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140 とんち
しおりを挟む商店街にある雑貨屋。店内には雑多な品が溢れており、ごちゃごちゃしているものの、値段はどれも安く、お宝も転がっているので、客足が絶えることはない。
そこにお邪魔していたのは二人の女の子。
握りしめていた百円玉にて、折り紙を購入したのはミヨちゃん。
手に入れた品は、三百枚も入って、百円という破格の安さ。
だが、それには理由がある。
赤や青といった色がなくて、柄も無地、ぜんぶがぜんぶ真っ白。
見た目には、ただのデカいメモ用紙にしか見えない。おかげでずっと売れ残っていたのを、商品の山の奥から、たまたま発掘したミヨちゃん。
仕入れた当人も、存在を忘れるほどの古い品につき、値札も朽ちてとれてしまっている。一応は折り紙ってことになっているし、ここいらで子どもらに遊んでもらって、供養してやらねばと考えた老店主。えーい、もってけと、ワンコインにて手を打った。
「これでいっぱいシュリケンが作れるね」とミヨちゃん、ごきげん。
ただいま某局にて絶賛再放送中の、昔の時代劇にドはまりしているミヨちゃん。
製作された時代がおおらかだったのか、景気がよかったのかわからないが、とにかく演出が派手。毎回、特撮モノのような爆破シーンがあり、アクションも多め。血沸き肉躍る展開に幼女、大興奮。
とくに主要メンバーとして登場するクノイチ役に、もう夢中。女だてらに屋根から屋根へと飛び移り、侍相手に大立ち回り、ときには緊迫の死闘をも演じ、そして闇に紛れて姿を消す。そのクールな姿にすっかりシビれてしまったミヨちゃんは、せっせと折り紙にて手裏剣を増産する日々。
作中のクノイチは棒手裏剣を愛用しているのだが、これを真似て家の物置から長い釘を持ちだしたところ、お母さんに見つかって、しこたま怒られた。
泣きべそかいた末に辿りついた答えが、折り紙の手裏剣なのである。
すでにダンボール一杯もあるのだが、幼女はまだ満足していない。心の渇望のままに、今日も手裏剣を造り続けている。
そんな作業に黙ってつき従っているのはヒニクちゃん。自他共に認める無口な性質にて、たまに口を開けば飛び出すのは、ドキリとさせられる発言とあって、密かに周囲の注目を集めている子。
ブツを仕入れたことだし、さっさと自分の家に帰って、製作に入ろうと意気込むミヨちゃんに、コクンとうなづくヒニクちゃん。
商店街を通り抜け家路を急いでいると、ふと聞こえてきたのは魚屋さんの威勢のいい声。
「そこの奥さん、ちょっと見ていってよ。サバのいいのが入ったよ」
これを耳にしてミヨちゃん。「そういえば時代ゲキだと、細君って言うんだけど、あれって奥さんのことだよね」
思わぬ豆知識を披露する幼女。
すると急に肩が小刻みにふるえだしたヒニクちゃん。これは彼女が笑いをこらえているときの反応。それを知るミヨちゃん、今のやりとりの何処に、笑いの要素があったのかと小首をかしげる。
ヒニクちゃんが魚屋の方を指差し、ぼそり。
そこには恰幅のいいおばさんの姿が。
「太くても細君」
いい亭主になるには、いい女房をもらうこと。
いい女房になるには、いい亭主をもらうこと。
いいの部分が似て非なる双方の想い。若干の誤差があるのは、許容範囲なのかしら。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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