ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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148 人生

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 お酒も過ぎれば、毒になる。
 タバコは言わずもがな。しかも値上がりしまくりで、お財布にも大打撃。
 ギャンブルは、のめり込んだが最後、身を亡ぼす。
 興味本位にて、危ない薬物に手を出すなんて、論外。
 健全で健康な生活こそが、長寿に繋がる。

 なんて話を、生徒たちに聞かせていたのは、ヨーコ先生。
 小学二年生にするような話じゃない気もするが、上からのお達しでは従わざるおえない。なんでも昨今、犯罪や薬物依存などの低年齢化が深刻にて、小学校とて他人事ではないとのこと。幸いなことに当校では、まだそのような不祥事が発生していないが、だからとて油断はできない。そこで全校あげての、啓発を促す取り組みがなされている。

「せんせい! 言われた通りにしたら、百まで生きられる?」

 男子生徒の質問に、「そうですねぇ。長生きできる確率は、ぐっとあがりますね」と答えるヨーコ先生。
 まぁ、酒を飲もうが、タバコをガンガン吸おうが、生きる人は百まで生きるのだが、さすがにそんな野暮は口にしない先生。

 話を聞いた子らが「だったらタバコは吸わない」「オレは酒なんて飲まない」「百どころか二百まで生きてやる」「ボクは長生きして宇宙旅行に行くんだ」「ロボットできるかな?」「車は空を飛ぶみたいだよ」などと遥か未来に想いを馳せる。
 ただの健康の話から、おもいおもいの将来を夢見る子どもたち。
 おかげで教室は、やいやい賑やか。
 この様子に、とりあえず目的は達したかと、教壇にて目元を細めるヨーコ先生。

 そんな教室の片隅にて、長生きすること、健全なる生活などについて、真剣に考えていたのはミヨちゃん。難しい顔をして、うんうん唸るたびに、キャラメル色のくせっ毛のはしがチロチロ揺れる。
 隣の席にて、地蔵のように微動だにしていないのは、極端に無口な性質にて、能面女子なヒニクちゃん。先生の話を聞いて、いろいろと思うところはあるのだが、それをいちいち口に出したりはしない。

「お酒とタバコはダメ……。だったら、おばあちゃんや師匠も、ヤメたら、もっともっと長生きしてくれるのかなぁ」とミヨちゃん。

 どうやら彼女は我がことよりも、自分の周辺のお年寄りらについて、考えていたようである。ちなみに師匠とは、近所にすむ元芸者の三味線の先生のこと。老婦人ながらも、まだまだかくしゃくとしているが、一人暮らしなので、ちょっと心配なミヨちゃん。
 すると、ここでおもむろにヒニクちゃんが口を開く。

「老いは、一日にして成らず」

 いろいろガマンして、百まで生きるか。
 いろいろ楽しんで、八十ぐらいで往生するか。
 誰かに長生きして欲しいと思われる人生って、とってもステキだと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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