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134 コンピューター
しおりを挟む世界に誇る高性能なスーパーコンピューターを有し、様々な研究分野で輝かしい功績をあげている施設。
そこに招かれて社会科見学へとやって来た子どもたち。
広大な敷地内にそびえ立つ巨大な建築物は、白を基調とした色で統一されており、まるでオシャレな美術館を彷彿とさせる佇まい。
それを間近にして、遠足気分ではしゃぐ子どもたちであったが、一歩、施設内へと足を踏み入れたとたんに、仁王像のように屈強な警備員たちの厳しい視線に出迎えられて、すっかり萎縮しておとなしくなる。
係の方の案内に従って、何重にも施されたセキュリティゲートを潜りぬけるにいたって、この場所が厳重に守られた難攻不落の要塞であることを知る子どもたち。
施設内を行き交う研究員たちは、みな染みひとつないパリっとした白衣に身を包み、一分一秒を惜しむかのように、黙々と己の作業に取り組んでいる。
その様子を子どもたちに見せながら案内係の人が、これらの研究がいかに世界に冠たるものであるかを得意げに説明してくれる。だが、あいにくと幼児たちにはチンプンカンプンであった。
そんな中にあって、ひたすら「すごいすごい」と驚嘆の声を連発していたのが、性格の良さが災いしてか、なにかと級友たちから雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているミヨちゃん。
もっとも彼女の関心事は、この施設や研究の内容というよりかは、先ほど見かけた女性研究員。ヒールの音をカツカツ鳴らしながら、白衣の裾をひるがえし颯爽と歩く姿に、幼心はガッチリわし掴み。
「……カッコイイ。できる女って感じがするね」
ミヨちゃんが声をかけたのは、クラスでも無愛想で通っているのだが、ここぞという時に、あまりにも辛辣な毒を吐くので、級友たちのみならず、先生たちからも密かに警戒されているヒニクちゃん。
ちなみに彼女の関心事は、のちほど施設の方からお土産として貰えるはずの、記念のクリアファイルとボールペンであった。
そうこうするうちに、各々の思惑を抱えたまま社会科見学は終盤を向かえ、ついにこの施設が誇る高性能なスーパーコンピューターを設置した部屋へと、子どもたちは案内される。
外気よりもかなりヒンヤリとした空調。部屋一面にずらりと陳列された、いくつもの大きな棚のような物体。
すべてコンピューターであると案内係の人に説明されて、処理速度が一秒間に10億だの、とんでもない演算能力だのを教えてもらい、ただただ驚くばかりの子どもたち。
カシャカシャとせわしない音を立てながら、働き続けるスーパーコンピューター。SFちっくな光景に、ミヨちゃんあんぐり。
やがて少し落ち着いたミヨちゃんが、タメ息まじりにつぶやく。
「コンピューターってスゴすぎ……。これじゃあ人は何をやってもかなわないかも」
自分の算数の成績をかんがみながら、人と機械のチカラの差をまざまざと見せつけられて、軽くへこむミヨちゃん。
しかしそこで、おもむろにヒニクちゃんが閉じていたその口を開く。
「勝てるモノ、ある」
この世でもっとも速いのは、コンピューターの処理能力でもなければ
音でも光でもない。それは何かを成すたびに、ポコンと湧く人の後悔。
あまりにも速すぎて、何人たりとも避けられないと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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