ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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131 憫笑

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 朝から激しく降り続ける雨。
 せっかくのお昼休みを教室の中で、ウツウツと過ごすハメになった子どもたち。
 はじめのうちは、みな恨めしそうに窓の外を眺めていたが、どんな時でも退屈を黙って享受しないのが、子どもという生き物。
 そのうちにクラスでも明るくてお調子モノの男の子が、人気の若手芸人たちのギャグをマネしだす。
 彼が何かをするたびに教室中に、笑い声が溢れていく。
 おかげで室内を覆っていた、どんよりとした重い空気は、次第に払拭されていったのだが……。

 こんな中にあって、他の子どもたちとはまったく違う反応を示していた、二人の女の子。
 一応、男の子のギャグに対して、愛想笑いを浮かべていたのは、性格の良さが災いしてか、なにかと級友たちから雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているミヨちゃん。いろいろと空気が読めるので、せっかくの場の雰囲気を壊さないようにと、最低限の社交辞令は欠かさない。でも本心では男の子の動作の何が面白いのかが、いまいち理解できていない。
 なぜならミヨちゃんは、一発ギャグのような使い捨ての瞬間芸よりも、古典落語のような、筋とひねりが効いたユーモアを好む女の子であったから。
 お年寄りキラーの異名を持つがゆえに、幼い頃よりそっち方面との交流が深かった影響にて、笑いにもすっかり渋くなった。
 そんなミヨちゃんの隣で、愛想笑いどころか、すべての感情を消し去った能面のような表情にて、鎮座していたのがヒニクちゃん。
 赤ん坊の頃から、お母さんが心配するぐらいに泣かなかった子は、とっても物静かに育った。おかげで両親ですら、愛娘が心の底から笑った顔をほとんど見たことがないというほどの、筋金入りの鉄面皮。
 ゆえに当然のごとく、男子どもの稚拙なモノマネ程度では、眉ひとつ動かすことはない。
 そんな二人の気持ちも知らないで、教室の笑いは遠慮なく続く。

「あれのなにが面白いのかな? よくわかんないや」

 やがて愛想笑いに疲れたミヨちゃんが、誰にも聞こえないような小さな声で、ポツリとつぶやくにあたって、おもむろにヒニクちゃんが閉じていた口を開く

「無理が通って道理が引っ込む。それが笑い」

 人はなぜ笑うのか。それは生きるのが苦しいから?
 笑う動物は人間だけ、ゆえにこれは人にだけ許された特権。
 優しさゆえ、それとも蔑み。貴方のその愛想笑いは、どちらなのかしら。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。

 ※憫笑(びんしょう)とは、冷たい・歓迎されない笑みを表す言葉。


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