンヒットを打ったのはヒニクちゃん。そして四打席目のホームランを阻止したのも。

 互いに整列して最後の礼のときに、相手チームのハーフの子に、ひょいと抱きあげられたヒニクちゃん。

「あんた、ちっこいのにスゴイね。うちのチームに入りなよ。一緒に天下とろうぜ」

 ハーフはちゃきちゃきの江戸っ子風だった。どうやら日本ひいきな父親の影響らしい。
 これに黙って首を横にふるヒニクちゃん。うっかり体育会系なんぞに関わってしまっては、ミヨちゃんと過ごす貴重な時間が減る。そんな選択、彼女にはありえない。
 熱烈な勧誘がしばし続くも、時間切れ。「あたしは諦めないからなー」との言葉を残し、次の試合の場所へと向かうハーフの上級生。
 ヒニクちゃんはお役御免となったので、自分のクラスのいるところへと戻る。その道すがらにてボソリ。

「そもそもハーフとはなんぞや?」

 この世には、国産と外国産の二種類の人間しかいない。
 ルーツ、移民、歴史、その他もろもろ。過去より現在、今より未来が大切。
 強すぎる民族意識は、悲劇しか産まないと思うの。
 ……なんぞとコヒニクミコは考えている。


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